【自由研究】なぜニイニイゼミの抜け殻は泥だらけなのか
【昆虫写真があります!】見出から虫の抜け殻ですみませんが、この先もセミの抜け殻のアップ写真が出てくるので虫の苦手な方はご注意ください。
1. 研究内容
• セミの種類によって抜け殻につく泥の量に差が生まれる原因を構造面から調査した
• 表面の微細な毛の有無が大きな要因であると考えられる
• 幼虫の地中での暮らしの影響については観察できておらず、まだ原因確定には至っていない
2. 研究の背景
セミの抜け殻を見ると、ニイニイゼミだけに泥がついていることは幼少期から知っていたが、数年前から研究テーマとして取り組んでみたいと考えるようになった。
しかし、近所ではなかなかニイニイゼミの抜け殻を見つけることが出来ず、着手できていなかった。
今年横浜の公園でニイニイゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミの抜け殻が同じ木にあったことで研究を進めることにした。(クマゼミ、ニイニイゼミの抜け殻を東京で採取)
3. 仮説と検証方法
仮説
この研究では泥と抜け殻の物理的、化学的性質に着目した。泥とは、土、つまり微細な岩石と植物や動物由来の有機物の混合物が水分を含んだものである。水との親和性に着目すると、布の服のように水となじむものは泥もつきやすく、テフロンコートのフライパンのように水を弾くものは泥も弾く。
このことから、ニイニイゼミの抜け殻は他のセミに比べて水との親和性が高いという仮説を立て、セミの抜け殻と水との親和性を調査することにした。
・水を弾く性質を持つものとして、ハスの葉のような微細な毛による構造的なものと、油やテフロンのような化学的なものとがある。
・水に馴染む性質を持つものとして、微細な孔のような構造的なものと、親水性コーティングがある。
検証方法
液体と個体の親和性はぬれ性といわれ、接触角で測ることが出来る。今回、水、消毒用エタノール、食器洗剤を利用してセミの抜け殻のぬれ性を確認した。エタノールは表面張力が下がり、接触角も小さくなる。洗剤は油への親和性があることから、オイルでコーティングされている場合に効果的だと考えた。
4. 実験内容
準備物
セミの抜け殻
アプラゼミ
ニイニイゼミ
ミンミンゼミ
ツクツクボウシ
クマゼミ
ぬれ性を比較する液体
水道水
消毒用アルコール(エタノール76.9〜81.4%、グリセリン、トリイソオクタン酸グリセリン)
食器用洗剤(1滴/約7ml)(JOY W消臭: 界面活性剤(32%アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)、安定化剤、粘度調整剤)
撮影機器
iPhone Pro 13(接写用)
iMacro Q2p(スマホ用用簡易顕微鏡)
https://www.kickstarter.com/projects/1289187249/imicro-q2p-an-800x-polarizing-fingertip-microscope/description
実験
セミの抜け殻に液体を1滴垂らし、その様子をスローカメラで撮影し、濡れ方を確認した。垂らす順番は水、エタノール、洗剤とした(洗剤はアブラゼミのみ)。
また、それぞれの抜け殻の表面を写真(iPhone13 Pro)と顕微鏡(※)で観察した。観察箇所はニイニイゼミで泥のついている、腹の外側部分とした。ニイニイゼミについては、泥を落とした部分で同じ実験を行った。泥は水に濡らした綿棒で落とした。
5. 実験結果
ぬれ性
エタノールはだいたい馴染んだ(完全には弾かれず、少し濡れる)。
洗剤は完全に馴染んだ(弾かれずに濡れ広がった)。
水については差が見られた。
(動画はスマホ、Firefoxでは再生できないようです)
アブラゼミ:完全に弾く
ニイニイゼミ(泥あり):水になじむ
ニイニイゼミ(半分泥落としたもの):若干弾く傾向が出た
ミンミンゼミ:完全には弾かず若干広がる
ツクツクボウシ:染み込まないものの若干広がる
クマゼミ:染み込まないものの若干広がる
アブラゼミについては、エタノール、洗剤で実験した後に水を垂らすと弾いたことから、油分を分泌しているというよりは、殻のキチン質が撥水素材なのではないかと考えている。
参考)エタノール
アブラゼミ
表面構造
表面を顕微鏡で観察した。泥の多い背中側で観察した結果、ニイニイゼミに顕著な差が見られた。
アブラゼミ:ツルツル
ニイニイゼミ:90-200ミクロンの毛が密集
ミンミンゼミ:
ツクツクボウシ:
クマゼミ:
6. 結果考察
ニイニイゼミとほかのセミで、抜け殻の水への濡れやすさと表面構造に大きな違いがあることが観察できた。
ぬれ性
ニイニイゼミ以外のセミの抜け殻は水を弾く性質がある。エタノールや洗剤はいずれも弾かずに濡れる。
ニイニイゼミの抜け殻は泥を拭いた後でも水で濡れた。
表面構造
ニイニイゼミの抜け殻の背中側の表面は200μm程度の細い毛が密集していた。だだハスの葉のようなナノメートルサイズのものではないため、撥水機能にはならず、どちらかというと毛の間で水を保持するような、吸水性を持っている可能性がある。
また、物理的にも泥がからみつきやすい構造と思われる。
これらの表面構造に起因する水へのぬれ性の違いが泥のつきやすさの違いになっており、ニイニイゼミの抜け殻に泥がつきやすくなっている可能性を見出すことが出来た。
細い毛については、他のセミは毛が生えないか、もしくは脱皮前に毛が抜けて泥を落としている可能性がある(毛穴のような構造が観察できたため)。この辺りの実態は、脱皮前のセミを捕まえて観察する必要がある。
7. 結論
ニイニイゼミとほかのセミで、抜け殻の水への濡れやすさと表面構造に大きな違いがあることが観察でき、ニイニイゼミは他のセミに比べて泥の付きやすいことが分かった。
本研究では生態についての観察を行っていないため泥の付きやすさが実際にからの性質によるものか、土中での暮らし方によるものかの結論はつけられない。
よく言われるようにニイニイゼミが湿った土中で暮らしている様子については今後確認したい。おそらく、穴のサイズや固め方などの羽化直前の行動の違いによっても泥が付きやすさは違うと思われる。
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