運命だって言ってよ。【オリジナルSS】
運命だって言ってよ。
1回目、高校2年の放送部。隣のクラスにいたかなくらいの認識だったその人は、よく通る声で下校のアナウンスをする。よく笑い、よく喋るから放課後は楽しかった。4人しかいない部活だったけど、放送室を出てしまえば話すことはない。3年生になり放送室を開けると、その人はいなかった。風の噂で不登校になったと聞いた。
2回目。バイト先。大学に入り始めた居酒屋のバイトで、店員とお客様として再会。とは言いつつも、あちらは店員である私には気づいていないようだった。ホールから聞こえる声は変わらない。元気そうで安心した。私はその人を忘れたことがなかったから。お会計のタイミングで、思い切って声をかけた。
「覚えてる?放送部で一緒だった…。」
「…おー!懐かし!」
連れの友達に揶揄われて居心地は悪そうだった。連絡先も聞けないまま、その人が店に来ることはなかった。
3回目。仕事の取引先。応接室に入ってくる前の声ですぐにわかった。打ち合わせが終わってすぐ、名刺に書いてある番号にショートメールを送る。翌日の夜、食事に行くことになった。
「なんか俺たちよく会うよなぁ。」
彼は変わらない笑顔でそう笑う。食事を終え、店を出てそのまま解散しそうになるのを、私はなんとか引き止めたかった。
「ま、まだ帰りたくない…。」
「あー…でも終電なくなるしなぁ。」
「せっかく会えたのに、帰りたくない。」
「どうしたんだよ。きっとまた会えるよ。」
「なんでそんな他人事なの?こんな偶然何回もないんだよ?」
「お前、酔ってる?またどっかで会えるって。だから今日は帰ったほうがいいよ。送るからさ。」
きっともう会えない。彼から連絡はもらえないだろう。忘れられなかったのは私だけ。偶然を意識していたのも私だけ。冗談でもいいから言ってほしかった、運命だなって。
End.