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蜘蛛の城 1

今年も蜘蛛の巣が嫌と言うほど張っている。
蜘蛛は益虫だと言うが、
それでもこんなに巣が張っているのはみっともない。
食料として捕らわれた小さな虫たちは無言のまま糸にぶら下がっている。
「気持ち悪いな」
そこに住む住人は頭頂に付かない様、少しかがんで通路を通り抜けた。

気味が悪いのであれば、たかが蜘蛛の巣だ。
取り除けばいいのだが誰もやらない。
それはただ虫が怖いからではなく、面倒くさいから、汚れるから、誰かがやれば良い事だからと思っているからだ。

一般的なマンションの運営は管理委託会社に頼むのが普通だと思っていたが、このマンションは、管理会社を入れずに管理をしているいわゆる『自主管理』マンションだった。

この建物は84世帯が入る地方の中規模マンションで、
元々は都心から来た人が軽井沢や湯沢に行くために拠点として使えるセカンドハウス目的として作られた。
その為、一戸の部屋数は少な目だ。
一般的な部屋ですらベランダに面した和室とリビングとして使える洋室。
それからその二部屋に繋がっているダイニングキッチンがあり、中扉を挟んで廊下と玄関の隣に洋室が一つ。
あとは標準設備のトイレと洗面所を兼ねた脱衣室とお風呂。
その為、リフォームをしない限り、夫婦のみか、伴侶を亡くした中高年が住むにはちょうど良い大きさだった。
勿論部屋の作りはあと2パターンあるが、1部屋多いか少ないかの違いでしかない。
東南を向いた部屋は日当たりが良く、洗濯物もよく乾いた。
東北を向いた部屋は午前中しか日が当たらない為、夏場は窓を開けていると比較的涼しい風が入ってくる。
地方のさだめか、建物の大きさに近い広さの駐車場がある為、マンションの規模はなかなか大きく見えた。

キッチンやお風呂の作りで時代を感じる部分はあったが、工夫して使えばそれなりに使える代物であった。
管理修繕費も1万円ちょっと。駐車場ありきの一軒家と比べると駐車料金はかかるものの、賃貸物件と比べても安く住めた。
あまり多くない給料で、身の丈に合った生活をするには十分だった。
だからこそ、あまり文句を言う人もいないし、面倒なことをする人もいない。
ちゃんと住めるのであればそこそこの管理さえしていてくれれば問題ない。
平凡で生きている人を食らう蜘蛛の城と化す事に、その時の住人は、気付けなかった。



フィクションを元にしたノンフィクションです。
まだまだ続きます。
大体1000文字前後で色々な問題を、何人かの住人目線で書いていくので、
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