
こんな話は、沖縄料理屋で。
「これは沖縄料理屋で話さな」
私の恋人の常套句。
聞きにくいことや言いにくいこと、それはベロベロに酔っ払った沖縄料理屋で話したいのだと言う。沖縄料理屋ならどんな話でも、なんくるないらしいから。泣いちゃうようなことも、笑い飛ばせるらしいから。
私はお酒をほぼ飲まないし、別にいつだって話せるのにと思っていた。お酒の力を借りて何かをする感覚もよくわからない。普段恋人に言えないようなことは、お酒を飲んだら余計に出てこない。本音は、静かに頭が冴え渡っているときに、心の真ん中から優しく取り出すものだ。…多分わたしは居酒屋よりも、山奥で夜空を見上げながら、とか夕方の海辺に腰かけて、とかの方が大事なことを話すのに向いている。
でも、恋人があまりにも毎回「それは沖縄料理屋で話そ」と言うので、私はそこで話される話が一体どんなものになるのか気になりすぎて、行きたい行きたいとしばらくずっと言っていた。
そしてついに。
この日は横浜の野毛という場所に連れて行ってもらった。その辺一帯全てが飲み屋で埋め尽くされていて、なんとも異様な光景。この人としか来ないだろうなという場所。
沖縄料理屋に行く前に、別の居酒屋でメモを作って、お互いに聞きたいことを書き出した。過去の恋愛遍歴を赤裸々に語ることがメインで、「恋愛人生年表」とか「元恋人の方が好きなところ」とか、もちろん全部聞きたい話ではあったのだけど、私の中でどうしても聞きたいことは別にあった。それさえ聞ければ満足だった。
以前恋人と、相手に嫌なことがあったら指摘するか?という話をしたときのこと。そのとき彼は「言わないで別れる」と言っていた。
…それで嫌なところなんてない訳ないのだから、絶対聞こうと決めていたのだ。
「私の未熟なところを教えて」って。
嫌なところがあったときに言わないで別れるタイプの人に「嫌なところ教えて」という質問するのは変な話なんだけど。
だって嫌なところを言うのは、自分にとって50点の恋人を、80点くらいまで育成するための行為で。仮に足りない部分を指摘して、直してくれたとして、80点に近づいたとして、それはもう本来のその人ではなくなってしまう。そんなのは好きな人そのものではなく「こちらの理想に合わせて修正された偶像」だ。
そもそも、足りなかった30点分の素質は、本当は最初から相手に持っていてほしかったものなんだよな。出たとこ一発勝負の恋人テストで30点足りなかった時点で、都合よく追試なんてものはないのだ。だから別に直してほしいなんて思わない、あなたじゃなくて「最初からその30点を持ってる人」を探すから、ということで。
「言わなきゃ伝わらないよ」とよく言うけれど、恋人の関係性なのだから「言わないとわからないような人はそもそも無理」なはずなのだ。指摘しているときの馬鹿らしさと言ったら。それが当たり前にできていてほしいことであればあるほど、言う側が恥ずかしい思いをする。全く、ため息出ちゃうね!
これはいつも通り私の勝手な妄想で、彼がどう思ってるかはわからないけど。言いたくないことを言ってくれるのはなんにせよ、優しさだねって言いたい。
こんなnoteじゃなくて、本当は日々の中で伝えなければならないことがたくさんあったのに。彼に嫌な思いをさせてしまっていた。言わなきゃ伝わらないのはわたしの方だった。
こんなことを伝えて、恋人がいい気がするとは思えないし、そんなものはお前の中で処理しとけよって話ではあるのだけど。私にとっては沖縄料理屋はなんくるない場所ではないので、いつも通り文章にしないと締まらなかった。(わぁ言い訳!)
4軒目の帰り(そんなにハシゴしたのは人生初だと思う)、ビル風が吹きつける街を2人でふらふらと帰りながら思う。過去の恋愛なんてどうだっていいけど、今と未来の話をするためにまた沖縄料理屋に行こう、と。恋人はとても自由で明るくて強いけど、優しくて繊細で臆病な人だ。
なんくるないさ〜
2024.9.29