7/7【七夕にだけ会うように】
家族が幸せになりますように。
好きな人が好きな人と結婚したことを公にできますように。
あたしたちの家族は最小単位の恋人の群れだから。
ひとりひとりにパートナーがいる。
いろんな面倒があるから、七月七日、年に一回だけしか会えない関係が今もある。
あたしがやりたかったことは、好きな人を好きと言っても誰にも怒られたり邪魔されたりしない世界の構築だった。
メタバースに便乗させてもらうことも考えた。
キャラクターを作ってしまうことも考えた。
あたしたちは人間だし、好きな人といっしょにいたいから。
あたしたちは特別な何かじゃなくて、同じ人間だから。
特権階級の存在を作らないように、言葉に気を付けている。言葉は簡単に奪われて火にくべられる。炎上した後の燃えかすになった頃には次の何かが着火剤になっている。
火は誰が作っているのだろうか、時々なにがやりたいのかわからなくなるから、他人の家の家事を見ると見てみぬふりをしていた。
だってわからないから。
わからないことを勝手に動かしたら、二次災害三次災害になる。
焼け野原にすることは本望じゃないから、全体意識としての防衛本能でもあった。
あたしは家族が好きだった。最小単位の恋人たちがのびのびと誰にも邪魔されずに一緒にいる姿を見ることが大好きだった。
あたしはこんな仕事をしているし、こんな性格をしているから、基実くんの奥さんでも、卓さんや糸成くんのことも想っていて、あたしが誰かに加担すればするほどいい作品が描けるのは互いにとって永遠の輪廻みたいなもので。少なくともあたしは作品が1番の恋人なのかもしれないと思ったりもする。いや、もっと適切な言葉がある。
あたしは作品を育てるシングルマザーなのだと思う。作品とは血が繋がっているけれど、恋人たちとは血がつながっていない。
そう言う意味で考えると基実くんや卓さん、糸成くんたちも作品とだけ血のつながるシングルファーザーで、あたしたちの小説と音楽は相乗効果を生み出すから、あたしは彼らとステップファミリーなのかもしれない。
家族にはいろんな形がある。血のつながりがなくても、血のつながりがあっても気持ちがなければそれはただの同居人だし、お荷物だし、被害者でしかない。
同居することだけが家族とは言わないけれど、でも本来言葉の持っている意味からすると同じ屋根の下で暮らす人々のことを家族という。「生計を共にする者」である。
別居であっても家族になりたい思いには互いが家族である事実が気持ちを強くするという実利があると思う。
「とりあえず籍を入れよう」は寂しさの表れなのかもしれない。
基実くんとあたしはどうして結婚したんだろう、、、
卓さんに出会ったのは基実くんに出会うよりも後だった。
糸成くんは会社の人に邪魔されていて、あたしに会えなかった。
これが運命というやつなのだと思う。最初に出会ったからとて必ずうまくいくとは限らない。後に出会ったからといって出遅れているとは言えない。
一度別れたからといって終わりではない。はじまったからといっても永遠ではない。
昨日の夜、基実くんが唐突に指輪をくれた。
欲しいと言っていなかったから驚いた。やっぱり約束みたいなものが欲しかったのだと思う。証みたいなもので縛りたかったのだと思う。
照れ屋でちょっと昭和な男の風情がある基実くんは起こり気味であたしに指輪をはめてくれた。
「左手の薬指は月、右手の薬指は太陽」
卓さんからもらったエメラルドの指輪をさっさと外してさっさとはめてしまった。こういうところが面白いなあと思う。
「どうして左は月なの?基実くんの左手の薬指は太陽じゃん」
「君は左側に立つでしょう?俺は右側に立つ。俺とめぐをひとつの地球と考えると?」
「あー!!なるほどね!!」
太陽の周りを周回する地動説というわけだ。もちろん基実くんの右手の薬指には月の指輪がはめられている。
「特注だしパッとみたらただの婚約指輪に見えるところがいいでしょ?」
「うん!このくらいシンプルで目立たない方がふたりだけの秘密みたいでいい」
あたしたちは秘密が好きだった。ふたりだけで共有している秘密をそれとなく見せつけるのが好きだった。
写真が嫌いなのはそのせいかもしれない。あたしが絶対に表舞台に立ちたくないことも秘密に拍車がかかってふたりにとっては良い効果をもたらす。
「大切なものは人様にひけらかさない、人様にみせつけない、人様に自慢しない。とられたら嫌だからね」
そう言うといつも基実くんは笑ってくれる。笑顔の源でいられるようにあたしは今日も明日も健康に留意する。
(ところで、声だけで何度も絶頂に達しちゃうあたしのこと、基実くんは知ってるのかな、、。だからそんなに会わなくても寂しくないってことは知らないだろうなあ、、、笑)
「めぐちゃん、七夕は、、、どうするの?」
「パパと会うことにする。天の川を挟んで年に一回会うくらいの距離感にしていかないといけないから」