【河合】ドルど語らせてくれや。

好きなアニメについて一つお話をします。

「アイドル世紀列伝＝ふぁるすふっど」という、今から25年くらい前にやっていたアニメをご存じでしょうか。

ご推察の通りアイドルモノのアニメなのですが、アイドルモノのクセになんか熱血な感じのするタイトルが良い。
この「ドルど(公式略称)」は当時としては珍しいロボット×バトル×アイドルというジャンルで、マクロスなんかよりもずっと萌え萌えしいデザイン、それとは裏腹なアツさはアニメに激震を与えた…んじゃなかろうか。

かなり知っている人が少ないので、ぜんぜん与えていない気もする。

以下あらすじ。

終業式の日の朝、明察中学に通う二年生の女の子「秋原ふうは」は登校中に突如空から落ちてきたロボットの女の子「ふぁるす・for-01」と出会う。

春休みの間彼女らは親交を深めるが、これまた突如空から落ちてきた謎の厄災によって地球全土からアイドル文化が消えてしまった。
活力を失った世界に困惑するふうは。しかしなんとふぁるすは厄災に対抗するために作られたロボットであり、そのパートナーとしてふうはを選んだのだった。

中学三年生になったふうはと転入生として学校に通うことになったふぁるすは、卒業までの一年間を捧げ「アイドル兵器ふぁるすふっど」として地上にアイドル文化を取り戻すべく厄災と戦う。

良くない？おもしろいんですよ。ファンからは「歌うプリキュア」と呼ばれている。

このアニメの何が良いって、全体を通してロボと人間の違いについて独自の解釈で描かれているところなんですね。
ロボットと少女の友愛、プログラムと生身の人間の価値観の差、オタク(話が進むにつれアイドルオタクが増える展開である)たちのロボットを推していいのかという悩み、厄災からアイドルへ向けた思い、アイドルから厄災へ向ける思い。

ふぁるすはとてもコミカルなキャラクターで、明るく前向きで正義感の強い子だ。笑ったり泣いたり怒ったりと感情がくるくるまわり、どこがロボットなのかと疑うくらいの人間臭さがある。顔はロボ丸出しだけど。
しかし人間臭さがあるとはいえその感情の起伏はプログラムで、時折会話がおかしかったり国語や道徳の授業ではフリーズしてしまう事も多い。

それはもちろんライブ中もそうで、曲中は歌って戦うスーパーアイドルだが戦闘が終わった後のフリートークや握手会なんかでは本当にさっき歌って戦ってたのか疑うくらいケロッとしている。別日収録みたいな感じ。

作中では、【そのロボットらしさが彼女の魅力だと言うオタク】と【ロボットが人間のフリをしていて気味が悪い】と言う厄災に呑まれた元オタクがすっごい口論をする回がある。ふぁるすは「そのうちこんな事にはなるって知ってたよ」と笑うのだが、そのマジで何にも感じてない笑顔がとても怖くて仕方がなかったのを覚えている。

この回で、このアニメで一番の後世まで残したい名セリフがある。

ふうは「人間だってロボットから見たら気持ち悪いかもしれないじゃない、こんな事で言い合ってばっかりで。
人の事悪くいったらいけないって小学校で習わなかったの！？ふぁるす泣いちゃうよ！？」

このセリフ。
ロボットが泣いちゃうって！純粋かよ！とオタクは泣いちゃうのだが、ふぁるすがこんな事で泣くわけがない事をふうは一番よく知っている。この世で一番ふぁるすと仲が良いのはふうはなのだから。

このシーン。
描かれているのは清い心と深い友情なんかではなく、彼女は彼女の道徳をロボットに押し付けている、身勝手さをここで見せているのだ。

ふうはは厄災と戦う理由が無い。ふぁるすと唯一仲が良いから、そしてそのふぁるすに選ばれたから共に戦っているに過ぎない。いわば友だちと遊んでいるのと同じなのだ、規模がでかすぎるだけで。

しかし規模がでかすぎるのでどんどん「やめちゃいたい」と思う事が増えてくる。そんなふうはが一年間厄災と戦うには、ロボットと人間の友情を自分の中で大きな尊いものにしていくしかないのだ。
自分で自分を神格化していく事で、まるで物語の中にいるような錯覚を起こし没入する。世界のためとはいえ友人を利用する、しかし利用せざるを得ない悲しいシーンでもあるのだ。

アイドルは偶像とよく言われるが、自らを自らにとっての偶像として変えていってしまうふうはからは「世界の理不尽さ」を見ずにいられない。

ふうはは後の回でこの事をふぁるすに詫びている。
「いい子ぶった」と。

当のふぁるすは笑い転げて、それにつられてふうはも笑い二人は和解した(別に仲悪くはなってない)のだが、この詫びのシーンがまた良いんですわ。間を死ぬほど取っていて、とんでもねぇ演出がされている。ファンからは「アニメ界の4分33秒」と呼ばれている。これに関しては実際見てほしい。

語るところはたくさんあるけれど、今日はドルどの好きなセリフを紹介しました。曲もすごく良いので、気になった方は曲をまず聞くと良いですよ。

このアニメ無いんだけどね。