ヒゲ脱毛がそろそろ完了する件

 2021年1月、Mはヒゲ脱毛を開始した。それから約4年、いよいよあと1回を残しヒゲ脱毛が完了するため、ここにその内容を記しておきたいと思う。ヒゲ脱毛に関心のある人だけでなく、関心のない人も、またあいつが何か書いているなという軽い気持ちで読んでほしい。

 Mがヒゲ脱毛に踏み切った理由はいくつかある。もちろん、オシャレのためではない。Web広告で流れてきたこと、感染症の影響でマスク生活が予想されたこと、会社の同期がヒゲ脱毛を始めたことなどがその理由である。しかし最大の理由は、「自らのヒゲの存在と不存在の場合における人生の作業行動を分析し、時間及び費用的効果を仔細に検討した結果、吉と出たため」である。

 神が人間に与えた最大の平等は、1日が皆24時間であることである。神が人間に与えた最大の不平等は、人生の長さが皆異なることである。このように究極の平等と究極の不平等が両立した状況にあって、人は1日と一生の質をいずれも最大限に高めていく必要が生じる。このことはヒゲについても例外ではないから、ヒゲが存在する場合、存在しない場合の時間、費用について分析した。

 まず、ヒゲが存在する人生における時間についての計算式は以下のとおりとなる。なお、Mは電動カミソリがあまり肌に合わない。
(クリームを出す:10秒+クリームをヒゲに塗る:10秒+カミソリを洗う:5秒+カミソリでヒゲを剃る:25秒+クリームを洗い流す:15秒+確認する5秒)×(出社日年間:250日+公的休日年間:10日)×退職まで:35年/60秒/60分≒177時間。
 次に、ヒゲが存在する人生における費用についての計算式は以下のとおりとなる。
(クリーム年間:500円×3本+カミソリ年間:500円×17本)×退職まで:35年=35万円。

 一方、ヒゲが存在しない人生における時間についての計算式は以下のとおりとなる。
(最初の3年分はヒゲの処理が必要:15時間)+(施術+行き帰り:1.5時間)×20回=45時間。
 また、ヒゲが存在しない人生における費用についての計算式は以下のとおりである。
(最初の3年分はヒゲの処理が必要:3万)+(施術費用:約20万)=23万円。

 つまり、仮に平均余命あたりまで社会人生活を送るとした場合、時間的・費用的観点のいずれも、ヒゲ脱毛を行った方が良いという結果が得られた。

 なお、脱毛によってダンディさを失うとの意見もあるが、これに関して補足しておく。
 Mは過去に1か月ほどヒゲを伸ばしたことがある。それは浪人時代、高校の先生が予備校へ訪問に来る機会があるのだが、その前1か月にわたりMはヒゲを伸ばし続けた。君たちの指導不足により私は予備校で苦労している、というメッセージをヒゲに込めたわけである。結果として、ヒゲはふさふさしてくるが、毛根までも田舎育ちなのであろうか、泥棒のような胡散臭い位置に固まって生えたり、左右非対称であったり、外れたところに逞しい奴が1本居たりと、ヒゲが思った部位に生えてくれないということが分かった。だからMは脱毛によってダンディさを失うことはない。

 かくしてMはヒゲ脱毛を決意したのである。

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 さて、いくつかのサイトを見比べ、私はGクリニックに行くことに決めた。全国展開しており転勤にも安心であること、その他口コミ等を見ての決定である。また、万が一に何かあっても困るので、多少値段は張るがこちらの手厚めのコースを選んだ。

 以下に、普通の人は知らないであろう、各回の流れを簡単に説明する。

 まず受付を済ませ、靴のカギを没収される。洗顔後、時間になると担当の施術師に呼ばれる。大概はきれいな女性であることが多いが、稀に男性もいる。網の目状になった複雑な小部屋がたくさんある中を進んでいく。

 名前を確認した後、ベッドに寝かされ、北○康介がつけていそうなゴーグルのような目隠しをかぶせられ、視界を奪われる。稀に瞼の上に載るとちょっと痛い。ピーリング剤とかいう若干ヒリヒリしてかゆいものを擦りこまれ、3分ほど放置される。これによってより効果が高まるとのことである。ピーリング剤は化粧水みたいなもので拭き取られる。次に照射部位を示すために顔をチャコペンで落書きされる。

 その後、笑気麻酔をかけられる。これはオプションであるが、必ずつけておくべきであると思う。別に笑うわけではなく、酒に酔ったような、手足に少し血流が行かなくなっているような感覚になる。麻酔吸入の腹式呼吸を続けていると、そろそろ始めてよいかと聞かれ、この世のものとは思えない質感と量のジェルを塗りたくられる。

 そしてついに、謎の機械を用いて頬、顎下などのヒゲの少ない部分から順に照射される。照射の強さは毛の濃さなどに応じて変わる。私はもともと薄い方だったので、薄い部分ほど強めに、かつ1本ずつ確実に毛穴を殺していく方法が採られた。麻酔があるとは言え、それなりに痛みはある。だが間違ってもリアクションをとってはいけない。北○康介のゴーグルと笑気麻酔をつけて顔に落書きされたジェルまみれの男が横たわっている、というだけでも悲惨な状態であるのに、これが照射の度に「あっ」とか「イテッ」とか声を上げようものなら、施術師の方は眼前の怪異に対する畏怖のあまり、反射的に出力最大で照射ボタンを押し続けてしまうかもしれない。そんなことを麻酔された頭でぼんやり考えている横で、施術師の方は、頑張りましたねだとかもう少しですとかの優しい言葉をかけてくれる。さすがプロである。

 下顎が終わると、最後に鼻下となる。この部位は毛が多いにも関わらず笑気麻酔を外さないといけないため、最後にして最大の難関である。呼吸をこらえつつ、ジェルを乗せられる。「鼻の下を伸ばしてください」と施術師の女性に言われ、毎度心の中で「もう鼻の下は伸びきっとるがな」と突っ込み、自分で笑いそうになるが、ぐっと堪える。北○康介のゴーグルをつけて顔に落書きされたジェルまみれの男が鼻の下を伸ばしながら意味もなく笑っていたら、それは即時の110番事案である。

 照射が終了すると、酸素が投与され、トラネキサム酸かビタミンの顔パックをされ、しばし心地よいひと時となる。麻酔が抜けたところで終了、次回の予約を行い、靴のカギを返され、解散となる。

 なお、料金については最初の2年位が一括払い、その後はアフターフォロー期間として毎回100円という謎の料金支払いであった。今は少し違うかもしれない。

 効果については、十分にあったものと考える。施術後数日で、明らかに毛根のないヒゲがポロリととれる。もちろん発毛にはサイクルもあるし、一度ではすべてを取り切れないため、何度も照射を行うことになるが、1年後には2日に1度、3年後には週に1度程度の髭剃りで間に合うようになる。現在、あと1回のアフターフォロー施術を残すのみであるが、既に99%のヒゲは取り切れているものと考える。たまに産毛のような奴は生える(これは照射しない方がよいと言われている)が、気になる程度ではない。長期的にみて時間、費用の節約効果は大きいし、カミソリで肌を傷つけたり、剃り残しが気になったりする現象もなくなった。総じて満足している。

 以上、ヒゲ脱毛の実態について、4年間の経験に基づき真面目に記載してきた。本記事が、ヒゲ脱毛を迷っている方の判断の一助になれば幸いである。

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