雑談#26 古谷徹氏の一件から、演じるということを考える
先日、ガンダムファンのみならず、アニメファン、声優ファンにとってショッキングなニュースがありました。声優の古谷徹氏’(70)が37歳年下のファンの一般女性と、4年半にわたって不倫関係を続け、その間に妊娠した女性に中絶を強要、さらに暴行して警察を呼ばれる騒ぎを起こしていた、というのです。
その結果、「名探偵コナン」の人気キャラ、安室透役と、「ワンピース」のサボ役を降板することが発表されました。
現時点(2024年6月29日)では、「機動戦士ガンダム」シリーズのアムロ・レイ役の今後については発表されていませんが、ご本人にとっては厳しい裁定が下されることもあり得ると、私は思っています。
一部には、不倫のような個人的な問題で、このような社会的制裁を受けるのはおかしいのではないか、という声もあるようですが、そもそも、古谷氏の起こした騒動を「不倫」ととらえているところに、問題があります。不倫だけであれば、そうだったかもしれません。しかし、声優としてキャラクーを演じる立場として、問題視すべきところがあります。
それは、不倫相手の女性と親密になるために、自分の持ち役を演じてみせた、ということです。つまり、キャラクターを私物化した、ということです。
私は、声優がそもそも、それぞれのキャラクターを引き受けるにあたってどのような契約を結んでいるのか、知りませんが、声優がフェスやファンダムなどイベントにゲストとして招待され、ファンの前で持ち役のキャラのセリフを言ったり演じたりすることは、おおむねゆるされているようです。それは、声優にとって一つのファンサービスの形ともいえるでしょう。
しかし、ファンであったという一般女性と、個人的に親密にキャラクターの声音やセリフを用いるなら、それはやはり、「演じる」という立場に自分を置いている人がやってはいけないことだったのではないでしょうか。一つには、キャラクターの私物化ということがありますが、本質的には、結局のところ、その親密になりたい女性の前でも何かを演じていなければならない、人としての空虚さを、私は感じてしまうからです。
もう一つは、この騒動は「不倫」というよりも、妊娠中絶の強要と暴行という方に、本来もっと重点が置かれるべきだと思ったことがあります。ネットニュースの記事には一般して「ファンと不倫」という見出しがついていますが、実際には、それ以上に酷いことをしています。大切にすべきファンに暴力を振るい、中絶という、女性にとっては一生トラウマになるような処置を強要している、ということです。
もう10数年前になりますが、私は子宮筋腫の手術のため、一週間ほど入院したことがありました。同じ病室の隣のベッドに、1晩だけ入院していたある女性のことを、こうしたニュースを聞くたびに思い出します。夜遅くにやってきたその女性は、看護師とのやりとりから、妊娠中絶をしたんだなと感じ取ることができました。もちろん、相手の男性の姿はありません。友達と思しき女性が見舞いに来たほかは誰も訪れることはなく、消灯後の暗闇の中で、一晩中その女性の啜り泣く声が聞こえました。
古谷氏は70歳にもなって、こうした結果を招くことも頭になく、不倫関係に陥った女性と、避妊もせずに性交していた、ということです。無責任であり、相手の人格や人生を尊重するという心遣いの一切できない人だったのだな、ということがわかります。失望以外に、いったい何があるでしょうか。
古谷氏は、その結果看板キャラクターの声優を降板しました。失ったのは役だけではなかったと思いますが、それで名誉や心が傷つけられたとしても、それは自分のやったことの責任です。一方で、女性の方は不倫関係に入ったことには、お互いに責任がありますが、その結果心身を深く傷つけられました。それは、謝罪や降板で癒される類のものではありません。
私は別に、役を演じる人に人格者であることを求めていませんが、しかし、その役を用いて人を傷つけるという結果を招いた以上、やはり、もうその役を続けさせることはできない、と思います。
一方で、演じるということはその役に没入する、ということでもあります。ある意味、自分自身をしっかり確立した人でないと、自分の人格と演じているキャラクターの人格との境界線が曖昧になり、本当の自分がわからなくなってしまう、ということがあるのではないでしょうか。そして最悪の事態になったとき、最悪な形で本当の自分をあらわにしてしまった、というのが今回の古谷氏だったのかもしれません。
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