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診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』⑭

NATO

翻訳会社社長でありながら、中小企業診断士でもある豪一郎。

「豪一郎!」

大きな声の男が現れた。大学時代の友人Kである。現在、ジャカルタでコンサルタント会社を経営している。ジャカルタから駆け付けてくれたのだ。

タイ視察の同行者Iと、Kとの3人で、プロムポン駅前のEホテルを出て、スクムウィット通りソイ24に沿って、歩き始めた。

バンコクでは、スクムウィット通り等の大通りは「タノン」と呼ばれ、そこから垂直に延びる路地をソイという。そしてスクムウィット通りの北側のソイには奇数の連番が、南側は偶数の連番が付けられている。この仕組みはどの「タノン」でも同じだ。

ちなみに、バンコクの大渋滞の原因は、ソイにあると言われる。バンコクは、交通行政が場当たり的で、欲望のままに広がっていった街だが、ソイはその象徴である。

ソイ24から延びる小道に、蕎麦割烹の店がある。3人は、奥座敷で乾杯した。

ジャカルタから来たKに、改めて礼を言う豪一郎に、Kはこんな風に返した。

K:名古屋から広島への出張は、遠く感じられるが、福岡出張帰りに広島に寄るのは、そうでもない。ジャカルタからバンコクへの出張は、そんな感じ。だから、ジャカルタを視察に来る企業さんに、「進出するなら、どの国か?」と聞かれると、新興国の経済成長、中所得層の急増、2015年のASEAN統合を考えると、どこでもいいから出ておいたら、と思うね。

Kからは日本企業の意思決定の遅さについても聞かされた。日本企業と韓国企業に見積を送ると、韓国企業は1週間後には発注が来る。一方、日本企業は、1週間後に検討を始めるというのだ。Kから、NATOという日本企業を揶揄する言葉を聞かされた。No Action, Talk Onlyだという。

Kは、ジャカルタに拠点を持って2年になるが、急速に事業を拡大している。新興国に拠点を持つ利点をKはこんな風に語った。

K:とにかく日本では会えない人に、比較的簡単に会えるんだ。領事館や商工会の偉い人、日本の大企業の現地駐在員。日本では、まず会うチャンスはないよ。

留学時代、豪一郎はKと同じような体験をした。領事の御子息が同級生で、領事にお会いしたことがある。また、現地日本人学校でのアルバイトでは、大企業の現地責任者と、学校運営で頻繁にお会いすることができた。

良質の情報をできる限り多く集めることが、リスク軽減には必須である。現地での付き合いには、貴重な情報が満載である。

Kは、こんな話もした。

K:日本にいたら、まさかライバル企業に会いに行くって考えられないでしょ。でも、現地ではあるんだ。あるいは、ライバル企業の日本人駐在者と酒場のカウンターで隣り合わせて、深い話をすることも稀なケースではない。

海外にいるという開放感と、日本人同士という親近感がなせる技なのかもしれない。

つづく

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