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診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』⑧

『グローバル人材』の要件

翻訳会社社長でありながら、中小企業診断士でもある豪一郎。

中小零細企業も新興国へ進出する時代になり、顧問先であるO製作所には、現地でリーダーシップを発揮できる『グローバル人材』は居るのだろうか、と豪一郎は考える。

さて、只今、公証人の先生との雑談中。

『で、豪一郎君。今日のネタは?』

公証人役場を訪れるたびに、豪一郎は少し笑えるネタを用意する。公証人の先生も、豪一郎のネタを楽しみにしている。

某紙で見つけた話である。

容姿に自信のない日本人女子大生が失恋した。その時、寅さん好きのアメリカ人留学生が彼女を慰めた。「人間顔じゃない。」

この留学生君、時折、細かな文法上の間違いを犯すのだ。もちろん、「人間顔じゃない。」と言いたかったのだ。

豪一郎は、公証人の先生の反応を見る。先生は、満面に笑みを浮かべて、こう言った。

「豪一郎君、それは作り話だね。」

公証人の先生によると、日本語を母国語とする人が、外国人と日本語で会話をする際、多少の文法上の間違いなど問題にしない。女子大生を慰めたいという気持ちを、女子大生はちゃんと汲み取るだろう、と言うのだ。

日常、日本語を話している時、我々は、文脈に則して次の一語をごく自然に推測している。従って、それくらいの間違いは無意識に修正され、解釈されるだろう、というのだ。

先生は、めずらしく、なにやらネタを思いついたようで、楽しげに話を続けるのであった。

昔、日本のある総理大臣が、外国で演説し、’’We eat lice.’’と言ったそうな。意訳すると、『私たち(日本人は)昆虫のシラミを主食としている。』ということになる。

この話なら、豪一郎も中学生の頃に聞いたことがある。初めて聞いた時、RとLの発音には気をつけよう、と強く思った。その後、RとLの発音を気にする時、いつもこの話が頭のどこかに確実にあった。

豪一郎は、首を振る。中学生ならともかく、今の豪一郎はそうは思わない。こんなのは、作り話に過ぎない。RとLの発音の違いを強調しようと考えた教師の仕業か?

RとL。英語を母国語とする人が、英語で日本人と会話をする場合、この程度の発音の間違いは、聞き手が文脈の中で勝手に修正して聞きとってしまうから、厳密にはLと発音されていたとしても、それが認識されることはない。あるいは、そうした間違いを微笑ましく思いながらも、ちゃんと理解してくれるはずだ。

ここで、豪一郎は、考える。

立場を替えると、物事を多面的に解釈するようになるものだ。豪一郎の思考が、単なる笑い話から、『グローバル人材の要件』に転換された瞬間である。

グローバル人材の要件』。

それは、『相手の立場』になれる能力ではないか?外国人との付き合いに限らず、人との付き合いで最も大切だと言われるのが、『コミュニケーション能力』だが、その根本も同じく、『相手の立場』になれるという寛容さであろう。

では、『グローバル人材』にとっての英語とは?と豪一郎は考えていた。

つづく

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