M君との対話 No.2 ー 僕の住んでたとこ ②
それでまた少し歩いてきましたけど、僕が今暮らしてる家がここなんですよ、この、ぼろい、おうち、これは奥さんのおじいさんが暮らしてた家で、今はお母さんがこの隣に住んでいるんだけど、家と離れみたいな感じで、だから僕の実家から車なら1分、2分で来れちゃうんだよね、あとアートハウスも近いから、だから僕はほんとにこの小さな範囲で暮らしていて、昔、小学校1、2年の頃ですかね、僕はファーブルがすごく好きだったんですね、ファーブル昆虫記を読んで、長方形じゃなくてほぼ正方形に近いような青い冊子の本で、終わりの方はファーブルって自宅の庭でずーっと暮らしていたんですよ、庭にいる虫とかを観察して、もうここで世界が成り立っているみたいな充足を得てたって聞いて、僕はそれに小学校1、2年の時にすごく惹かれている記憶があるんですよね、たぶんその時に僕の中でひとつの世界観が形成されているというか、広さじゃないって、だから三つ子の魂百までって言うけど、それはけっこう的を得ているんじゃないかな、
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じゃあ少しそこから見てみましょう、そう、こんな感じで、このあたりは見晴らし山って言われているんですよ、飯田だと割といつも地形の起伏に沿って東や西に景色を見ることが多いですよね、でもここは南に景色を見渡せるんです、市街地はだいたいほぼ見渡せるくらいで、あそこが再開発をした丘の上中心市街地で、本町トップヒルズがあって、あと信用金庫の建物があって、ちょっと下の森になっているところが飯田城址で、美術博物館も見えるし、県庁舎があって、それでこっちを見ると、今日は雲で隠れちゃってるけど北西に風越山があって、風越山は小学校でも登ったし、今でもたまに手前の虚空蔵山まではふらっと登ったりします、横から見るとタコの足のように見えるところがありますよね、あれが風越山の前山で虚空蔵山って言うんです、で、この景色を見ていつも思うんですよね、ほら、すぐそこの道ってこんなにカーブしてたんだって、けっこうほんとにアルファベットのCの形になっていて、走っている時はほとんど直線に感じているけど、俯瞰して初めてわかるんですよね、街の仕組みとしてはこれらの道がひとつの外環状をなすように通されていて、これが飯田インターの方へ繋がって、それからアップルロードに結びついて、ぐるーっとなって、それでその中に飯田駅があって、飯田城址があって、旧市街の本町トップヒルズの再開発地区があって、こっからは見えないけどあのビル群の向こう側がやっぱり田切になってて、そのあたりもまたぐるっと内環状になって、それらがリニアの工事もあって少しずつ形を変えながら進められているみたいで、あそこのあたりに見える市街地は昭和22年の飯田大火でほとんど燃えてしまって、その時にすごいスピードで復興がなされて、それは当時のGHQの肝煎りらしくて、これからの日本の車社会を見越して設計されたみたいで、だから広い四車線道路が丘の上にばーんって通っていたりとか、駅前にロータリーが作られたりとか、今で言うラウンドアバウトが作られてっていう歴史があって、それがまぁ飯田で、なんの因果かって話で、
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それでここから空を見てるとすごく雲の流れがわかるんですよ、南の先の、あのあたりで中央アルプスが消えて、風越山は中央アルプスの前衛としてあるんですけど、その山の続きがここから西側をずーっと南に向かって行くじゃないですか、それで東を向くとこちらは南アルプスで、その手前に伊那山脈もあって、それも南にずっと伸びて続いて、それで雲を見てると、いっつも南から東の伊那山脈の方に向かって流れて行くのと、西の風越山の後ろを通って、飯島、駒ヶ根の方面に抜けて行くのとがあって、雲がこのへんを避けてっちゃう、だからここはすごく天候が穏やかなんですよ、だから台風とかが来てもほとんど直撃することってなくて、冬は暖かくて夏は涼しいんですよ、これだけ空が開かれていても、だからよくこのへんの人は自虐も込めてどん詰まりとか言うけどね、ほんとに地形的にはそんな感じですよね、ふたつのアルプスががちゃーんって合わさるどん詰まりで、でもそのお陰でこの気候もあるし、たぶんそうゆうのもあって僕はここが好きなんじゃないかって、伊那とか駒ヶ根とか、少し北の方から見ると伊那谷は南北に口があると言うか、流れがずーっとあるように見えるけど、ここはやっぱり、こう、なんか、馬蹄形と言うか、山に囲まれていると言うか、ひとつの区切りみたいなものがここに形成されているのがわかりますよね、それで後は天竜川が流れて行くだけで、ここから眺めるとそうなっているのがよくわかりますよね、これが僕の生活圏、飯田です、