奪恋カエル

彼氏に別れ話を切り出された。
突然すぎてびっくりした。昨日まで楽しくデートしていた筈なのに。
私は納得がいかなかった。
「もし私に不満があったのなら頑張って直すからさ、別れないでほしい」
必死に彼を繋ぎとめようとする。しかし彼の心は揺れ動かなかった。
「ごめんね。別に君に不満があった訳じゃない。でも別れてほしいんだ」
「どうして?昨日まであんなに好きと言ってくれていたのに」
「ごめんね」
彼はごめんねとしか語らない。しかもさっきからスマホをいじっている。何なんだ、この人。私は泣きそうになっているというのに。
すると彼が言いだした。
「実は他に好きな人ができてしまったんだ。でも僕は二股なんていう最低な行為はしたくない。だから別れてほしいんだ」
「二股という最低な行為はしなくても浮気という最低な行為はしているじゃん」
「今日は君に今からその好きな人を紹介するつもりなんだ。そろそろ来るはずなんだけど」
彼は悪びれる様子もなく言った。
するとそこに登場したのは、イボガエルだった。いや、別にイボガエルみたいな女、って感じに比喩している訳ではない。ガチイボガエルが来たのだ。
「こんにちは。タケシ君の彼女さんですか」
そのイボガエルはしわがれた声で言った。一応日本語が話せるようである。
私は何が何だか分からなかったが、そのうちにこれは壮大なドッキリ企画なのではないかなんて思いはじめた。というかそうであってほしい。
「紹介するよ。僕の好きな人、谷中翔子さんだ」
「谷中と申します」
やけに人間らしい名前を持っているが、どっからどうみてもカエルなことに変わりはない。何が谷中翔子だ。日本中の谷中翔子さんに謝れ。
すると彼氏と谷中翔子が私の目の前でいきなり抱き合い出した。
「見ての通り、僕らは相思相愛なんだ。だから別れてくれないか」
「もういいです別れます」
私はそう言って勢いよく店を飛び出した。なんであんな人と付き合っていたのだろう。あんな奴、一生カエルと仲良くやっていればいい。


一年後、私の家にハガキが届いた。元彼からだった。そのハガキには「僕達結婚しました」と書かれており、タキシード姿の元彼とウエディングドレスを着たカエル、そして大量のオタマジャクシの写真が添えられていた。思ったよりも卵が孵化したらしく、324人家族になったらしい。

私は何だか彼だけ幸せそうにしているのが悔しくなった。もう何か美味しいものでも食べないとやってられないと思った私は、いいにおいのする方へ走った。そこにあったのは美味しそうな団子。しかしそれを食べると私の意識は朦朧とした。ホウ酸が入っているようだった。この団子は人間の罠だったのだ。

そして私は静かに目を閉じ、死んだ。


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