9月:月夜の思い出 wrote by @rilmiduki
さあおいで こっちへおいで
不思議な声に誘われて
子供たちがたどり着いたのは…
──寂しがりやな妖の月夜のいたずらのお話。
勇 (ゆう) 中学一年生
さっぱりとした性格であまり細かいことは気にしない。秋菜と同じクラス。
秋菜 (あきな) 中学一年生
しっかり物で面倒見がいい。幽霊とかは信じないタイプ。
透 (とおる) 中学二年生
男勝りな性格。怖いものが苦手という可愛い面も。蓮とは家が隣同士。
蓮 (れん) 小学六年生
真面目で大人しい性格。透同様怖いものが苦手。
?・みづき 見た目は小学校高学年くらい
中性的で不思議な雰囲気を持つ。かなりマイペース。
[とある校舎跡の教室]五人の子供が倒れている
勇「ん、んん………!?(目が覚めて辺りを見渡したあとガバッと上体を起こす)…なんだ、ここ……うーん……夢?……ていっ(頬を叩く)…いったぁ…夢じゃないのか?なんで俺こんなところに…」
起き上がって辺りを見渡す
勇「…他にも寝てるやつらがいる…あれは」
秋菜に近づき揺すり起こす
勇「秋菜!おい起きろよ秋菜!」
秋菜「ん、ん…?…あれ、勇くん?(上体を起こす)…私は…ここ、どこ…?なんでこんなところに…」
勇「俺にもわからない。学校…だよな、多分。かなり古いけど」
透「ん、ん~…るっせっなぁ、なんだ?もう朝か…?…って、ここどこだ?」
蓮「……(起きたあと辺りを見渡して)僕はなんでこんなところに…?」
みづき「ふあぁ…って、なんでボク学校なんかにいるの?」
勇「他のやつらも起きたみたいだな。何かわからないか聞いてくる」
透「ん?蓮じゃねーか。お前までこんなところで何やってんだ?」
蓮「透さん?透さんこそ…それにしてもおかしいな…僕は確か、塾の帰りに」
勇「お前ら、知り合いなのか?」
透「ん?なんだ、あたしら以外にも人いたのか」
蓮「家が隣同士なので。あなた…(後ろの方に秋菜を見つけ)たちは…?」
勇「俺は勇。で、あっちが秋菜。クラスが一緒なんだ。んっと、透に、蓮、って言ってたよな」
(同時に)透「おう」・蓮「はい」
勇「なんで俺たちこんなところにいるかわかるか?」
透「さっぱり。そっちは?」
話している間に秋菜が近くまで来ていた
秋菜「私たちにもわからないの。気がついたらこんなところで寝てて…」
蓮「だとすると、後は」
全員の視線がみづきの方へ。何故か机をやたらと漁っている
みづき「なんかおもしろいものないかなっと」
勇「…(呆れたように)のんきなやつだな…なぁ!」
みづき「んー…こっちの机はどうだろう?」
勇「……なあおい!おいってば!」
みづき「?…(辺りを見渡したあと自分を指差して)ボク?」
勇「…そうだよ。お前…えーっと、名前は?」
みづき「みづき」
勇「みづきか。みづきは何かわかることとか覚えてることとかあるか?」
みづき「んー?…んー………わかんない」
勇「(がくっ)…そうか」
みづき「でも、ここに来る前のことなら覚えてるかも」
勇「本当か!?」
みづき「なんとなくだけど。なんか、子供みたいな人影に声をかけられた気がする。『こっちへおいで』って」
勇「『こっちへおいで』…(思い出したように)そういえば!」
回想
[勇の家] 部屋で勉強をしている勇
勇「ふぅ、宿題終わりっと。んーー(伸びをする)疲れたぁ…」
?「…いで…っちへ…で」
勇「ん?何か聞こえたような………(耳を澄ましてみる)気のせいかな?」
?「…へおいで」
勇「また…窓の方からか?」
窓を開け外を見渡す
勇「んー…誰もいないみたいだけど……ん?あれは…」
(手招きしている人影が見える)
勇「こんな時間に何やってるんだあいつ。…何か言ってる。さっきの声もあいつか…『こっちへおいで』…かな?手招きしてるし…(少し考えたあと部屋を出ていく)」
[勇の家の前の道路]
勇「…あれ、おっかしーなー、この辺だと思ったんだけど…」
?「こっちへおいで」
