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7/19[XYZ Grand Fires]

卓くんと、基実くんと、忠兼くんと、それからめぐちゃんと。

最初に俺が出会ったのは基実くんだった。俺と同じような感覚を持った男の子だなあと思った。弱さを隠すように強さを売りにしているような。
次に出会ったのは卓くんだったかな。
「山蘇野さんの大ファンなんです!!」と言ってくれたから嬉しくて、その後ご飯を食べて行ってもらった。衣子は料理上手だったから、自慢したい気持ちもあったのは内緒としてもね。
衣子は根っからの社交上手だから卓くんも色々と腹を割って話してくれた。その中でめぐちゃんという存在を聞き及んだ。

「基実くんという人に話したら、まあ、なんというか、裏切られたと言うか」
衣子と俺は顔を見合わせて笑ってしまった。こんな偶然があるのかと大笑いだった。
卓くんは不思議そうにしていたから、すぐに衣子が事情を説明した。

そのあとしばらくしてめぐちゃんという子が俺と衣子の目の前に現れた。衣子の若い頃そっくりだった。それに、卓くんと同じくらい、いやそれ以上に目を輝かせて「ああ!本物の山蘇野さんだ!!!」と泣いてしまったことも、衣子そっくりだと思った。
その時はまだ卓くんと再会する前だったみたいで、なおかつ基実くんの存在もいまいちわかっていないようで、毎日のように、暇さえあればという言い方が正しいかもしれないが忠兼くんの話をしていた。

「忠兼さんという人がいて、、、不思議な人なんだけど」と。
俺と衣子はまた目を見合って言葉を失ってしまった。人の心の機微に敏感なめぐちゃんは俺たちのただならぬ表情を読み取って「あ、」と言った後黙ってしまった。
俺と衣子は説明すべきかどうすべきか迷うように目配せした。
「めぐちゃん、お菓子食べる?」
衣子は話さないことに決めたらしい。

その夜、ダブルベッドで衣子は「驚いた」ときっかけをくれた。
「出来すぎてるよな、全く同じ展開だ」。

俺と衣子にとってめぐちゃんという存在は自分の娘みたいだと思った。忠兼くんと卓くんと基実くんの間で揺れ動くめぐちゃんを他人だとは思えなかったからだ。

しばらくして、多胡開望が案の定と言うか、当然のようにめぐちゃんの存在を知り得て介入してきた。俺たちは守るためにあらゆる手段を尽くそうとした。それに、忠兼とも一度話したいと思った。
めぐちゃんにとって安全なのか、危険なのか。

衣子も同じ思いだった。
「あたしと同じような思いはしてほしくないもの」。


忠兼くんは「誠意を示したい」と俺の誕生日にパーティーに招待してくれた。多胡の介入しない、山蘇野の家でのことだったからこの子は信頼できると感じた。

めぐちゃんには今日はじめて俺と衣子の事実を伝えた。
俺が衣子の家に婿養子に入ったことも含めて伝えた(次男だからね)。
「こんな嬉しいことはない!自分のことより最高に嬉しくて死にそう!!」と大袈裟に喜んでくれた。
「全部聞き直す!山蘇野さん!ハッピー!!もうなんでもできちゃうよーーー!!!!」

SHEpherdとSSSという小説も書いてくれるらしい。
なんだかくすぐったくなるけれど、次世代へのバトンを渡せた気がして誇らしい。

ITはさらに進化して俺たちの時代以上に難しいことも多いはずだ。
どうか、めぐちゃんが幸せになれるようにと祈る。
どうか、どうか、と。

黒沼衣子
黒沼(旧姓山蘇野)正良



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