見出し画像

2012年という時代

なかなか筆が進まないのは、習慣化してないからだ。と言い訳しながら、前に進めることが大事だよ。と自分に言い聞かせつつ、本記事を書いた。
なかなか、読者が欲しそうな情報に辿り着けないのが、心苦しいが、このあたりの懐古も案外、現在のマクロ的な投資家やAIを取り巻く環境、ミクロ的な自社の変革とエコシステムを取り巻く環境変化を描写するのに、重要だったりすると思うので、頑張って書いていくことにする。


希望に輝くベンチャー黎明期

前回記事でも書いたが、内なる情熱を燃やして起業してみたものの、誰も相談相手がいないし、何をしていいのか、ほとんど情報がない。やはり人間なので、いろいろ不安になる。主に個人の収入について。
とにかくお金がないので、夜な夜なドンキに行き、10kg990円のパスタを購入しては、ペペロンチーノやツナ缶醤油炒めを食べて、その場を凌いでいた。
そういった不安な日々を払拭するためには、同じような境遇を体験した人に相談に乗ってもらうのが一番良いと、今でも思うので、今から起業される方は、真っ先に見つけるべきは、共同創業者よりも、良いメンターだと考えている。(もちろん、どちらも重要だが)
私の場合は、コミュ障も相まって、いわゆるベンチャー村に馴染めず、同じような葛藤を経験した良いメンターに巡り会えなかったが、代わりに「渋谷で働く社長の日記」や、「あのバカにやらせよう」のような古き良きベンチャー時代の体験記となる良書を読むことで、心の支えとしており、今でも著者の方々には、深く感謝をしている。

輝かしい環境からの変化

インターネットもSNSも普及し始めており、誰しもがスマートフォンを持っているという状況なので、それらを利用したインターネットサービスを作り、ユーザーに受け入れられれば、アイデア一発で、誰でも世界で使われるサービスを作れるチャンスがあった。
そういう時代だったので、市場すら存在しない、新しいイノベーションで、世界に通用する会社を作りたい。と考える起業家が多かったのではないかと、いま振り返ると感じる。
まさに夢と希望が膨らむ素晴らしい時代で、そのタイミングで起業という経験ができたのは、私にとって人生の大きな資産となった。

一方、2024年現在に戻ると、ソフトウェアは、ほとんど米国サービスが席巻し、ハードウェアは、コストと品質から中華圏に勝てるものを作ることは、非常に厳しいという状況であり、当時の環境とは明らかに変化している。
なぜこのような状況なのかは、ファイナンス成熟度の違いなのか、組織成熟度の違いなのか、私には明確な解はないが、間違いなく日本という国は、世界と比べても、技術力がある人材と経済力は備わっているはずなのだが、日本の存在感は皆無に等しいという感覚を持っている。
これは、世界中回ってきて色々な人々と仕事をしてきて、良い面/悪い面ともに確信している。
もちろん、ローカライズやニッチ領域を、掘り下げればまだまだあるのだろうが、いずれにしても、現在において世界に出るためには、膨大な費用と膨大な労働力が必要になるであろうことから、なかなか世界で戦うぞ!とはなりづらいので、このような状況になっているのかと思われる。

起業家の性質変化

誰もが世界を目指させる。とあれば、やらない手はない。となるはずなのだが、情報が少ない上に、投資家もいないので、起業することを考える人自体が、少ないように感じていた。つまり、情報収集や準備をしっかり行うような理性的な人は、やらない職業だったのではないかと想像する。
なぜ理性的な人はやらないのかというと、参考まで(*1)に、古い情報だが、投資金額が2018年に比べ、2012年は1/6なので、限定責任でトライアルができる機会は、そのくらいしかなかったということを意味しており、ほとんどは、手金(自分の貯金など)でやるしかない環境であることを意味している。
妙齢の方々であれば、理解いただけると思うが、いい家に住み、いい車を持ち、いい食事をしたいという欲求を捨てて、自分のお金をbetするということが、どれだけ馬鹿げているか。となると普通はやらない。が、よっぽどの変わり者は外れ値として、確かに存在していた。
では、誰が起業していたのかというと、私が観測する限り、変わり者(はぐれもの)エリートか、何者かに憧れていた人だったのではないかと。