勇「いた。おーいお前、こんな時間に何やってるんだよー」
?「ふふふ」
さぁっと風が吹く
勇「…なん、だろう……あたまが、ぼーっとして……」
?「ふふ さあおいで こっちへおいで」
勇「……(歩き出した人影を追っていく)」
回想終了
勇「俺も見た、子供みたいな人影!」
透「あ、そういやあたしも!」
秋菜「私も!お買い物頼まれたから行こうとしたら声かけられて…」
蓮「僕もです。塾の帰りに…でも…」
秋菜「…それからどうなったのかが…思い出せない…」
それぞれ沈黙
蓮「まさか…誘拐、とか…?」
勇「(少し動揺したように)いやまさか」
秋菜「でも、他にこの状況を説明できることが…」
透「子供が誘拐なんかするかぁ?」
蓮「子供を使って大人が誘拐した、とか…」
勇「いや、でも俺たちを誘拐したところでそんな」
みづき「あのー」
勇「ッ、なんだよ!」
みづき「少なくとも誘拐じゃないと思うよ。だってほら、見張りとかがいないし」
蓮「…そういわれてみれば…」
秋菜「でも、誘拐じゃないとしたらいったい…あ、そうだ、スマホ!警察とかに連絡すれば…(スマホを探して連絡をとろうとする)」
蓮「あ、僕も」
勇「~…スマホ、部屋に置きっぱなしだ」
透「あたしも。あんたは?」
みづき「ボク、スマホ持ってないんだよね」
透「マジかよ。今時珍しいな」
秋菜「…だめ、圏外になってる」
蓮「…僕のもです」
勇「…だめかぁ…」
再び沈黙
みづき「とりあえず、いつまでもここにいてもしょうがないし、外に出てみようよ」
勇「…そうだな。外なら電波も繋がるかもしれないし、意外と歩いて帰れる距離かも」
蓮「最低でも人のいるところまでいければそれでいいわけですしね」
透「よし、行くか!」
[正面玄関]
勇「(扉を開けようとしている)…だめだ、鍵かかってる」
透「マジか…そっちは?」
秋菜「…(スマホを確認し無言で首を横に振る)」
蓮「困ったな…来る途中の窓とかも全部しまってましたし…って、みづきさんは何をやっているんですか?」
みづき「(ロッカーを漁っている)んー?なんかおもしろいものないかなぁと思って」
蓮「…はぁ…あの、状況わかって」
みづき「あ、これなんだろう」
透「なんか見つけたのか!?…って、なんだよただの紙切れじゃねーか」
みづき「ただの紙切れじゃないみたいだよ?」
透「あ?」
みづき「(文字を見せる)ほら」
全員で見る
勇「『ススキ お団子 里芋を持って月が一番よく見える教室へおいで』?…なんだこれ」
秋菜「…お月見でもするのかな?」
勇「月見?」
秋菜「だいたいこの時期に家族といつもやってるの。その時にいつもお供えしてるものばっかりだったから」
蓮「月の見える教室へおいでとも書いてありますしね」
透「いや、こんな時に月見なんかしてどうすんだよ!だいたい、ススキとか団子とか里芋とか、こんなところにあるわけねえだろ」
みづき「これを書いた人がどこかに用意してるんじゃないかな?」
透「は?」
みづき「裏側にこんなことが書いてあった」
透「…『一緒にあそぼ』?は?遊ぶって、なんだよそれ。どうせ誰かのいたずらだろ?あ、そうか!これドッキリかなんかだろ。どっかで隠れて見てるやつがいるんだな?(息を吸って)おい、どこにいやがる!隠れてないで出てきやがれ!」
透の声が廊下に響き渡る
透「…ちっ、無視かよ」
みづき「…もしかしたら、人間のしわざじゃないのかも」
透「…は?」
みづき「こんな噂を聞いたことない?廃校に住み着く妖怪の話」
透・蓮「ッ…」
みづき「その妖怪は、月の綺麗な夜、何人かの子供を自分の住みかに集めてちょっとした遊びを仕掛けるんだって。その遊びに付き合わないとそこから出ることは出来ない。だから、もしこの紙の言うとおりにしなかったら…」
蓮「しなかったら…?」
みづき「一生ここから出られないかも」
蓮「い、一生!?」
透「はっ!ば、馬鹿馬鹿しい。そ、そそそんなの、た、ただの、噂だろ!」
秋菜「そうそう。そんな怪談ならこの町にはいくつもあるし、他と同じただの迷信でしょ?」
