先生と豚11
翌日、銀行の職員が金庫を開けると現金が詰められていた砂袋が消えてていることに気づき、事件は明るみになった。すぐさま警察が呼ばれ調査等がなされた。当夜警備にあたっていた数人が事情聴取を受け、行員に扮した人物が現れたことが分かり、その人物を犯人であると警察はほぼ断定して捜査に取り掛かる。幸い、犯行の様子は監視カメラに記録されており、それによって犯人は複数いることが判明した。しかし画像が荒く顔までは分からず、頼りになるのは警備員の証言のみだった。
証言によると容疑者は深夜一時半ごろ裏口に現れ、仮発行された入館証を手に侵入したという。眼鏡をして顎鬚を生やした三十前後の男だったらしく、口元の黒子のことなど警備員は珍客のことをよく覚えていた。四十分ほどしてその人物は借りた懐中電灯を返し、丁寧に礼を言って去って行った。格好は来たときと同じだったが奇妙なことに軍手をしていたという。
監視カメラに映っていた人物も犯行時に軍手を装着していることから外し忘れたのだろうと警察は見当をつけた。
また深夜に不審なトラックが銀行の地下駐車場から出てきたという有力な情報もあり、物証も残っていた。地下駐車場に紙幣の入っていた砂袋が捨てられていたのだ。監視カメラの記録にはごみ収集車に似た車が深夜に出庫している様子が撮られていた。
これだけの情報がそろっていれば警察は事件解決もそれほど難しくはないだろうと考えていた。
その事件と警察の見解、推理はその日のうちに報道され世間を騒がせた。被害総額は過去最大の三億であり、警察は全力を挙げて捜査に取り掛かることを公約した。
銀行の記者会見には、頭取、副頭取、そして事件の当事者となった支店長が、この不祥事に揃えて頭を下げて利用者の預金は全額保障することを誓った。
その報道記者会見は柿崎も、紅林もそれぞれ別の場所で見ていた。警察は自信があるようだったが自分たちを捕まえるのは相当難しいだろうと柿崎はほくそ笑む。紅林は若干の不安を抱きつつも達成感と、母を救えることの満足感を得ていた。
そこまでは全て彼らの思惑通りに進んでいた。しかし事件から二日経って柿崎さえも予想しない事態が起きた。
紅林が逮捕されたのだ。
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