(*1:Venture capital in Japan: the current startup ecosystem)

余談だが、実はIPOの数はそこまで変わっていないらしいことから、変わり者も野望を持つ人も、日本には増えていないのではないかと思われる。(*2)
起業家数はそこまで変化がなく、供給マネーだけが増え、Exitの数は増えておらず、米国のような大ホームランも出現していない。という現象が日本では、起きているみたいだ。
たしかに、VCと呼ばれる人々は、めちゃくちゃ増えた印象がある。

(*2:出所:各証券取引所の発表資料をもとにPwC作成)

このように、起業するということは、少数の人々で牌を奪い合いという状況もそうだが、起業にかかるコストも圧倒的に少なくなっていたので、手金でリスクを負える範囲で収まることもあり、起業リスク∋社会的地位とした場合、何者でもない人ほど、ROIが最大化するという非常に合理的な選択ともいえるものになる。(逆にエリートがやる理由は、経済合理性という観点ではROIが低いので、何か癖強な動機がある)
なぜ手金で収まったのかの理由として、代表的なイノベーションが、AWSである。
当時、AWSも2011年に東京リージョンを開設し、本格的に日本にも普及し始めたくらいだったが、インターネットサービスを立ち上げるコストは、とにかく少なくなっていくことで、リスクが少ない割に、リターンが大きく取れる可能性が高まっていた。
インフラが発達することで、何者でもない人間が、行動力とリスクさえ負えれば、世界中のエリート達とビジネスで対等に戦えるというだけで、ものすごくワクワクする時代であったとも言える。

一方、2024年現在に戻ると、環境変化により、アイデアはほとんど出尽くされており、ほとんどがBig Techに淘汰されるか、いわゆるDeepTechと言われる、深堀型の莫大な費用がかかる、誰も手を出さないような領域しか残されておらず、アイデア一発のような希望に満ちた領域が少なくなってきている。
このような環境変化により、必然的に、昔のように何者かに憧れて行動力のみで突撃していく野良起業家は自然淘汰されていき、結果、賢くエリートな起業家だけが生き残っていくことにより、全体的に起業家自体の性質も変化しているように感じる。
実際、数値上では起業数は、そこまで増えていないが、資金供給量が増えることで、手金+限定責任マネーというコンボが成立し、結果エリートのリスク許容度が増えてたことにより、起業家数は一定維持されているように見える。
なぜ投資家の出資額が増えているのかというと、マクロのダブつきもあるが、エリートの経歴レピュテーションを元に、資金を大きく出せるようになったのでは、と推察する。
私個人の体感としても、最近出会う起業家の多くは、よくわからない怪しい人より、賢いエリート(ちゃんとしている)が増えている印象なのだが、それはこういった背景なのではないかと考えている。

話が長くなってしまったが、野良起業家より、賢いエリートの人々が起業するという、プレイヤーの性質が変わったことで、ビジネスのやり方や組織構築、費用コスト構造、人事、労務、法務、知財など色々な意味でベンチャーの戦い方が2012年とは、大きく変化している。

投資家の性質変化

この当時、VCと呼ばれる人々は、ほぼ存在しておらず、ベンチャー企業投資は、主にJAFCOかエンジェルくらいではなかったかと記憶している。
私が当時、数十社投資家を回って、全て断られた際の感覚としては、融資面談のような雰囲気だったので、ベンチャー投資という感じとは少し様相が異なっていたように、思い出される。
中には「それ、何の意味があるの?」と言われて、意味とは??となったのは今でも鮮明に覚えている。
今でこそ、シードで数億円調達する企業も結構目にするが、数千万円を調達するだけでもかなり話題になった時代であり、シードでvalが億を超える案件は、ほぼなかった。
そういった市況で、しっかり投資業をやりつづけていた当時のVCは、本当に尊敬できるし、当事者にお話を聞くと、確固たる信念を持って投資業をされているんだなと窺い知れる。

上記のような雰囲気から、投資家の態度が変わり始めたのは、私の体感としては、2015年~2016年頃のように思われる。
ちょうど我々も、シリーズAという本格的な資金調達を完了させた年でもある。
こちらのレポートにもあるが、2014年頃から調達額が倍額になっており、メルカリなどの成功もあり、ベンチャー投資が再燃し始めたのだった。