勇「んー…でも、状況的には合ってるよな」
秋菜「勇くんは好きだよねぇ、幽霊とか妖怪とか。そんなのいるわけないのに」
透「そ、そうだそうだ!そんなもんいるわけねぇんだ。ひかがくてきだぞ!」
秋菜「…(透に聞こえないように)透さん、怖いんだね…」
勇「けどさぁ、玄関の扉はともかく、窓の鍵まで開けられないのはおかしくないか?」
秋菜「相当古いみたいだし、開けづらくなってるだけじゃないかな?もっと探してみれば開くとこもあるかもしれない」
蓮「だ、だめですよ!もしあの紙に逆らってそんなことしたら…一生出られなく…」
透「そ、そうだ!それにもしかしたら、妖怪を怒らせて…あたしたち、食べられちまうかも!」
勇「透は信じてないんじゃなかったのか?」
透「あ、いや、そ、そう!信じてはいないぞ?信じてはいないけど…ほ、ほら、人間のしわざだったとしても、ルールに逆らったらまずいかもしれないじゃん?それで」
みづき「とにかく。ボクはこの紙に書いてある通りにするのがいいと思うんだけど」
勇「他に手がかりもないしな」
蓮「僕も、賛成です」
秋菜「私は…他の出口を探した方がいいと思うけど」
透「あたしも秋菜に賛成だ…けど、こういう場合は多数決、だよな。3対2だから、まぁ仕方ねえ。そっちの方針に従ってやる」
秋菜「ばらばらになって探せばいいんじゃ」
透「バカ野郎!こういう場合なぁ、バラけたら一人ずつ消えてくもんなんだよ。全員一緒に行動。これが基本だ」
秋菜「(心の中で)透さん、本当に怖いんだね」
勇「よし、そうと決まったら手分けして探すか」
透「へ!?」
勇「いや、そっちの方が効率いいだろ」
透「え、あ、いや、でも…」
みづき「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。そんなに危ない妖怪じゃないはずだから」
透「こ、根拠は…って、別にあたしは怖がってなんか」
勇「それじゃ、俺と蓮は二階の方を探してみる」
秋菜「はぁ…しょうがないなぁ。じゃあ、私と透さんは一階を」
透「え、ああ、うう…」
秋菜「大丈夫だよ透さん。一人にさえならなければ心配ないでしょ?」
透「う、で、でもぉ…」
みづき「それじゃ、ボクは一人で適当に探してみるね」
透「うぇえ!?」
みづき「大丈夫大丈夫、さっきも言ったけど、そんなに怖い妖怪じゃないって。じゃ、また後で」(さっさと走っていく)
透「だからその根拠は!?」
勇「あ、みづき!お前時計は持ってるか!?」
みづき「もってるよー!」
勇「30分たったらここに集合な!」
みづき「わかったー!」
勇「…スマホは持ってないのに時計はもってるのか…まぁいいや。じゃ、俺たちも行くか」
蓮「は、はい。よろしくお願いします…」
勇「そんな固くなんなって。気楽に行こうぜ」
勇と蓮二階へ
秋菜「本当に大丈夫かなぁ…(ため息)それじゃ、私たちも行こっか、透さん」(歩き出す)
透「あ、ま、待てよー…うぅ…」
30分後
勇「いやまさか本当にあるとはな、里芋」
蓮「想像以上に大変でしたね…里芋の入ってる机の鍵を手に入れるために鍵の入ってる箱の鍵を探したり…」
勇「まるでリアル脱出ゲームみたいだったな」
蓮「だっしゅつげーむ?」
勇「ん?知らないのか?」
蓮「はい。僕、ゲームはやらないので…」
勇「もったいない、すっげぇ楽しいのに」
秋菜「あ、先に来てるみたい。おーい、勇くーん蓮くーん」
勇「お、来た来た…って…透、なんでそんな真っ白になってんだ?」
透「…ほっとけ」
秋菜「あはは…えーっと、調理室に行ったらお団子の材料だけあったから、二人で作ろうとしたんだけど…」
勇「あーなるほど。粉ぶちまけたと。ベタだなぁ」
透「うるせーよ!」
秋菜「一応顔だけは洗ったんだけど…服は洗えないから…」
蓮「透さん、料理ド下手ですよね」
透「ふんっ」
勇「で、あとはみづきか。あいつ、一人で行ったけど大丈夫かな?」
