【小説】星に恋して(Ⅱ)
それは夏休みに入ってしばらくたった頃のことでした。
私は受験勉強に身が入らず、机の上に乱雑に散らかった参考書を前に、ぼんやりと物思いに沈んでいました。実際、自分の部屋にいると始終両親のいさかいが耳に入り、勉強に集中するどころではなく、気がおかしくなりそうでした。すると、玄関の目と鼻の先でクラクションが鳴りました。窓から外をのぞくと、一台のぼろぼろのピックアップトラックがとまり、運転席からカオリが顔を出し手を振っているではありませんか。
驚いて外に飛び出すと、カオリは得意気な顔でピックアップのわきに立ち、肩には天体望遠鏡をかついでいます。
「どうしたの、その車?」
「いとこから借りたの。免許取ったんだ」
「すっごい!」
「就職組はヒマだしね」
ぼろぼろと言いましたが、一応、フォードのランチェロとかという名車らしく、よく見るとライトブルーのボディといい顔つきといい品が良く、古いアメリカ映画に出てきそうな雰囲気です。確かカオリも、親子でこのピックアップに乗って旅するロード・ムービーがあるみたいなことを言っていました。
カオリは私の方に天体望遠鏡を向け、ふざけたようにのぞき込みます。
「ねえ、流れ星を見に行こうよ」
カオリが私を誘ってくれたのは意外でした。まだ仲良くなって日が浅かったですし、天文マニアだなんて知りませんでしたから。
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【創作小説】星に恋して
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青春の光と影、愛と孤独、そして死――北海道の札幌郊外や空知地方の美しい自然を背景に、ティーンエイジャーである2人のカオルと1人のカオリが織…
公開中の「林檎の味」を含む「カオルとカオリ」という連作小説をセルフ出版(ペーパーバック、電子書籍)しました。心に適うようでしたら、購入をご検討いただけますと幸いです。