【文法】水兵 liebe(リーベ) 僕の船?
化学で、元素周期表の1・2周期目の覚え方として「水兵 liebe(リーベ) 僕の船」というのがある。この表現だが、大学の第二外国語などでドイツ語を少し学んだ人には、よくよく考えると違和感を覚えないだろうか?
動詞lieben(愛する)の現在人称変化
ドイツ語を全く知らない人や忘れた人のために説明すると、"liebe"は「〜⁴を愛する」というドイツ語の動詞が変化した形(定動詞 、定形)であり、基本形(不定詞、不定形)は"lieben"である。下に"lieben"と、比較として英語の"love"の現在形の人称変化表を示す。
英語には、いわゆる3単現の"s"という変化のみが残っているが、ドイツ語はそれぞれの人称・数で形が変化する。
さて、違和感の話に戻ろう。水兵が僕の船を愛しているという意味なら単数で「水兵 liebt 僕の船」、あるいは、複数で「水兵 lieben 僕の船」となるはずである。
ドイツ語の3つの法とその人称変化
これを理解するために、法(mood)の概念を説明する。英語には、3つの法がある。直説法(普通の文)、命令法(命令文)、仮定法である。昔の英語では、法が違うと、動詞の変化が大きく変わっていた。例えば、仮定法には"If I were 〜, …"という言い方があるが、これはその名残である。
ドイツ語にも3つの法がある。直説法、命令法、そして接続法である。接続法というのは仮定法と同じものである。英語では接続法が仮定法と慣用的に呼ばれている。ドイツ語の接続法は2種類あり、それぞれⅠ式・Ⅱ式と呼ばれる。
現代ドイツ語も、法が違うと動詞の変化が大きく変わっている。つまり、いずれかの法で、3人称の単複どちらかに"liebe"の形があればビンゴである。
以下に、"lieben"の直説法現在形、直説法過去形、命令法、接続法Ⅰ式、接続法Ⅱ式の全ての人称変化表を示す。
表の通り、3人称単数がliebeの形を取るのは、現代ドイツ語では接続法Ⅰ式のときのみである。ではこれは何を意味しているのか。
接続法Ⅰ式とその用法
接続法Ⅰ式には主に2つの用法がある。1つ目が、要求話法(英語の例だと、イギリス国家の"God Save the King"「神よ王を護りたまえ」などがある。英語の文法用語では仮定法現在というが、3単現の"s"がついていないのは直説法現在形ではないからである。)である。主語に対する要求などを表す。
2つ目は間接話法で(特定の場合や口語では接続法Ⅱ式を利用する場合もある)ある。直接話法と間接話法の違いだが、「水兵が『私はあなたの船を愛しています』と言った。」というのが直接話法であり、「水兵が、(彼が)私の船を愛していると言った。」というのが間接話法である。ドイツ語の間接話法では、特に文学などで「〜が言った」部分が省略されることもある。
さて、いよいよである。まず要求話法として解釈してみよう。「水兵よ僕の船を愛してくれ」、う〜ん、一旦置いておいて間接話法も見てみよう。「水兵は僕の船を愛していると(その水兵は言った)」、う〜ん。
3周期目の内容考慮
この元素周期表の覚え方は第3周期+K&Ca(11〜20番)に続いていく、ならば、続きとの収まりの良さを比べてみよう。といっても何種類かある。メジャーなのは「七曲り(七曲る)シップス クラークか」、「名前(が)あるシップス クラークか」、「名もあるシップス クラークか」だろう。7回曲がるかには関わらず、クラークは船の名前と考えていいだろう。しかしシップスをどう解釈するか。船の複数形"ships"ととると上手くいかない。それよりは、船+"is"の"ship's"と考えると上手く行きそうだ。「(7回曲がった)その船はクラーク(という名前)だったか。」、悪くないだろう。
では前半をくっつけてみよう。要求話法だと、「水兵よ僕の船を愛してくれ、(7回曲がった)その船はクラーク(という名前)だったか。」、まあ悪くないかもしれない。間接話法だと、「水兵は僕の船を愛していると(その水兵は言った)、(7回曲がった)その船はクラーク(という名前)だったか。」、う〜ん、まあ悪くない。
この2つを比較すると、やはり、「愛してくれ」と言っているのに「クラークだったか?」はナンセンスだろう。後者、間接話法であるということで結論づけたいと思う。
補足と余談
一応、第4周期以降も考えてみよう。「(閣下)スコッチ暴露マン、徹子にどうも(どうせ)会えんが、ゲルマン斡旋ブローカー」が有名だろうか。ここからは文系では覚えていない人が多い領域である。「スコッチを暴露する男は、徹子(黒柳徹子?)にはどうも(どうせ)会えないが、ゲルマン人(ドイツ語や英語、オランダ語などの祖語であるゲルマン祖語を話す)を斡旋する(仲をとりもつ)ブローカー(仲介人)である。」もう意味がわからない。やめよう。
ところでリーベは名詞として解釈することもできる。名詞"Liebe"は恋人を表す。「水兵である恋人(あるいは水兵と付き合っている恋人)は、僕の船(を見た)、(7回曲がった)その船はクラーク(という名前)だったか。」無理そうである。
2人称単数の命令法にも"liebe"がある。こう見るとどうなるだろうか、水兵への呼びかけである。「水兵よ、僕の船を愛せ!(7回曲がった)その船はクラーク(という名前)だったか。」、命令するのに「だったか」はナンセンスなので要求話法と同じ理由ではじかれる。
また、そもそもこれは語呂合わせ(しかも理系分野)なのだからドイツ語の正確性などは元から考慮されていないとも考えられるが、それを言ってしまったらこの考察はおしまいである。