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7/11【RLL-伊織恵より-】

ぐちゃぐちゃっと心に生卵が投げつけられた。

何度も投げつけられて、あたしは何度も同じように片付けて「次は気をつけてね」と言った。そしてまた何度も投げつけられて、そのうち怒るようになって、注意したのにまた投げつけられて、あたしは何度も同じように片付けては許してきた。

基実くんはそんなあたしの姿をずっと見ていたという。

卓さんはそんなあたしを見かねて、でもその相手と対等にやりあうことをある時から諦めるようになったという。ユーモアであたしの代わりに戦ってくれるようになった。あたしはだいたいそういう時泣いているから。

基実くんはそんなあたしを見ると、激昂する。ユーモアなんか取り入れられないくらいに真剣に怒って、でも冷静に対処してくれる。あたしはだいたいそういう時ひとりで泣いているから。


あたしが卵をぶつけられた時、忠兼さんはあたしのまわりのお友達に声をかけてくれた「原因はこういうことなんだ。もう少し見守ってあげてほしい」と。忠兼さんには忠兼さんの立場がある。だからできることも限られている。けれどできることは最大限やってくれたように思う。

卵はだいたい忠兼さんの台所から盗んでくるらしいけれど、あたしはそんなことを把握できていなかったから、いつも原因を自分自身で探っていかなければならなかった。

いつも良くしてくれるお姉さんが「よくわかんない人だね」と私に同情してくれた時、あたしはその言葉の意味を取り違えて自分が責められていると勘違いした。というのも、卵がどこから盗まれたものかわからなくて、あたしが盗んだと思われたのかもしれないと不安に思ったからだ。

鶏が先か卵が先かという問題の論点はいつだって、原因が先か目的が先かということに似ている。壊すことが先だったのか、あたしが嫌いであったのがそもそもなのかというように。


あたしの人生は基実くんと出会ってすごく嬉しかった。基実くんの会話のスピードや温度感はあたしが理想とするものだった。真面目さとか、ものづくりの熱量とか、それを時に揶揄されるようなところまであたしと同じだと感じた。基実くんは自分を追求するために進んでいく星座らしく、あたしは自分を省みてから作っていく星座なのだそうだ。

共に自己実現が人生の目標としてある星座なのに、片方は追求しただ進んでいき、他方は省みて作っていく。

面白い関係性だと感じた。

受洗日に関しても、誕生日に関しても、年齢差に関しても縁を感じている。きちんと見たことがなかったから、今はみればみるほど不思議なものを感じている。基実くんも男の子にしてはそういうことを面白がる感性だから私も嬉しくなってたくさん話してしまう。


卓さんが最近少しだけ遠い。卓さんはあたしの初恋に近い。22年、卓さんがいたから頑張れた。

実家のことを思い出すと、あの道をあの森をあの湖をあの畦道をあの川縁をふたりで再度歩いてみたくなる。22年間を答え合わせをしながら埋めていきたいと思っている。

また卵を投げつけられて、怒り狂ってあたしはまたひとり片付け作業をしている。日常が元通りになるために努力を必要とするなんてあんまりだと思っている。理不尽だと。でもこの理不尽な世の中を生きていくために、基実くんや卓さんと会う努力をするならそれもいいと思えている。

面倒でも嫌がらず、いっしょに暮らしてみるとか。

面倒でもちょっとだけ顔を上げてこんにちはと言える環境を作るとか。

卵をぶつけられ続けて3年。その卵のほとんどは忠兼さんの家の台所のものだったからあたしは忠兼さんと出会ったらしい。卓さんの家は毎夜ネズミが出没したと聞いている。毎朝起きると大惨事になっているらしい。ネズミの存在によりあたしは卓さんと再会することができた。

基実くんは、、、ねえ?基実くん、あたし基実くんだけがわからないの。

あなたはあたしをどこで見つけたの?2017年のあの日、どこであたしを見つけたの?それともそれよりももっと前なのかしら、、、。

基実くんの第一印象は怖かった。でも恋愛に発展した今はとっても優しくてあたしに合わせようといろんなこと挑戦してくれる。

あたしが好きなだというものを試してみようとしてくれる気持ちだけでも嬉しい。話せば話すほど楽しくてもっと話したくて仕方なくなる。単純計算あたしたちがこの地球で共に過ごせるのは残り約40年。足りないって思っちゃう。もっともっといろんなことを話したい。何を見て何を考えて何を連想して何を作っていくのか、隣で見つめていたい。あたしは同じものを見て別のことを考えて別のことをきっと連想して小説を作っているだろうから。


出発点が同じ別々のものを作って見せ合いっこできる、そんなパートナーがいることは本当にラッキーだと思っている。感じ方が同じでも別々のものを作って認め合えるのは幸福な許容範囲だと思う。

あたしは基実くんの言葉を待ち侘びている。いつ、いかなるときも楽しみにしている。どんな表情の基実くんもあたしはきっと大好きになる自信がある。

基実くんといると女の子でいられる。守ってもらえるって思える。あたしは基実くんの冷静な判断に安心感を感じられれている。










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