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診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』⑮
「中所得の罠」
翻訳会社社長でありながら、中小企業診断士でもある豪一郎。
タイ視察3日目は、ヘマラート・チョンブリ工業団地に足を伸ばした。
同工業団地はチョンブリ県シーラチャ市ボーウィン地区に位置し、バンコク市内より約110 km、国際貿易港レムチャバンや日本人駐在員が多く住むシーラチャ市内までわずか25 kmと好立地である
昼食は、シーラチャ市内の海鮮レストランでとることにした。海岸に突き出た作りの建物が、潮風を呼び込みなんとも心地よい。現地コンサルタントH氏や同行者 I 氏とのタイ談議が弾む。
H氏の話しぶりは小気味よい。まずは、タイの労働事情について。
2012年4月、バンコクなど7都県の法定最低賃金が一日300バーツ(約750円)に引き上げられ、2013年1月に残る70県でも改定された。産業界の延期要請にも関わらず、インラック政権の看板政策が強行された形だ。
一方で、失業率は1.0%を下回るほぼ完全雇用状態で、人手不足は深刻である。
次に、タイの金融政策に話が及ぶ。2012年10月に政策金利が0.25%引き下げられた。一昨年の洪水に配慮して行った2012年1月の引き下げ以来、9カ月ぶりのことであった。内需刺激を優先する「バラマキ型」の経済政策を掲げる現政権による、中央銀行への政治圧力の結果だとする見方もある。
さて、顧問先のタイ進出を検討中の豪一郎にとっての一番の関心事は、タイ投資委員会(BOI)の動向である。
2012年10月に就任した新事務局長は、企業への優遇措置の適用基準を見直す方針を明らかにした。BOIはタイ工業省傘下の機関で、タイで事業を行う企業に対し、法人税や輸入関税など税制面の恩典を付与する。
全国77都県を3つのゾーンに分け、ゾーンごとの経済発展の度合いに応じて、優遇措置に差を付けているが、今後はゾーンを廃止し、産業クラスターや国境地域への工場誘致を推進する方向に舵を切る。2013年半ばの実施は延期されたが、タイが経済成長を継続するためには、同制度の変更を推進して行く方針自体は不変と見られる。
インラック政権は「中所得の罠」を回避すべく、躍起になっているのだ。今回のBOIの方向転換もそうした政策に則った修正であろう。
ちなみに、「中所得の罠」とは、「ある経済体の1人当たりの平均収入が世界中等レベルに達した後、発展戦略及び発展方式の転換を順調に実現できなかったために、新たな成長の原動力不足を招き、経済が長期的な停滞に陥ること」を指す。「貧富の格差の拡大、産業アップグレードおよび都市化の停滞、社会的問題の突出といった、高度発展において蓄積された問題が集中的に顕在化する危険性をはらむ。」ともされる。「中所得の罠」を回避し、次なる高みを目指して欲しいと、無意識に望む豪一郎であった。
さあ、タイ視察もあとわずか。帰国後の報告会を思い浮かべながら、O製作所への『経営改善提案書』に目を落とす豪一郎であった。
翻訳会社社長でありながら、中小企業診断士でもある豪一郎。
タイ視察3日目は、ヘマラート・チョンブリ工業団地に足を伸ばした。
同工業団地はチョンブリ県シーラチャ市ボーウィン地区に位置し、バンコク市内より約110Km、国際貿易港レムチャバンや日本人駐在員が多く住むシーラチャ市内までわずか25Kmと好立地である
昼食は、シーラチャ市内の海鮮レストランでとることにした。海岸に突き出された作りの建物が、潮風を呼び込みなんとも心地よい。現地コンサルタントH氏や同行者I氏とのタイ談議が弾む。
H氏の話しぶりは小気味よい。まずは、タイの労働事情について。
2012年4月、バンコクなど7都県の法定最低賃金が一日300バーツ(約750円)に引き上げられ、2013年1月に残る70県でも改定された。産業界の延期要請にも関わらず、インラック政権の看板政策が強行された形だ。
一方で、失業率は1.0%を下回るほぼ完全雇用状態で、人手不足は深刻である。
次に、タイの金融政策に話が及ぶ。2012年10月に政策金利が0.25%引き下げられた。一昨年の洪水に配慮して行った2012年1月の引き下げ以来、9カ月ぶりのことであった。内需刺激を優先する「バラマキ型」の経済政策を掲げる現政権による、中央銀行への政治圧力の結果だとする見方もある。
さて、顧問先のタイ進出を検討中の豪一郎にとっての一番の関心事は、タイ投資委員会(BOI)の動向である。
2012年10月に就任した新事務局長は、企業への優遇措置の適用基準を見直す方針を明らかにした。BOIはタイ工業省傘下の機関で、タイで事業を行う企業に対し、法人税や輸入関税など税制面の恩典を付与する。
全国77都県を3つのゾーンに分け、ゾーンごとの経済発展の度合いに応じて、優遇措置に差を付けているが、今後はゾーンを廃止し、産業クラスターや国境地域への工場誘致を推進する方向に舵を切る。2013年半ばの実施は延期されたが、タイが経済成長を継続するためには、同制度の変更を推進して行く方針自体は不変と見られる。
インラック政権は「中所得の罠」を回避すべく、躍起になっているのだ。今回のBOIの方向転換もそうした政策に則った修正であろう。
ちなみに、「中所得の罠」とは、「ある経済体の1人当たりの平均収入が世界中等レベルに達した後、発展戦略及び発展方式の転換を順調に実現できなかったために、新たな成長の原動力不足を招き、経済が長期的な停滞に陥ること」を指す。「貧富の格差の拡大、産業アップグレードおよび都市化の停滞、社会的問題の突出といった、高度発展において蓄積された問題が集中的に顕在化する危険性をはらむ。」ともされる。「中所得の罠」を回避し、次なる高みを目指して欲しいと、無意識に望む豪一郎であった。
さあ、タイ視察もあとわずか。帰国後の報告会を思い浮かべながら、O製作所への『経営改善提案書』に目を落とす豪一郎であった。
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