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診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』⑫
タイ視察~リスクを引き下げる情報収集~
翻訳会社社長でありながら、中小企業診断士でもある豪一郎。
「正反対のこと言わはるなぁ」
タイ視察の同行者I氏は、昨夜と今朝の面談相手二人から得た、対照的な意見に面喰っていた。先入観を持たず、人の意見をストレートに受け取り、独自の解釈のできる賢い漢(オトコ)である。
タイ視察二日目。プロムポン駅前のEホテルのラウンジで、シンハー・ビールを片手に、I氏は機関銃のごとく大声で語り続ける。I氏は、大阪出身の広告代理店経営者。名古屋のモノ作りに惚れ込み、経営者仲間の『脱下請け』のサポートを生きがいにしている。東京や大阪で仕事を取り、それを名古屋の経営者仲間たちに製造させ、彼らの多角化展開を助けているのである。
さて、タイ進出に関し得られた、面談者二人の対照的な意見とは、こんな感じである。
タイ駐在の銀行マンA氏:
何のあてもなくタイ進出では、いささか乱暴ではないか。まずは、タイで顧客を確保することだ。先月もT自動車系列の一次サプライヤーを、視察と称して部品メーカー5社が訪れた。だが、視察とは名ばかり。いずれもタイ進出から2年近くも経つが、何も注文を得られず、泣きついてきたとの事。見切り発車は、リスクが高すぎないかなぁ。何より、タイ進出の動機が曖昧な企業さんが、最近多すぎる。
これに対し、タイ駐在の商社マンH氏:
タイに生産拠点がないと、まともに商談を受けてくれる部品メーカーはないよ。慎重過ぎるのも考えもんだ。まずは、タイに拠点を持つこと。それにしても、今さらタイでもないかな?タイの自動車産業では供給ピラミッドが出来上がっており、手遅れだよ。N自動車系列の一次サプライヤーは、30%の原低を合言葉に、現地サプライヤーの育成に躍起になっているよ。もう、ミャンマーの時代じゃないのかな?
「豪ちゃん、要はどうリスクを取るかやなぁ。日本人は、横並び主義で、リスクを取らへんしな。」
二人の面談者との話を通して、豪一郎が感じたのは、「リスクを取らない」のではなく、「日本人は、リスクの大きさを的確に測る術を知らない」のではないか、ということである。あるいは海外での決断と言う状況が、通常の思考回路を麻痺させてしまうのではないか、とも思う。未知のものは過大、もしくは過小に評価しがちである。
恐れるに足りない「小さなリスク」に二の足を踏んだり、「大きなリスク」に無頓着な対応をしてしまっているのではないか。
経営者は、時に限られた情報だけを基に、つまり一定の制約の下に決断を下さねばならない。しかし、まだ情報を得られるのではないか?目の前の制約は本当にどうしようもない制約なのか?と疑う必要がある。リスクの大きさをより正確に測るには、疑う姿勢を常に持つことである。
経営判断に、唯一最善の答えはない。諸条件の精査が、リスクを引き下げてくれる。対照的な意見に、O製作所の置かれた環境を当てはめる豪一郎であった。
つづく
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