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『ヒロシの心霊キャンプ』第3話を観た
「ナビの策略」(第3話-1)
アウトドア雑誌が有名な〔山と幽谷社〕で雑誌記者をしている野田ユキオさん(仮名)は、仕事柄、山に入ることもしばしばであるが、一度だけ、背筋が凍るような恐怖体験をしたという。それは、人気のハイキングコース取材のため、とある山を車で訪れたときのことだった。
案内人の男性を先に帰らせた野田さんは、会社への業務終了報告を終え、車を発進させた。カーナビの案内に従い車を走らせていた野田さんは、だが、通ってきた覚えのない奇妙な道に迷いこんでしまったことに気づく。いったん停車し、車から降りて周囲を確かめるが、そこには不気味な暗闇と静寂がたちこめるのみだ。得体のしれない恐怖に駆られ、野田さんは車に戻ると、来た道を引き返し始めた。絶対におかしい。
『ルートから外れました。案内に従ってUターンしてください』
野田さんの神経を逆なでするかのように、ナビが機械的な案内を繰り返す。緊張感を漲らせたままハンドルを操っていた野田さんだったが、突如、フロントガラスに衝撃が走ったのに、思わず急ブレーキを踏んだ。
「なんだ、これ……」
恐る恐る顔をあげた野田さんがそこに見たものは、フロントガラスにべったりと貼りついた不気味な手形だった。闇夜であるにもかかわらず、それは青白く光っている。反射的にワイパーを作動させてはみたものの、それが拭き消されることはなく、野田さんはパニックに陥りつつも、車を発進させた。ナビが狂ったように同じ言葉を繰り返す。
『ルートから外れました。案内に従ってUターンしてください。ルートから外れました。案内に従ってUターンしてください。ルートから外れました。案内に従ってUターンしてください。ルートから……』
無我夢中で車を走らせるうちに幹線道路に入り、無事にホテルに帰り着くことができた。シャワーを浴び、遅い夕食をすませた野田さんは、ふと気になって、ナビが案内していた道路を検索した。そして、慄然となった。その道路は途中で消えていたのである。これはいったい—。
「…………!?」
と、背後で何者かの気配が揺れたのに、野田さんは体をこわばらせた。〔それ〕は音もなく、野田さんとの間合いを詰めてくる。
『チッ』
「ひっ……」
恐怖で金縛りにあっていた野田さんだったが、耳元に響いた舌打ちの音に、弾かれたようにふり返った。そこには何もいなかった—。
ナビどおりに進んでいたらあの世行きだったかもしれない。そう言って、野田さんは自身の恐怖体験を締めくくった。
「来たのは誰だ」(第3話-2)
川嶋拓馬さん(仮名)は、昨年、登山道修復工事のアルバイトのため、ある山に入った。その日、作業中に雨が降ってきたため、2人の先輩作業員と共に近くの山小屋に避難したのだが、それが恐怖体験の始まりだった。
異常に固く閉められていた山小屋のドアをなんとかこじあけた時には、外は土砂降りになっていた。他愛のない雑談に興じていた3人は、屋外から錫杖の音が聞こえてきたのに、思わず顔を見合わせた。山岳仏教の盛んな山であるから、修験者でも来たのかもしれない。音はどんどん近くなり、小屋のすぐ外で聞こえるようになった。〔修験者〕は雨宿りがしたいのか、だとしたら、ドアを開けて招き入れるべきかどうか。そんなことを話し合う間にも、入り口を探しているのか、〔修験者〕は小屋の周囲を巡っているようだ。
と、錫杖の音がひときわ大きくなった。しかも、それは天井から響いてくる。反射的に立ち上がり、天井をふり仰いだ3人は、何者かが屋根の上を走り回っているかのような騒音が聞こえてきたのに、表情をこわばらせた。音はどんどん大きなっていく。
もしかして、この世の者ではないのかもしれない。最年長とおぼしき作業員がそう呟き、拓馬さんが目をみはった、その時だった。
バアーンとドアが開き、風雨が吹きこんできた。雷光が室内を黄金色に染め上げる。吹き飛ばされそうになりながらも必死で目を凝らせば、1人の修験者が佇んでいる。その体は透けており、雷光に浮かび上がったかと思えば消え、消えてはまた浮かび上がるのだった。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥……」
恐怖のあまり跪き、念仏を唱え始めた先輩作業員たちを横目に、拓馬さんは動けずにいた。呆然となって外を見つめるのみだ。
「拓馬君も、早く……!!」
促されて、拓馬さんも手を合わせた。無我夢中で念仏を唱え続ける。どれくらい経った頃だろうか。ドアが派手な音をたてて閉まり、修験者の気配が消えたのに、拓馬さんは念仏を唱えるのをやめて、顔を上げた。残る2人は、だが、なおも一心不乱に念仏を唱えている。
「もういなくなりましたよ」
そう声をかけても、しばらくの間、2人は念仏を唱え続けていたという。ちなみに、山小屋のドアは、あれほど重かったのがまるで嘘のように、簡単に開閉できるようになったという。
【感想】
初回放送から見ている『ヒロシの心霊キャンプ』の第3話! 怖かったです。雰囲気としては『ほんとにあった怖い話』(フジ)より『業界怪談』(NHK)寄りで、演出にも出演俳優の皆さんにも不自然な派手さがない分、「これは本当にあった話かも……」と思えるリアルさがありました。
『ほん怖』、昔は怖かったんですけどね……。それでも、新作が放送されると聞くと楽しみなんですが、いざ見始めると、途中で眠くなってしまう。番組終了も間近な気がします。
話を『ヒロシの~』に戻して、「山で起こった怪異」にテーマを絞っているのが良いです。「来たのは誰だ」では、山岳仏教という言葉が登場し、実際に修験者(の霊)も登場しているわけですが、古来、山を聖域として扱ってきたお国柄であるだけに、山の怪異には、「起こって当然」と思えてしまう、妙な説得力があります。
ところで、「ナビの策略」に登場した異形の存在、あれはなんだったのでしょうね。女性に見えましたが山の神ではなさそうです。とりあえず、野田さんが無事で良かった。