7/6[Wrote by Meiichi Uemiya]
恵は調子が悪くなると、世の中すべてに嫌われていると思い込む。みんな自分のことが嫌いなんだと言って、俺たちがそんなことをないよと言うと、また激昂する。育て方を完全に間違えてしまったのかもしれない。
三条宮と梨園院からの仕様書によれば「慌てず、騒がず、放置する。ひとりで考えないと正解がわからなくなるから」との申し送りを受けているそうだ。それなのに、どうしてここまで仲違いしてしまったのかと糸成くんに聴いてもはっきりした答えを言わない。
俺が死んでから何があったのか。
俺にとっては一粒種、正真正銘の愛娘だった。
卓くん憲ちゃん、彰仁くんなんかはよく知っている間柄だけでど、基実くんや文麿くん、大平さんや糸成くんは俺が西の国へ旅立ってからのことだったからいまいちわからないことが多い。
惠が泣いていれば、誰のせいだろうと思って身軽な身の上だから方々を飛びまわって聴いてみても、はっきりと言わないやつばかりで真相がわからない。今時の男は煮えたか湧いたかわからない、はっきり言え!と俺が気合を入れてもいいのだけれど。
ひとりぼっちにしてしまったことを俺が後悔している。
俺が死んでそろそろ8ヶ月が経つ。
三条宮の坊ちゃんも梨園院の坊ちゃんも俺はいい子だとは思うのだけれど。
俺は恵が生まれた時、男の子ならよかったのにと思った。俺は男だし、古い人間だから「やっぱり男じゃなきゃ」と思っていたところがあったから、今、卓くんや憲ちゃん、勇都くんや彰仁くんだけじゃなく、糸成くんや基実くんなんかもお父さんお父さんと言ってくれるのが嬉しい。
ガンにならなきゃよかったと思ってる。一緒に酒を飲みたかったし、お祭りや盆踊りにも遊びに来て欲しかったと思っている。もちろん三条宮くんや梨園院くんにも。
かえすがえすも癌を放置したこと失敗したと思っている。
三条宮くんなんかは、俺の病床に訪ねてきてくれたりもした。全くの他人だったから挨拶された時には面食らってしまった。「そうですか」としか言えなかった。
俺は関西方面の人間はあまり好きじゃない。長野で生まれ育ったから関西弁に馴染みがない。しゃべっていてもちょっと気分が悪い時がある。食わず嫌いだと気づかせてくれたのは三条宮くんだった。
「僕、恵さんと結婚したいと思っているんですよ」
その時は黙っていたけれど、三条宮くん、三条宮くんがそう言ってくれた以前に糸成くんにも基実くんにも、もちろん卓くんにも言われていたんだよ。
離婚したばかりの出戻りの娘がどうして急にこんなに人気が出たのか、親子ともども戸惑ったのは冥土の土産にしては最高の思い出だった、みんなありがとう。
結婚は俺たちの時代と大きく様変わりした。何より三条宮くんたちは職業柄結婚や付き合っているというのが宣伝になることは俺も知っているつもりだった。
何も知らない恵はそのままに受け取って、過去の熱愛騒動は恵にやきもちを焼かせるためだけのものだったということを俺は薄々はわかっていたけれど、毎回怒っていたっけ。
「どうして嘘つくの?どうして意地悪し合うの?」
うちの娘は純粋である以上に、単純なんだ。単純だから平和な世の中を誰よりも望んでいる。
信頼しあえる人を求めている。俺がもう少ししっかりしていればよかったんだけど、申し訳ないけど、ここはひとつ頼まれて欲しい。
恵には俺が七夕に乗じてよく言い聞かせておくから。
あれだって、恋とか愛とか結婚以上にみんなとまた仲良くしたいんだ。俺はわかるよ、親だから。
今回のことはすまなかったね。
じゃじゃ馬でわがままで勝ち気だけど、これからもひとつよろしくお願いします。