見出し画像

Clock going-1【27.June】

何度同じことを言わせるんだ!と言われれば、同じこと言わなきゃいいじゃんと思ったし、そんなに嫌ならやめちまえ!と言わないくせに「そんなんじゃ社会じゃ通用しない」と脅されてそこにいることが当然と思わされてきた。

はっと立ち止まって俺は考えた「社会ってどこだ?」。
俺たちがいる地球は社会なのか?はたまた、社会とはどこまでの範疇を指すのだろうか。法律の問題や国際秩序から言えば、海を越えればそこは異世界、別世界、同じ社会と呼べるだろうか。
県境には今は昔ではあるものの、関所が置かれていた。国取り合戦と言う綱引き大会も長野県では有名な行事として残っている。国境という境がある以上、社会というものは一元化されていないことに気づいた俺はとうとう会社をやめた。

やめようと決心すると「そんなんじゃどこの会社に行っても通用しない」と散々脅された。かといって粛々と仕事をしていれば、「そんなこともできないのか?だから彼女にもフラれるんだよ」と嫌味を言われ、この人は俺をどうしたいのか?と相手の気持ちを慮るだけで1日が終わってしまった。無論、業務の遂行は滞りなくである。言われた範囲の財務諸表は期日には提出したし、かけあってほしいと言われた企業には前もって連絡を入れる工夫をした。忘れっぽい性分は嫌と言うほど自覚しているからスマホのリマインダーを使った。
「社会人にもなってそんな小学生みたいなことしてるの?リマインダー?え!仕事できなさすぎじゃね?」
そう言った上司はいつでも遅刻をしてきた。「遅くなりました!」と爽やかに挨拶すればご破産になると思っているのは本人だけということを周りはその役職から忖度して何も言えない。

俺には友人がたったひとりいた。女性の友人だから面倒に巻き込まれないように隠していた。隠し通せればよかったけれど、スマホを取り上げられてしまったから良くなかった。リマインダーやロックをスマホにはかけられる、忘れ物防止にも限界があることをこの時痛いほど思い知った。
つまりは人間の限界である。

彼女は巻き込まれても何も知らないから素直にこの上司の指示を受けていた。というよりも俺のスマホを使って指示をしていたから、俺からの指示だと思い込んでいた。俺からの指示じゃなければと思うと、上司が哀れに思えてならない。
揉めた。すでに3年間、会えないのに互いに信じ合ったことは奇跡だと思う。

先日ようやく仲直りができたわけだが、彼女はこの上司に牙を向け、俺から習った拙い英語でこう罵った「Stupid dranker」

離職して俺は自分が日々変わっていくことに気づいた。
何度も言われることはなくなったし、社会でやっていけないことがないことを経験した。
彼女は俺を評してこう言う「あなたが誰にでも可愛がられるのは人徳だと思う。でも調子に乗るなよ、まずは親と友達、スタッフの人々に感謝しな」

彼女は意地でも俺を褒めない。俺に惚れているくせに俺を一途に執着心を持って依存的に誉めようとしない。
ツンデレという言葉とも違う。
最近友人になった男が俺にこっそり教えてくれた、
「航朔と他人を見分けられなかった自分のスピ力の弱さが悔しいんだって。お前は何も悪くないよ」

最初からわかっていた。俺が惚れたんじゃなくて、向こうが惚れたんだ。だから俺も惚れた。一目惚れされた。まあ遊んでやってもいいかなと思ったけど、あまりにも真剣だったから可愛くなった。
上司の顔をたてて今まで黙っていたけれど。
もちろん彼女もそれを承知で俺を3年も信じていた。じゃなきゃ、こんなバカみたいな純愛なしえるわけがない。
これがことの顛末だ。

上司は万能感を与えられた裸の王様だった。改ざんされたランキングの中で蝶よ花よと育てられたからリアルに直面して怒り心頭なのかもしれない。俺が上司を憐れんでいると、先の友人が隣で落書きをしている。
「教科書に落書きしなかった?国語の作者の写真とかに。俺、うまかったんだよねぇ!ほら、見て見て!うまく描けたでしょ?俺やっぱ天才だわ!」

絶句した。今までこんないたずら坊主な友達はいたことがない。
さすが彼女の幼馴染だと納得した。

[Wrote by G-r.S]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?