透「や、やっぱり、一人になったやつから消されて」
みづき(下駄箱の裏から)「ばぁ!」
透「のわあぁぁ!!」
みづき「あははは、もーびっくりしすぎだってば」
勇「…みづき…いたずらもほどほどにしろよ。あー、蓮、大丈夫かー、蓮ー(蓮の顔の前で手をひらひらさせる)」
蓮「………はっ…あ、だ、$&^@*+&(本人は大丈夫ですと言っているつもり)」
勇「なに言ってるかわからないぞー」
みづき「あはは、あーおもしろい。こんなに笑ったのは何年ぶりかなぁ」
勇「それは大袈裟だろ。で、そっちは見つかったか?」
みづき「ああ、うん。はいこれ、ススキ」
勇「よし、これで全部揃ったな。あとは…月が一番よく見える教室、か…」
みづき「あ、それならボク見つけたよ」
勇「え、本当か?」
みづき「うん。ついてきて」
勇「あ、待てよ」
秋菜「あ、もう行くの?…二人とも、大丈夫?」
透「ぜ、ぜんぜんもんだいないぜー」
蓮「ら、た、だ、らい、じょー、ぶ、れす」
秋菜「…ごめーん、先行っててー!」
勇「あー、なんというか…なるべく早く来いよー!」
[廊下]教室へ向かいながら
勇「ったく、やりすぎだぞみづき」
みづき「あはは、ごめんごめん。そういえば、よく見つけられたね、里芋」
勇「室内でススキ見つけるのも難易度高そうだけどな。こっちはまぁ、リアル脱出ゲームみたいで楽しかったぜ」
みづき「りあるだっしゅつげーむ?」
勇「……お前もゲームやらないのかよ…ってそっか、みづきはスマホ持ってないんだっけ」
みづき「うん」
勇「便利なのにな。なんで持ってないんだ?」
みづき「…なんとなく?」
勇「なんだそれ」
みづき「ふふ。あ、ここだよ」
勇「…あいつらは…まだ来ないのかな…」
後ろを振り返るとちょうど走ってくる姿が
勇「お、来た。おーい、早くしろよー!」
秋菜「もー、急かさないでよ」
二人に追い付く
蓮「ごめんなさい、遅くなってしまって…」
透「蓮、謝んな。…みづき…後で覚えてろよ…」
みづき「あはは、覚えてろよ、かぁ…ふふ、怖いなぁ」
勇「…(やれやれみたいなため息)じゃ、入るか」
教室のドアを開けて中に入る。窓からとても綺麗な月が見える
勇「……すっご」
秋菜「綺麗…」
透「はー…月を見てこんな感動したのは初めてだぜ」
蓮「一番よく見える教室…本当に、すごいですね」
みづき「…ねえ皆、黒板見てみて」
勇「黒板?」
秋菜「『一緒にお月見しようよ』?」
透「い、一緒にって、妖怪とか!?」
蓮「ということは…まさか、この教室に妖怪が!?ど、どこに、どこに…」
みづき「もー二人とも、まだ怖がってるの?」
透「そりゃ怖いに決まっ…いや、怖くねぇ!怖いわけじゃねぇぞ!」
蓮「僕は怖いですよ!だって、ここまで誘い込んでおいて結局僕たちを食べるつもりかもしれないじゃないですか!」
勇「やー、今更そんなことしないだろ。俺たちを食べる気なら今までだってチャンスはあったんじゃないか?」
秋菜「というか、結局みんな妖怪の話信じてるんだ…だから、こんなの誰かのいたずらだって。ここまで来た以上、最後まで付き合ってやろうじゃない」
勇「けど、一緒にってことは、そいつが来るまで待ってた方がいいのか?」
みづき「んー…どうだろ。『この部屋で』一緒にとは書いてないから、書いた本人は他のところで見てたりして」
勇「こんな綺麗に見える場所があるのにか?」
みづき「恥ずかしがり屋なんじゃないかな?本当にボクたちと同じ教室で見たいなら、最初から一緒に行動するんじゃない?」
勇「んー…まぁ、そういうことにしとくか。考えてもしょうがないし。じゃ、始めるか…っていっても、どうすればいいのかわからないな」
秋菜「私わかるよ」
勇「ああ、毎年やってるって言ってたっけ」
秋菜「うん。でも、お皿とかどうしよ。あと、お団子置くやつ…あれ名前何て言うんだろ」
みづき「三方(さんぽう)のことかな?まぁ、形式とかはそこまでちゃんとしてなくてもいいんじゃないかな?作法とかも大事だけど、こういうのは楽しければそれでよしでしょ」
