嘘を塗り重ねて
「いつ好きになったか覚えてない」
最初の嘘
本当はね、ちゃんと覚えてる。
そんなこと話したら笑われるかなって。こっちだけとっくに本気だなんて知ったら重たいんじゃないかなって。だから言わなかった。
友だちには戻れないし、恋人にはなれないし、セフレにすらしてもらえない。だから最後まで、愛想を尽かされるまで、ちゃんと都合よくいようって決めたの。
「あちぃ」って寝言を言いながらタオルケットを蹴るくせに、くっついてくる。「汗つくからやめてよ」って嫌がってみせたけど、眠るのがもったいないくらい嬉しかった。
一日でも長く続きますように。
「嫉妬とかあんまりしない」
二番目の嘘
本当はね、いつも嫉妬してた。
毎日一緒にいられる人たちが羨ましくておかしくなりそうだった。
だから、他の人が知らないあなたを知ると、ちょっと誇らしかった。
靴紐が上手に結べないとこ、変な手のつなぎ方、キスをする時に目を開ける癖。
でもやっぱり増やしたかったのは秘密じゃなくて、コソコソしないで外をふたりで歩ける時間だったの。
大きな仕事が決まったって、しばらくして他の人から聞いた時、気づいちゃった。一番に報告してほしかたなんて独占欲に溺れて、ちっとも都合がよくないね。
「将来が想像できない」
三番目の嘘
本当はね、いつも想像してた。
「脱ぎっぱなしにしないでよ!」「洗面所ビチャビチャじゃん!」どうでもいいようで、どうでもよくないケンカばかりの暮らし。
ドラマや映画を観て、コンビニまで散歩のつもりがファミレスに入っちゃう、ドリンクバーだけで何時間もおしゃべり、夜ふかしばかりの暮らし。
猫も一緒の暮らし。
もしもふたりに子どもが生まれたら。きっと泣き虫で甘ったれで、飽きっぽいくせに好きなことには夢中になって、すぐ走ってすぐ転んで、人見知りするのに家の中ではおしゃべりな、ちょっと変わり者なおもしろい子。
「もう好きじゃなくなったから」
最後の嘘
本当はね、やっぱりやめとく。
「好きだから」だけで走り続けられるほど若くない。
季節をもう一周する自信も覚悟も無いの。
都合よくいられなくてごめんね。
疲れてしまったの。期待してしまう自分に。
これ以上に嘘を塗り重ねたら、見えなくなってしまうから。
4月1日に本音を吐き出すようなズルい性格だって知ってた?
だって、今夜話したことは全部嘘になるでしょう。
iri /会いたいわ
Photo by @kenmatsubara_
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