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ラブタームーラの魔法昆虫

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2021年8月の記事一覧

18.大きなブルドッグ

 このところ、とんと魔法昆虫の情報がなかった。それこそ、噂話すら聞かない。何か手がかりはないかと、タンポポ団は博物館へと行ってみることにした。
 中に入ると、来館客の中心で展示物の説明をしている館長を見つける。
「あれはステゴサウルス、そしてこっちがトリケラトプス。ステゴサウルスは1億5千万年前のジュラ紀に生息した恐竜で、互い違いに並んだ骨版が、まるで背びれのようにあるのが特徴なんですな。いっぽう

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17.雪の降った朝

 午後から降り始めた雪は夜になってもやむ気配がなく、ますます勢いを増していた。
 大人達は憂鬱そうに顔を曇らせ、子供達は大はしゃぎ。
「こりゃあ積もるぞっ」浩が歓声を上げる。
「明日は雪合戦ね」いつになく美奈子もそわそわ興奮していた。
「一応、手袋はしてくるように。しもやけはあとが大変ですからね」合理的な元之は注意を忘れない。
「この白い粉みたいなのが雪?」緑は空を見上げながら言った。長い睫毛に、

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16.冬のセミ

 ラブタームーラにも木枯らしが吹き始めるようになってきた。
 そんなある日、緑が耳に手を当てながら言う。
「お姉ちゃん、セミが鳴いているよ」
「まさか。だって、もう12月なのよ。とっくのとうに土の下で、今頃はぐっすり眠ってるわ」
 けれど、言われてみれば、かすかにミーンミーンと聞こえていた。
「あれってセミじゃないの?」緑は小首を傾げながら美奈子の顔を仰ぐ。
「そうねえ、セミの声よね。誰かがテレビ

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15.見えない赤ちゃん

 元之には妹がいた。生後8ヶ月で、江美利という名である。元之は江美利が可愛くてたまらず、よく抱っこしては「あぶぶぶぅ」とあやした。
 江美利のほうも元之が大好きで、抱かれるとうれしそうにキャッキャとうれしそうに笑う。
 元之は面倒もよく見た。母親の代わりにオムツを交換したり、ミルクを飲ませたりするのも億劫がらずにする。
 もし浩や美奈子がそんな様子を見たら、元之の意外な一面にびっくり仰天するに違い

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14.和久の憂うつ

 そもそも魔法昆虫を捕まえるために結成したタンポポ団だった。このところ、そのことも忘れかけ、半ば探検隊として活動することが多い。

「今日は『岩神様の洞窟に入ってみようか」浩が言い出した。
「えー、バチが当たるよう」そう弱音を吐くのは和久である。タンポポ団の中で一番の臆病者で、いつもしんがりを務めていた。
「ばかね、神様なんいるわけないじゃん」美奈子はばかにしたようにいい下す。
「そうですよ、和久

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