診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』④
『真に自立』しているということ
翻訳会社社長と中小企業診断士という二足のわらじを履く豪一郎。
自動車部品メーカーO製作所のT社長との長時間に及ぶ面談を通して、「真に自立した、グローバル企業」というO製作所の『目指す姿』を確認した。
さて、『目指す姿』が決まれば、さっそくO製作所の外部環境分析である。「『グローバル企業』か、時代の要請だよね。」豪一郎は、ひとり呟き、ノートPCに向き合った。が今一つ気分が乗らない。『目指す姿』がはっきりした筈なのに、何かが漏れていると感じるのだ。そんな時、豪一郎の携帯電話が鳴った。
相手は、経営者の勉強会『突き抜ける会』で知り合った一級建築士Sであった。東京から、外資系の大手保険会社の営業部長Hが来ているから、会わないかとの誘いであった。とりあえず、何も聞かずに会っておこうか。Sとはそんな間柄である。
名古屋駅構内のホテルのコーヒーラウンジで、豪一郎は6人の男たちに囲まれていた。その内の一人は、豪一郎の経営者仲間の建築士S。Sは建築設計業務の付加価値サービスの一環として、保険業免許を持っている。他の5人は、東京から来た保険会社の社員4人と、名古屋の代理店の経営者である。
この集りの主旨は、こうだ。
豪一郎のコンサルタントとしての主な業務が、中小企業の海外進出支援であることを知ったSが、海外に進出する際に必要な保険のパッケージを紹介してくれるというものだ。
自分の国際業務にとって、一つの営業ツールになることは、間違いない。しかし、豪一郎は、ストーリーが描けないでいた。この席に居ても、実は、豪一郎の頭の中は、O製作所のことでいっぱいなのである。
一通りの説明を聞いた後、豪一郎は、営業部長に質問した。「現状はどうなっているんですか?つまり、現在、たとえばタイに進出している中小・零細企業さんは、どんな保険をかけているんですか?」
名古屋の代理店のUが口を挟んだ。「いや~っ、保険掛けないで、えいや~っ、で進出している企業さん。結構ありますよ。あるいは、元請けさんについて行く形で、あまり理解せずに、元請けさんの言うがままに、元請けさんと同じ保険に入るとか、元請けさんが保険に入っていない場合は、同様に入らないケースも少なくないんじゃないでしょうか?」
その時、豪一郎は、閃いた。
「真に自立した、グローバル企業」
O製作所の『目指す姿』の中で、最も大事なのは、『真に自立した』である。「グローバル」の部分は、あくまでも二次的なものである。実は、T社長も豪一郎も「グローバル企業」であることが絶対条件であるかのように議論を進めていたのである。
『真に自立』していれば、「グローバル企業」でなくても光は見えてくるかもしれない。
そして、豪一郎にとっての、O製作所に対するコンサルタント業務の基本姿勢も明確になった。しっかりとしたストーリーが描けた瞬間である。海外保険もそうだが、それが意味するものは、正に『真に自立した』企業に必要な姿勢なのである。
つづく