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連載コラム小説【命綱結んで生きるということ】

「最初に断っておくが、俺は巷の噂のように面白い人間ではない」
夫のプロポーズの第一声に面食らったことを覚えている。それから早20年、夫婦とは命綱を結んで生きることだと昨年の結婚記念日によく理解できたように思う。

私は当時25歳、主人となった人は34歳だった。
だいたい歳の差にして10歳、あまり深く考えずにお付き合いを始めた。こちらはまだ若い、でも主人は適齢期を少々過ぎていたし男性ということもあって、かなり難しく考えていたらしい。真面目な印象を社内で与えない朗らかな人だから改まってプロポーズの第一声をこのような言葉で伝えたのだろう。
「僕は普通の男で怒ったりもするし、癇癪じみた臍の曲げ方もするかもしれない」
結婚なんてこんなものなのよ、が口癖の母の影響を強く受けていた私は主人の真剣な言い方にも「はあ、」というのが精一杯だった。主人は緊張を極めてか、早口になりながら続けた。
「優しいことばかり言えるような器用な人間ではないけれど、どんな時も君の味方でいることと、生活に苦労させても働き続けることは誓う。そしてもしも僕が病に臥せってしまうことがあっても手を握ることだけは忘れないでほしいんだ」
何を言っているのかはわからなかったけれど、忘れっぽい自負がある私は唐突に「忘れてしまうといけないから書面で契約をしましょうか」と言った。今で言う、婚約契約書みたいなものだったと思う。証書というには簡素なものだが、後々この契約書が大変役にたった。

主人はこの20年間山あり谷ありだった。事業で大成功をしたものの、その大成功を妬んだ業界のドンと言われる人から仕事を奪われうつ病を3回、うつ病に端を発した不摂生が糖尿病をも誘発した。
私と主人は確かに命綱を結んで結婚生活を送ってきた。若いご夫婦や、これから結婚について考えてみようと思っている方々に向けてこのコラム小説が役立つよう、主人との会話を重ねている。
事細かに包み隠さず、苦しいことも喜びも書いていくつもりだから私たちの失敗や成功が若いご夫婦や恋人たち、そして婚活に挑戦しようとしている方々やすでに勤しんでいる方々の何かしらのヒントになることを祈っている。

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