2020年 年間ベストアルバム・EP
きっと多くの人にとってそうだったように、音楽との向き合い方が大きく変わった一年でした。とは言ってもそれは単純に、在宅勤務中のBGM、或いは外出を自粛し自宅で過ごす時間の中で、まとまって音楽を聴く時間が増えたということでもあり、例年よりも圧倒的にじっくり色んなアルバムを聴くことが出来ました。少なくとも、今年良かったアルバムを20数枚に絞るのに苦渋の切り捨てがあった程度には。Spotifyのまとめ機能によると、2020年12月までで83159分音楽をストリームしたそうですが、正直言って、今後の生涯でこれ以上に音楽を聴く時間を増やすことは不可能だとすら思う。
それでも、年末に音楽雑誌やTwitterで目にする年間ベストアルバムリストで初めて知るアーティストは無数にあるので、音楽を聴くのに飽きることは一生なさそうです。(あと、ある意味そういうリストを網羅するような聴き方に諦めが付いた...。)
ということで、以下が2020年リリースの、僕が良いと思ったアルバム・EPの一覧です(27枚・順位なし・A→Z / 五十音順)。少なくとも10回以上繰り返し聴いたものがほとんどです。感想などは複数作品に跨るものもあるので最後に書いてあります。
Anaal Nathrakh - Endarkenment
BLACKPINK - THE ALBUM
brakence - punk2
Bring Me The Horizon - POST HUMAN: SURVIVAL HORROR
CY8ER - 東京
Drain - California Cursed
xEDENISGONEx - Scattering of My Malice
Enter Shikari - Nothing Is True & Everything Is Possible
GEZAN - 狂(KLUE)
Infant Island - Beneath
kZm - DISTORTION
Lorenzo Senni - Scacco Matto
Nuvolascura - As We Suffer From Memory & Imagination
Owen - The Avalanche
Rina Sawayama - SAWAYAMA
Serpent Column - Endless Detainment
TORIENA - PURE FIRE
ZOMBIESHARK! - I Will Destroy You, Myself, and Everything I've Ever Loved.
遠藤由惟 - möbius.
サニーデイ・サービス - いいね!
東京パピーズ - 地球儀
ななせぐみ - Dolphin chill in my room 平和
ピューパ!! - えそらことば
ヤなことそっとミュート - Beyond The Blue
ゆうらん船 - MY GENERATION
米津玄師 - STRAY SHEEP
ラブリーサマーちゃん - THE THIRD SUMMER OF LOVE
※太字が年間ベストに入れた作品
・順位は無しと言いつつ、最も衝撃を受けた作品を敢えて1枚選ぶなら、Serpent Column「Endless Detainment」。混沌としたブラストビートと轟音の中で、時折グルーヴィーな展開が顔を出すのがたまらなくカッコよくて、黒い霧の中で誰かの腕を掴んだような目の醒める感覚がある(形あるものに出会えた安堵と、それが何者かはわからない緊張)。フルレングスもリリースしてたけど、よりアグレッシブなこちらの方が好み。ブラックメタル領域のうるさいアルバムでは、Anaal Nathrakh「Endarkenment」も。ブラックメタルとグラインドコアの融合と形容されるアグレッシブさが特徴だけど、そのどちら由来とも言い難い異常にキャッチーで力強いクリーンボーカルのメロディが突き抜けてた。下品でキモすぎて各ストリーミングでは表示されないジャケット写真以外は最高(各自検索してください)。
・メタルコアやポスト・ハードコア、叙情ハードコアを主に聴いていた自身の嗜好が、スクリーモ/Skramz・激情ハードコアやエモバイオレンス、またはEdge Metalなどへと拡張していることを実感する一年だった。Infant Island「Beneath」は、激情ハードコアという形での感情の発露も去ることながら、#2「Signed in Blood」や#7「Colossal Air」#9「Someplace Else」のようなノイズ〜ダーク・アンビエント的なサウンドに胸を打たれた。あと、xEDENISGONEx「Scattering of My Malice」をきっかけに、『バンド名がxで囲まれてる系の音楽(xServitudex、xElegyxなど)』が『Edge Metal』というジャンルで括られていることをようやく知り、また一つ好きな音楽の解像度が上がって嬉しかったです。
・アメリカのニンテンドーコア〜サイバーグラインドZOMBIESHARK!「I Will Destroy You, Myself, and Everything I've Ever Loved.」は、既存のメタルコア〜デスコアでは聴いたことのない曲展開の連続で呆気に取られた。音響・演奏・即興→編集の時代への転換は良く語られるトピックだけど、さらにその先には、演奏と編集の境目が揺らぐ瞬間に生まれる快の追求があるのではないだろうか。ということを、デスコアとブレイクビーツを曖昧な境界線で行き来する本作を聴きながら思った。エモラップ〜Hyper Pop〜インディーロックを跨ぐbrakence「punk2」も、バンドらしい生演奏で疾走する展開にアルバムのハイライトを持ってきていて、近い狙いを感じる。
・The 1975「Notes On A Conditional Form」、BBHF「BBHF1 -南下する青年-」も素晴らしかったけれど、The 1975の近作をラウドに、かつ歪ませて(サウンドの『ひずみ』以外の意味でも)解釈したようなEnter Shikari「Nothing is True & Everything is Possible」はそれらを抑えてベストと言い切れるほどの傑作だった。いずれにせよThe 1975の影響力は凄い...。
