足が悪い男
男とよくすれ違う。
たとえば道の途中だったり、近所のスーパーマーケットだったり。
男は20代後半くらいであろうか、黒縁のメガネをかけている。襟つきのチェックのシャツに、ゆったりとした太めのデニムのズボンを履き、すそは常に折ってある。
左足を引きずって歩いているので、すぐに彼だと分かる。もしかしたら左手も不自由なのかもしれない。
今日も道ばたで会った。
「足が良くなりますように」
すれ違いざまに心の中で小さく祈る。わたしはいつも、そう祈る。
「あのさぁ」
驚いてふりかえると、彼がまっすぐこちらに向かって立っていた。
メガネを少し下にずらして、レンズごしではない目が、目と合う。
「オレ、別に困ってないけど」
わたしは思わず逸らす。
彼はくるっとターンし、前方に向きなおると、ふたたび足を引きずりながら歩いて行った。