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あの鐘を鳴らすのは②

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私は走らなかった


JALマラソンが1日1日と近づいてきても、私は走らなかった、文字通り1mmも走らなかった

なんなら在宅で仕事をしていたので部屋から1歩も出ず、1日の歩いた歩数が328歩という驚異的な記録を打ち立てる程に走ることから逃げた、逃げに逃げた

なんだかんだ今年の北国の冬が寒かったこともあり、5月の終わりまでコタツが出っ放しだったのをいいことに私は甘え続けた、今なら般若のような顔で叱りつける妻もこの頃はまだ優しく、むしろ部屋で食っちゃ寝してる私に遠慮していた気がする、今なら蹴られてる


また、新婚であることをいいことに事あるごとに妻に料理をせがみ、妻の手料理がこれまためちゃくちゃ美味しいので連日鍋料理をご馳走してもらった、お陰で太った、ちゃっかり7kg太った、マジデブ、チビデブハゲ、これが幸せ太りかぁと人生初の下っ腹に感激するくらいだらしなかった



そんなある日

「ジョギングがてら、ちょっと走りませんか?」

コタツの中でたれぱんだ化してる私を見かねたのか愛する妻に誘われた、正直クソダリぃマジめんどくせぇ渋々重い腰を上げて外に出た私はこの日、実に外出するのは1ヶ月ぶりだと言うことに後で気がついた

在宅の仕事は恐ろしく、本当に季節感がわからなくなる、なんなら昼夜の区別も仕事がなければわからない程怠惰を重ねていた私は外に出て雪がとっくのとうに溶けていることに気がついた、そりゃそうだ、季節はもう5月なのだ

当然のように走る格好なんて持ってない私は妻のおさがりのジャージを履き、バンド時代のローカルなTシャツを着て外に出た、妻は見たこともないスポーティーな格好をしていて、あまりにも眩しく、そして美しかった


「適当に走るので軽く行きましょうか」

あの時の妻の嬉しそうな顔を私は生涯忘れない、あぁ一緒の趣味を共有するとはこう言うことなのか、これが夫婦共通の趣味というやつか、新婚だもんな、嬉しいんだろうな、今までごめんな、本当にごめん、僕1mmも走りたくない、お家でネトフリ見てたい、走る前から帰りたいしなんかもう吐きそう


そんな私の心の叫びなど聞こえる訳もなく、キラキラした顔の妻は走り出した


走り出して10分もしないうちにドビーみたいな顔色でフガフガ言いながら死にかけているおっさんに妻が落胆するのに、時間はかからなかった


今思えばあの頃から妻は私に期待するのをやめたのかもしれない



そんな妻の生ゴミを見るような視線に耐えきれず、私はやっぱりまた走らなくなった(続く)




フガフガ

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