境港妖怪検定(初級)に合格した話

 2022年、私は3年ぶりに実施された境港妖怪検定(初級)を受検し、見事合格した。一般的な資格であれば情報も多く出回っているのだが、この資格は初級の受検人数が昨年で231人※ということもあり、情報があまりに少なく、2023年に行われる第16回検定への参加に足踏みしている人も多いと思われる。検討の一助となれば幸いであると思い、ここに記録を残すこととする。
※境港妖怪検定の公式HP(以下、単にHPと記す)による。

 ただし、問題用紙は回収されてしまうばかりか、問題の内容について口外することは固く禁じられている。そのようなルールを破って具体的な問題内容の話をしてしまうと、私自身の資格の剥奪、キャリアへの影響、妖怪からからかわれるといった実害につながりかねない。そこで、あくまでも私はこのようなことを行ったという一例として、私自身の経験を書き起こす。

 昨年の8月頃、3年ぶりの境港妖怪検定の実施が決定した。私は妖怪みたいな生き方をしてきたから勝手にシンパシーを抱いていたし、当時調布という水木しげるが生涯の多くを過ごした町にいたから、運命を感じ申し込んだ。傾向と対策を練る必要があるが、情報が皆無であるため、傾向がわからない。これについては過去に取得した資格の経験から類推するしかない。対策についてはHPがほとんどすべての情報であるから、ここから対策を考えるしかない。

 HPによると、初級の合格率は5割前後である。勉強しなかったら落ちてしまう検定であり、こういったネタ系の検定としては合格率が非常に低い。ここでポイントとなるアイテムが、「水木しげるロード全妖怪図鑑」(文藝春秋)という公式テキストである。過去の己の経験からすると、テキストありの資格は大体テキストを3周+α読めば合格できる。しかもHPには「公式テキストの中から選んだ妖怪の名前・特徴・説明等に関して出題する」と明記されている。とすると、テキストの購入は必須である。仕事帰り、さっそく新宿の紀伊国屋に走った。手に取って驚いた。367ページもある(ちなみに中級は数段分厚いとの噂である)。ということでテキストが学習の中心となるが、このほか、HPにあるサンプル問題も非常に参考になる。サンプル問題からは、結構細かい出題もあること、選択問題のほか、妖怪名の記述問題もあるが、小学生でも解けるように漢字に限定した記述問題等は出題されないことが推察できた。

 また、HPによると、境港妖怪検定とは、「妖怪の権威・水木しげる先生の妖怪考察を通じて学んだ、日本各地に伝わる妖怪や伝承についての知識を、『資格』として公式に認定する検定試験」とされている。ということで、テキストのうち学習のメインは日本各地の妖怪とした。

 次に、HPによると、「境港市・調布市に関する『ご当地問題』が3問程度出題予定」と記載されている。合格点は70点であるところ、約50問あるうちの3問とされるため捨ててもよいのだが、もしかするとご当地問題は1問10点かもしれないため、一応1-2問は取れることを目指したいと思った。HPにはサンプル問題のほか、「ご当地について」というページがあるから、それをぼんやり眺めた。調布市民であったから、調布の市報もぼんやり眺めた。また、当日様々なリーフレットが配布されるので、それも目を通しておいた。

 ちなみに、この検定を主催しているのは境港商工会議所および一般社団法人境港観光協会である。そして、商工会議所法第一条の目的条文は、「この法律は、国民経済の健全な発展を図り、兼ねて国際経済の進展に寄与するために、商工会議所及び日本商工会議所の組織及び運営について定めることを目的とする」とされている。すなわち、ご当地問題で出る可能性が高いのは、地域経済にかかわる部分、さらに絞れば、妖怪を通した観光としての地域振興(町おこし)に関わる部分ということになる。

 これで分析はばっちりだ。

 学習はいたってシンプルであり、9月、たまに公式HPで本番をイメージしながら、スキマ時間を活用しつつ、テキストを3周読んだ。1週目は通読、2、3周目は精読。これが精神的にちょっと参った。テキストが分厚いという困難だけではない。少し恥ずかしいのである。何しろ、満員電車の中でスーツの社会人が妖怪図鑑を拡げているのだ。異様な光景である。妖怪みたいだ。

 テキストの読み方のコツを2つほど挙げると、1つ目は、妖怪は各地の風土と密接なかかわりを持って生まれるので、出現地として記載された土地の状況を想像しながら読むことである。2つ目は、似たようなものは問われやすい(ひっかけやすい)ので、まとめて比較しながら覚えることである。これは学校の定期試験などでも使えるテクニックだ。

 10月か11月、私はたまたま広島方面に出張があったので、出張ついでに境港を訪れることにした。水木しげるロードには、テキストに出てくる妖怪たちがほとんどすべて集まっている※。まずブロンズ像を見て名前を呼び、特徴や説明を頭の中で思い出す。できなければテキストを見て確認する。ついでにテキストでは見ることのできない像の裏側や細部を確認する。そして妖怪スタンプがあればテキストにペタペタと張り付ける。こうして水木しげるロードを2-3往復した。意外とこの総仕上げが良かったように思う。私と同じようにテキストを持ちながら観光している家族連れ等もいたが、私ほど真剣にやっている変な人はいなかったように思われる。結果的に商工会議所等の術中にはまって、当地を観光して、地域にお金を落としたわけだが、まあ良いだろう。
※例外は隠岐の島の像である。

 受検当日、私は当時自宅のあった調布で検定を受けた(会場は東京と鳥取しかないので要注意)。先ほど述べたように、検定直前は配られたリーフレットを眺めて過ごした。会場には親子受検を中心に、男女多様な人がいた。制限時間は60分くらいあったと思うが、10分ほどで終わってしまった。あくまでも私の事例に基づく推測だが、おそらく時間が足りないという事態にはならないと思われる。

 約1か月後、合格発表があった。さらにしばらくして、表彰状やバッジ、詳細な情報が届いた。88点とのことである。表彰状はたくさんの妖怪が描かれたカラフルなものだった。バッジは緑で縁取られ、中に鬼太郎がおり、その下に「妖怪博士」と称号が書かれている。修士号を持っている私だが、こうした形で博士号を取得することになるとは思わなかった。

 後日、ひょっとして昇給のチャンスもあるのではと思い、合格証書を会社に持っていき上司に見せてみたが、4月1日以外は受け取らないと言われてしまった。ついでに同僚に見せたら爆笑された。私の会社では、この資格はキャリアアップに使えないらしい。誠に遺憾である。

 最後に、2023年の日程は10月本番と、私が受検したころに比べ少しスケジュールが早まったようであるが、まだ合格に至る十分な時間があると思われる。少なくとも、この検定の対策を行えば、水木しげるロードをより楽しむことはできると考える。迷っている人、興味を持った人がいれば、是非受検してみてほしい。

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