(資料)野村総合研究所「平成26年度起業・ベンチャー支援に関する調査:エン ジェル投資家等を中心としたベンチャーエコシステムについて 最終 報告書」2015年3月、p.6(原典:ジャパンベンチャーリサーチ)、ジャ パンベンチャーリサーチ「2016年未公開ベンチャー企業資金調達の状況(2016年総括)レポート発表」(プレスリリース)2017年5月29日
(資料)ベンチャーエンタープライズセンター「ベンチャー白書2016」2016年11 月、「直近四半期投稿調査 2017年第1四半期」2017年6月5日

2014年頃から、大手企業がスタートアップアクセラレーションプログラムなどの取組をはじめ、スタートアップという言葉が徐々に一般化しはじめた。
我々も、KDDI♾️Laboという、日本のアクセラレーションプログラムの先駆け的な取組に採択されてから、だいぶ営業が楽になったので、本当に感謝している。
このくらいの時代から、野良起業家でも、やっと人権を得られた気分になれたのは、こういった大企業の取組やVCの方々の啓蒙活動の賜物であり、この時代の起業家は、こういった大きな波に乗って生き残れたのではないだろうか。

そして、SaaS、AIブームを通じて、現在の日本の投資家は、これまでの実績が出ている投資家は、さらなるファンド規模増大に向かっていき、管理報酬が増え、安定した収益基盤を構築するファンドと、シード~アーリーステージに集中して、少額分散投資スタイルに大きくは分かれている。
私の体感として、いわゆるブティック型の何かの領域に特化したような運営をするというより、賢いエリートに出資しているように見える。
特にDeepTechは収益の回収蓋然性を担保することが、難しく、さらに重要な技術判断自体も、理解するのに一苦労なので、バックグラウンドが良ければ(素性がよい)投資実行される傾向にある。
投資家側も大変な時代になったのである。
大変な時代なので、日本はExitとしてのマーケットが開いているので、負けないように分散投資をして、Exitするには非常によいマーケットとも言える。
もちろん、賢いエリートであることは必須である。
某国で投資家をしている知人は、エリート大学出の学生に少額出資をしまくって、とんでもないIRR出しているのを聞いて、妙に納得してしまった。
つまり、そういうゲームに性質変化しているので、過去のように夢と希望に投資をするスタイルではなく、少額分散投資が勝率を上げる有効打として、性質変化したのではないかと考える。

この辺りの詳細は、もう少し詳しくデータも調査しながら、Episode2:投資家編にて記載したい。

まとめ

ここまで、起業家と投資家、それらを取り巻く環境の変化という視点で、私が体感してきたものを書いてみた。
書いてみて思ったのが、大変な時代になってきたよなぁという所感。以下、まとめとして。

  • 希望に輝いていた、いわゆるベンチャーという時代は終焉を迎えており、天才的なエンジニアやリサーチャーが、プロのビジネス家と組んで、大きなファイナンスストラクチャーを組まないと勝てない、とてもシビアな時代になった。

  • そういった時代変化により、野良起業家よりエリート起業家が台頭しており、リスクマネーもエリート起業家に集中するようになった。

  • エリート起業家には、アイデアは元より、テック/ビジネス/ファイナンスすべてにおいて、高い知識を要求され、それを補完できる優秀な人材を採用できる能力を要求される。

  • 日本には、非常に高度なテック人材は存在しているため、最悪テック能力は落としても大丈夫なのではないか。

  • 良いメンターを真っ先に見つけるべきだが、どうやって見つければ良いのか明示的な方法論はないので、人にとにかく会う?必要があるのか。私は、あまりそういう事に時間を取れず、定期的に会える良いメンターには出会えなかったが、孫泰藏さんのアドバイスは結構刺さったものが多かった。もっとしつこく聞きに行けばよかったと後悔している。

次回は、やっと技術的に何をやっていたのかを書けるはず。書きたいことは、GPU受託開発PMとメモリ周りの課題と解決方法としての量子化について。

いいなと思ったら応援しよう!