秋菜「あれ、みづきさんも結構詳しいんだね」
みづき「まあね」
勇「ん?みづき『さん』?珍しいな秋菜が男相手にさん付けとか」
秋菜「え?女の子でしょ?」
勇「え?いや男だろ。『ボク』って言ってるし」
秋菜「女の子でも『ボク』って言う人いるよ?確かに話し方も男の子っぽいけど…」
みづき「そんなこと今更どっちでもいいから。手伝ってくれない?」
勇・秋菜「(心の中で)どっちでもいいんだ…」
蓮「ほ、本当に大丈夫でしょうか…もっとちゃんとしないと、妖怪に怒られたり」
みづき「しないしない。もー本当に怖がりだなぁ。…よし、まぁこんなもんでいいか」
勇「で、この後はどうするんだ?」
秋菜「月を見ながらおしゃべりしたり、お団子食べたり」
透「お供え物食べんのか!?それこそバチが当たるんじゃ…」
みづき「それはぜんぜん大丈夫。月見にはお月見泥棒っていう風習があってね。お供え物を勝手にとってもいいってことになってるんだ。(団子を1つ手に取り)こうやってお供え物を食べるのも1つの楽しみなんだよ。あーん(団子を食べる)」
勇「ふーん、じゃあ俺も。あーん、(団子を食べる)…んー…味しないな」
秋菜「なんの味付けもしてないからね。私にも1つちょうだい。…ほら二人も、いつまでも怖がってないで、一緒に食べよ」
透「だ、だから怖がってねぇって!…(引ったくるように団子を取り食べる)」
蓮「…じゃ、じゃあぼくも…」
勇「ふぅ、にしても、本当に綺麗な月だなぁ。なんか、色々面倒なこともあったけど…楽しかったし、妖怪には感謝しなきゃな」
みづき「…そんな風に言ってもらえて、きっと喜んでると思うよ。…(皆のことを見回したあと)きっとこんな風に、綺麗な月を見ながら一緒にお団子を食べたり、お話したりしたかっただけなんだよ」
勇「そっか。…って結局本人いないじゃん。まったく、顔くらい見せろっての」
みづき「(笑いながら)そうだね。…さて、そろそろ時間かな」
勇「時間って?」
みづき「早く帰らないと、親御さんが心配するでしょ?」
勇「それはそうだけど、帰る方法が…え?」
みづきの姿がぼやけて人影になる
勇「お前、は…」
みづき「帰る時間だよ」
(三人同時に)秋菜「ん?」・透「は?」・蓮「え?」
みづき「久しぶりに楽しかったよ ありがとう」
勇(だんだんと朦朧としながら)「み、づき…お前…」
みづき「さあ 君たちの家へお帰り」
朦朧としながら歩き出す四人
みづき「さよなら」
勇(ナレーション)
あのあとどうやって家に帰ったのか覚えていない。気付いたら家の前にいて、両親にはこんな時間にどこに行っていたんだと怒られた。事情を説明したが、当然信じてもらえるはずもなかった。
秋菜(ナレーション)
帰って来たあとにスマホを確認したら、何故か蓮くんの連絡先が入っていた。交換した覚えなんてないけど、今更不思議なことが1つ増えたくらいでは驚かない。さすがにもう、妖怪や幽霊なんて迷信だなんて言えないな。
透(ナレーション)
しばらくして、休みの日に四人で会うことになった。正直今でも夢だったんじゃねぇかとも思うし、あんなこわ…じゃない、妙な体験が現実だなんて信じらんなくて…でも、怖い…あーもういいや!…怖いだけじゃなくて楽しいこともあったから、あれは現実だったんだって確かめたくて。
蓮(ナレーション)
確かめたいことは他にもあった。あの場所で聞いた噂、廃校に住み着く妖怪の話。周りの誰に聞いても、そんな噂は知らないと言った。怪談話に詳しい人たちでさえ首を横に振った。では、あの話はなんだったのか…そしてあの話をした人は…
?(ナレーション)
彼らは確かに五人で行動したはずだ。でも、四人の子供たちの誰一人として、最後の一人の顔も名前も覚えていなかった。その人の存在自体も…きっと、朝起きた時にははっきりと覚えていた夢の内容を、昼になったら忘れてしまうように、いつかは忘れてしまうだろう。それでも…
ボクはずっと 覚えているよ