・00年代リバイバルは近年様々なシーンに見られる傾向だけど、kZm「DISTORTION」(Bloc Partyのサンプリング!)や、Rina Sawayama「SAWAYAMA」(ニューメタル影響下のサウンド)のように、他ジャンルのアーティストが00年代ロックの影響を取り込んでいてカッコいいアルバムを良く聴いたような気がする。Machine Gun Kellyのポップパンクアルバムも大ヒットしたしね。
・ニューメタルの影響と言えば、多くのリスナーにLinkin Parkの初期作を想起させる傑作として迎えられたBring Me The Horizon「POST HUMAN: SURVIVAL HORROR」も今年を代表する一枚だけど、無機質なギターリフとサウンドは、決して意図したリバイバルやLPへのリスペクトのみから生まれたものではないと推測できる。以前からBMTHは音楽性の変化と共にリフやブレイクの手癖の変化を経てきてて(Sempiternal期「The House Of Wolves」「Shadow Moses」「Antivist」的リフ→That's the Spirit〜amo期「Happy Song」「MANTRA」的リフとか)、今作でその新たなパターンとして、音階のレンジが狭く開放弦も活用しない、平たいリズムの無機質なリフ(いわば"Obey型")が登場していることが耳に付く。これらを実際にギターでコピーしてみると、どれも(感覚的な言い方にはなってしまうけれど)自然にギターをプレイしている中で生まれたリフという感触がなく、セッションではないリモートでの制作や、あるいはライブでの再現性の度外視によって生まれたのでは?と思う。根拠のない推理ではあるのだけど、コロナウイルスが音楽作品に与えた影響は、制作者の意図しない部分でもこうやって表れているのかもしれない。
・Lorenzo Senni「Scacco Matto」におけるドラムビートを排除したトランス、GEZAN「狂(KLUE)」の全編100で保たれたBPMなど、制作におけるある種の『縛り』が、かえって新たなアイディアや独自性に繋がっている作品は面白い。女王蜂「BL」の一瞬もディストーションしないギターロック、ESP Mayhem「Bloodsportswear」の弦楽器0編成でのグラインドコアなども、興味深く良く聴きました。
・同日リリースだったTORIENA「PURE FIRE」、ラブリーサマーちゃん「THE THIRD SUMMER OF LOVE」は、全く違うジャンルながらどちらも、過去の自身のディスコグラフィーに縛られず、自らのルーツや現在の興味を、ひねくれずに曝け出して制作した、熱量の高いアルバムという点で共通した空気感があると思う。自分はラブサマちゃんが製作にあたってリファレンスにしたと思われるブリグリの曲とかブリットポップとか正直全然知らないんだけど、自分自身としっかり向き合って作られた作品の強度はそれでも感じられるし、一本筋が通った作品が、個人的には過去作より響きました。
・アイドル / ガールズグループでは、韓国からBLACKPINK「THE ALBUM」、日本からはいつも現場でも応援させていただいているCY8ER「東京」・ヤなことそっとミュート「Beyond The Blue」と、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIメンバーのソロ作であるななせぐみ「Dolphine chill in my room 平和」、ピューパ!!「えそらことば」がベスト。BLACKPINKは、Netflixで配信されているドキュメンタリー「BLACKPINK : Light Up The Sky」に撃ち抜かれてハマりました...。
・メジャー1st & 結果的に最後のオリジナルアルバムであるCY8ER「東京」は、Kawaii Bass周辺の多様なトラックメーカーの提供曲による豪華な内容。CY8ERが他のアイドルと比べて明らかに偉大なのは、特定のシーン(Lounge Neo / club asia、『暴カワ』周辺界隈)にしっかりコミットして、トラックメーカーやDJのフィールドを広げる動きをしたことだと思っていて、その活動を一つの作品に結実させたといえる一枚。それまでのメインコンポーザーYunomiの提供曲を1曲にとどめたアルバム構成は、発表当初こそ疑問がなくはなかったけれど、前述の流れの中で生まれた作品と考えると深く納得できる。#3「ユメゾラココロ」は超名曲ですね...。
・一方、同じくメジャー1stアルバムであるヤなことそっとミュート「Beyond The Blue」は、メンバー・作家共に、愚直なまでに自分達にできることを追求し続けた結果生まれたピュアな結晶のようなアルバム。過去作に比べ明らかに複雑な楽曲が並んでいるにも関わらず、終始メンバーの歌唱がアルバムを引っ張り続ける凄まじさ。その果てに辿り着く最終トラック、#10「斜塔の東」の『高く手を伸ばすには / 満たされてちゃいけないし / 到達点なんてものはない』はこれ以上ないほどに素晴らしいフレーズだけど、ヤナミューが歌うからこそリアリティが宿ってるのは間違いない。ヤナミューのためでしかない楽曲をヤナミューが歌っている、という奇跡がいかに美しいかを物語る一枚。
・ピューパ!!「えそらことば」は、『an electro pop / emo revival idol group』という肩書の通り、アルバム前後半をKawaii Future Bassと(Midwest)Emoで分けるという大胆な構成。この2つのジャンルがドンズバとしか言いようがない僕の個人的な好みであることはもちろんなんですが、そもそも、Future BassとEmoをそれぞれ100%で実演しながら、その共通性を見出そうする営みは、アイドルという形態じゃないと為し得ないものではないでしょうか。サウンド重視のジャンルアイドルでありながら、なんでもありなアイドルというメディアでしかできないことを実現しようとしている野心作にして快作。
・遠藤由惟「möbius.」は、紛れもなくV系影響下にある、しかし同時にとてつもない突然変異を感じさせる衝撃の作品。といっても、自分はPlastic Tree、MUCCくらいしかまともにV系の音楽を聴いたことがないので、これを機に色々と触れてみたいと思わせていただきました。
・その他、自分が語るべき言葉を持っておらず特に感想を書けなかったアルバムも、全てとてもよくていっぱい聴きました!ありがとうございました!
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