定食屋
朝一番の電車に乗って京都へ旅行に行った。
伝統文化やわびさびを好む私にとって古都の風景はすばらしいものだった。
いくつかの寺社を巡ったのち、私は昼食をとることにした。せっかく京都にきたのだから、チェーン店などではなく老舗の料理店にでも入りたいものだと思って歩いていると、私は小さな定食屋を見つけた。「食事処 かつら」と書かれた木の看板が入口の上に掲げられている。いかにも老舗のようだった。こぢんまりとした雰囲気も良い。早速私はその店に入った。
店内にはまだ私の他に客はいなかった。
「すみません」
声を掛けると、のれんの中からお婆さんが出てきた。厨房にはお爺さんの姿が見える。夫婦で店を切り盛りしているようだ。
「ようおこしくださいました。こちらがおしながきにございます」
渡された品書きを見て私は驚いた。
さむらいのかつらあげ
はげづらのお造り
博士づらの煮つけ
だし巻きがつら
と、変なメニューばかりなのである。私は動揺したが、そのメニューの中に唯一
親子丼
と、普通そうなものを見つけたのでそれを注文した。
10分後、親子丼が来た。しかしそれは私の知っている親子丼とは掛け離れた風貌をしていた。ご飯の上に乗っていたのは、大人用かつらと子供用かつらだったのである。私は仰天し、お婆さんを呼んだ。
「ちょっと、何なんですかこの料理は!」
「うちはかつら料理専門でございまして」
なんと、この店はかつらを使った食べ物を出しているというのである。かつらは食べ物ではないのに。意味不明である。
「こんなの食べる人いるんですか?」
「ええ、いらっしゃいますよ」
するとその時、ガラガラガラと音がして、中年の男が店に入ってきた。男は席につくと、「いつもの」
とお婆さんに言った。なんとこの店の常連らしかった。
男の元に運ばれてきたのは、「さむらいのかつらあげ」だった。パン粉をまぶされ油で揚げられたそれはしっかりとちょんまげの形をとどめていたので一目ですぐに分かった。
男はそれをあっという間に平らげると、会計を済ませ満足気に帰っていった。