不動産開発プロセス その6
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回はケーススタディ②ということで開発プランを考えてみましょう。
プランの検討は全2~3回を想定しています。
初級編のため、やさしく進めていきますね。
この記事は前回の記事を踏まえて作成されているため、よろしければ下の記事も参照ください。
今回のゴール
今回はプラン構築の前半戦ということで、家賃と売り出し価格の設定をゴールに5パートを説明します。
前半戦は理論的に構築するというよりも、何が可能なのか想像力を使うクリエイティブなパートが多くなっています。
では、始めましょう。
何を建てようか?
前回の人口動態調査から以下のことがわかりました。
・家族世帯、シェアハウス世帯の需要が高い
・20~35歳の若者が多い
・パートタイム労働者が多いため個人収入の中央値は$772と小さめ
・家賃支払い可能額は$540~$650、家賃中央値は$500
これを踏まえて、どのような形態の不動産を開発するのが最適でしょうか?
1つの正解は「住居&商業複合ビル」です。
人口動態調査が示すように、戸建ては論外でしょう。
CBDに近いことを考えると住居を想定することは必然であり、複数人から構成される若い世帯が多いことを考えると、1LDK~3LDK程度のマンションが適切ではないでしょうか。
また、敷地が2.766haかつ延べ床面積が125000㎡まで許容されることから、大型の高層マンションが考えられます。
一方で、延べ床面積125000㎡すべてを居住用として使用することは非現実的です。(単純計算で70㎡の居室が1785室できることになる…)
そこで、ざっくりと延べ床面積の65%を居住用、残りの35%を商業用としてみましょう。
商業利用はオフィス・小売による利用を指します。
数百規模で世帯が増えることに伴って、衣・食・娯楽需要の絶対数が高まることが予想されます。
そのため、その需要を同じ敷地の中で満たしてあげようという考えです。
敷地のどこに建てようか?
ひとまず、住居・商業複合ビルを建てることにします。
では、2.766haもの敷地のどこに建てるべきでしょうか?
初級編の開発計画では、「日照」を考えてみましょう。
日に当たる場所を多く作るために、南側を低くして、北側を高くする2段型のビルはどうでしょう。
低い部分は横幅を大きくとった商業施設、高い部分は住居用なんてよさそうですね。
しかし、ここはオーストラリア。
南半球の場合、太陽は北の空を通ることになります。
そのため、2段型のビルの場合は「北低南高」が原則です。
ということで、ここから先は北低南高の2段型ビルを想定します。
住居タイプの配分はどうしようか?
この配分次第で最終的な利益が変わると言っても過言ではありません。
ただ、はっきり言うと、絶対的な配分はありません。
計画段階で良かれと思った数字が、建築段階で好ましくないことも往々にあります。
各時点においてベストな数字を出すことが重要です。
人口動態調査から、複数人で構成される世帯が多いことがわかります。
よって、2部屋以上の寝室を持つ居室が好まれそうです。
また、子供のいないカップルの割合も多いため、1LDKも需要があるかもしれません。
そこで、ここでは以下の配分で考えてみます。
・スタジオ:3%
・1LDK:30%
・2LDK:60%
・3LDK:7%
えっ、3LDKが7%でいいの?と思ったあなた。勘がいいですね。
この7%という数字はシドニー中心部の家賃の高さが影響しています。
次のパートで見ていきましょう。
家賃はいくらに設定しようか?
ここが最も関心のあるパートかもしれません。
家賃を設定する場合には、周辺物件の同レベルの部屋の家賃や人口動態調査からわかる支払い可能家賃をもとに考えます。
人口動態調査からわかる支払い可能家賃
・$540~$650(家賃中央値は$500)
大型マンションの家賃情報
・スタジオ:$680
・1LDK:$750
・2LDK:$1057
・3LDK:$1586
どうでしょうか。上の金額は週次の支払家賃です。恐ろしい額ですよね。
3LDKで1ヶ月(4週間)と考えると$6000を超えてきます。
日本円に直すと57万円あたりでしょうか。これが3LDKを多く作れない要因です。
国勢調査以外の家賃情報は物件紹介サイトから入手しているため、借り手が付いていない家賃です。
そこで、その値を上限として、平均が上限の90%になるように設定しましょう。すると…
・スタジオ:$612
・1LDK:$675
・2LDK:$951
・3LDK:$1427
少々低すぎるような気もしますが、今はこのまま進めます。
1部屋当たりの売り出し価格は?
大型マンション開発プランの出口は売却も含まれます。
そこで設定した家賃をもとに価格を設定しましょう。
市場が求める利回りで年間家賃(52週)を割って算出します。
利回りは8月時点で4.82%となっているため、そのまま使用します。
結果は以下のとおりです。
・スタジオ:$660,248=($612×52週)/4.82%
・1LDK:$782,215=($675×52週)/4.82%
・2LDK:$1,030,250=($951×52週)/4.82%
・3LDK:$1,539,502=($1427×52週)/4.82%
おおかた市場で出回っている価格に近い値が出てきました。
3LDKの価格は安いように感じます。市場では170万AUD付近のものを多く見かけます。200万AUDを超えるものであってもザラに売れてます。
今回はここまで
今回は開発プラン構築の前半戦ということで
・建物の用途を考える
・敷地内における建物の立地を考える
・フロアプランを考える
・プランごとの家賃を設定する
・プランごとの売り出し価格を設定する
ことを見てきました。
居住部分の家賃・価格設定のみを行いましたが、商業部分の家賃設定は売り上げと連動させる方法など複雑なので初級編では割愛しました。
不動産開発は起業をするようなものです。
消費者のニーズを見つけて、最適なソリューションを作り出して、マーケット戦略を駆使して提供する。
絶対解がある分野ではないので、今回ご紹介したプラン以外にも考えられるプランが絶対あります。ぜひ、他の解も探してみてくださいね。
次回は、算出した家賃・価格をもとに開発予算を導きます。
さらに、そのプランの実現可能性も見ていきますよ。
では、また次回。
最後までお読みいただきありがとうございました!