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蜘蛛の城裁判

1回目の裁判

内容は現在の役員を全て解任するための裁判だ。
勝手に法人化され、理事が登記されている以上
住人の意見が反映されることはない。
それが葛西に対抗する人間であればなおさらだ。

しかし、住人と対峙したくない葛西は前から
患っていた胃の手術をあえてこの日に合わせる事にした。
入院期間と裁判の日が重なるように調整する。
入院とあらばさすがの裁判所も無理やり連れだす事など
出来ないだろう。
そしてその後、葛西は延び延びになっていた総会の準備を
再び進めるのだった。

どうしても葛西はマンションの建て替えがしたかった。

理由

とにかく15階程度のマンションを建てたい。
別棟で3階建ての駐車場を作れば必ず
1戸1台駐車場を確保できる。
まず1フロアをどこかの会社の社宅としてすべて買い上げてもらい、1フロアを介護施設に買い上げてもらう。
ついでにあと1フロアを養護施設に買い上げてもらえば現在入居している5階建て分の人間をそのまま住まわせたとしても販売する残り7フロア分の収入で建替え費用と現在の居住者が建替え中に別場所に居住してもらう全てを賄う事が出来る。
そして、自分の収入も。

自分が一番に動くのだから収入を得るのは当たり前だ。

しかし、自分を邪魔する人間を排除しなくてはならない。
どうしたら良いのか。
彼等は独自に集まり、話をし、そして自分に反対する為、
現在は管理修繕費を払っていない。
とすればそれを理由に管理組合員の資格をはく奪する事は出来ないだろうか。
管理費滞納表から彼ら以外の名前を抜いて、どれだけ彼等が管理組合に迷惑をかけているか皆に示そう。

2回目の裁判。
本当は出るつもりだった。
出廷して、自分の正当性を訴えなくては。自分は正しいのだ。
マンションには確かにお金が無いかもしれない。でもそれは自分が悪いわけではないのだ。
自分を排除しようとして揉め事を起こす奴らが、マンションに住んでいて自分に迷惑をかけている奴らが悪いのだ。
そのマンションから損害金としてお金を貰って何が悪いのか。
屋上の工事も自分が受け取るはずの金銭から払ってやった。自分がしてやった。
それを訴えなくてはならない。

2回目の裁判

裁判の二日前。

突然水漏れが発生した。
原因は5階居住スペース。脱衣洗面所の床下配管の破損だ。経年劣化で痛んできたのもあるだろう。
その水が1階まで到達し、大問題となった。
ひとまず5階の住人には外から水道を止め、業者を呼ぶ。
居住者には別空部屋の鍵を渡しそこでトイレなど水を貰ってもらう。
業者は明後日にしか来れないという。どうするか。
自分の正当性を主張する日にしか来れない。仕方がない。
自分は正しいのだから裁判は別日にしても問題はないだろう。
今までだって自分の主張は認められてきたのだから。

葛西の欠点は『人の話を聞かない』所にある。
とにかく自分の主張はするが、興味のない人間の主張を聞くつもりはない。
平常の生活であれば厄介な偏屈爺だけで済むだろうが、
多くの人を巻き込むマンション運営となれば別だ。
他人の大切なお金を預かって運営する以上、所有者同志話し合いをしなければならない。
もちろん時には意見がぶつかり合う事だってあるだろう。
そして普通の人であればそれを敵意ある意見として受け取るのではなく
「この人はそういう考えなのだ」と考えをすり合わせていくのだろう。
葛西はそれが出来ない。せずに人とぶつかり合って生きてきた人生なのだ。
建替えをするのであれば当然説明も、意見交換もしなくてはならないだろう。だが、そこで自分に対する反論が出たらどうする。
それは自分に反対する邪魔な人間に過ぎない、
と葛西は考えるのだ。


そして、2回目の裁判も決着がつかないままとなった。

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