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下書き:TDとの出会い 鴨葱(四)
「TD、ダメだよ、そんなふうに食べちゃ。」
「んっ?」
私はおもむろに寿司に箸を伸ばした。
ネタのサーモンを醤油に付け、口に運んだ。
「んっ?」
TDは、私をじっと見つめ続けている。
経営者の先輩として、いつも私との会話を圧倒するTDが、たかが寿司の食べ方にダメ出しされ、面食らっている。
「TD、ご飯を醤油に付けちゃダメなんだよ。醤油の小皿に米粒が落ちるでしょ。見た目が汚いでしょ?」
「見た目?」
そう言うと、TDは、隣のテーブルに目を運んだ。
中国系のグループの一人が、寿司を口に運んだところだ。
TDの眼に映ったその小皿が、ぼんやり眺める私の顔に切り替わった。
米粒とわさびで、「見た目」が良くない。
TDの眼が、私にそう語り掛ける。
そして、私の小皿を見る。
小皿の醤油は澄んだままで、米粒は一つも浮いていない。
「よしっ、これでピースがはまった!」
神様がそう思ったのは、この時だったのかもしれない。
ビジネスパートナーとして、日本に支社を開設しようと約束してからは、二人で良く語り合ったものだ。
K女史に連れられて、TDの事務所を初めて訪れたのは、遡ること2年前。
場所は、このフードコートではなく、同じホテル内にある最上階のレストランだった。
K女史も私も、既にA社長が経営する翻訳会社を退社していた。
退社後収入が激減した私を、K女史が別の大手翻訳会社の社長であるTDに引き合わせてくれた。それが、TDとの出会いであった。
TDは、私を一切特別扱いしようとはしなかった。
よって、二人を先導するTDは、迷わずフードコートに向かっていた。
K女史がTDの進む先に割り込み、何やら語りかける。
TDは方向を転換し、エレベーターに向かった。
扉が開いたのは、最上階のレストランであった。
まだ、つづく「鴨」。。。
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