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3月:君と同じ…… wrote by @rilmiduki


新しい学校。新しい制服。
そして何より、好きな人と同じ町に住み
同じ学校に通える喜びに胸を膨らませながら、
彼女は彼の家のチャイムを鳴らす──。

■涼風 晴 (すずかぜ はる) 17
天真爛漫な性格だが、意外と傷つきやすい。親の都合により風都町に引っ越してきた。静のことが好き。4月から時ツ風学院に転入する。

■浮雲 静 (うきぐも せい)  16
ぶっきらぼうで不器用だが根は優しい。晴の遠い親戚。時ツ風学院に在学中。

□犬飼 誠 (いぬかい まこと) 17
時ツ風学院の生徒。静とは同じ委員会で面識がある。




[晴の部屋]姿見の前でくるくるしている

晴「んー、やっぱり何回見ても可愛いなぁこの制服!4月からこれ着て学校行くのかぁ…」

私、涼風晴は両親の仕事の都合でこの春からここ、風都町で暮らすことになった。風都町には小さい頃からたまに遊びに来てたんだけど、季節が変わるとまるで別の町に来ているのかなって思うくらい雰囲気が違っててそれが全部きれいで。両親も私もこの町が大好きだった。これからもっと色んなこの町が見られると思うと…

晴「ふふ。楽しみだなぁ…新しい景色、新しい学校、新しい生活!それに…」

静くんと同じ…

浮雲静くんは私の幼馴染。遊びに来た時いつもお世話になっている家の子で遠縁にあたるらしい。休みの日は引きこもりがちな彼をなんとか外に連れ出しては一緒に遊んでいた。まぁ、手のかかる弟みたいなものだ。…って言いたいところだけど、実際は家の中で遊ぶのが苦手な私に、外で遊ぶのが苦手なはずの彼が合わせてくれていたって感じ、なんだろうな。口では色々言うけどいつも周りを優先する、静くんはそういう人だから。

晴「…さてと、そろそろ行った方がいいかな。」

今日はこれから静くんに町を案内してもらう予定。よく使う場所も違うだろうから、親は親同士、子供は子供同士の方がいいだろうということで両親とは別行動だ。

晴「静くん、この格好見たらなんて言うかな…可愛い…とは言ってくれなさそう…んー…なんか、なんの感想もなさそうだなぁ…でも、せっかくだから早く見せたいしね!うん、とりあえず見せるだけってことで!よし、行こう。……一言くらい何か言ってくれたら嬉しいな」


[静の家]玄関前

晴「うー寒い…やっぱり上着くらい着てくればよかったかな…。

…(インターホンを押そうとして、一度上にある静の部屋を見上げてから覚悟を決めたように)よし…えい!(インターホンを押す)」

………………

晴「…あれ?(2回続けてインターホンを押す)………反応がない。おかしいなぁ(スマホを取り出し時間を確認)時間はあってるよね。うーん…寝てるのかな………もう!(インターホン連打)」


[静の部屋]寝ている静。インターホンの音が鳴り響いている

静「ん、んん………ッ(上体だけ起こす)………うるさい。」


鳴り続けるインターホン

静「…しつこい…父さんたち、出掛けてるのか………これだけ鳴らして出ないんだから、諦めて帰ってくれないかな……(音がやむ)止まった…さすがにかえ」

晴「静くーん!!」

静「……あぁ、そういうこと……」


[玄関前]

晴「もーまだ起きないのー?(息を思い切り吸って)せーいーくーん!!おーい、静くーん!!」


静の部屋の窓が開く

晴「あ、起きたかな?おーい静く(鍵が降ってきて頭に当たる)いたッ」

静「そんなに何回も呼ばなくても聞こえてるから。近所迷惑だから、中入って待ってて」

晴「いたた…もー、投げるなら投げるって言ってよ。(ため息)相変わらずだなぁ」


[静の部屋]

静(着替えながら)「はぁ、本当適当なんだから。晴たちが遊びに来るって連絡来たらぼくにも教えてって言ってるのに」


[静の家]居間

晴「静くんまだかなぁ…(降りてくる足音)あ、来た。遅いよー静くん」

静「文句ならうちの両親に言って。今日来るなんて聞いてな(晴の姿を見て固まる)」

晴「あーおじさんたちまた伝え忘れてたんだ。いつものことだからそれならしょうがないか…って、どうしたの、固まっちゃって」

静「……その制服」

晴「あ、気付いた?えへへ、どうかな。可愛い?似合う?」

静「…いや、なんで晴がその制服着てるの?」

晴「…それだけ?(少し拗ねたように)確かにちょっと早いけど、別にいいでしょ?4月からこの制服着て学校行くんだなって思ったらテンション上がっちゃったの」

静「4月から、それ着て、学校行く?……どうやって」

晴「どうやってって…まぁ、それほど遠いわけじゃないし、歩きで」

静「歩きで!?」

晴「え?う、うん」

静「県外から!?」

晴「そう…ん?…じゃないよ?今の家から」

静「いや、今の家って県外でしょ」


晴「え?」

静「え?」

……………

晴「もしかして…私たちが引っ越してきたってことも、聞いてない…?」

静「………聞いてない」


……事情を説明中……


静「そんなことも伝え忘れるとか…適当ってレベルじゃないでしょそれ…」

晴「あー、うん、えーと…さすがに私も、それは伝えてると思ってた」

静「いきなり引っ越してきたって言われても…しかも同じ学校に通うって」

晴「…嫌だった?」

静「別に嫌じゃないけど、めんどくさそうだなって」

晴「………」

静「ってか、そんな大事なことなら直接ぼくに連絡くれてもよかったんじゃない?」

晴「だって…静くん連絡しても既読スルーするんだもん」

静「確かにメールとか苦手だからあんまり返信したりしないけど…さすがにそれ聞いたら返してたよ。というか、それが嫌なら電話でもよかったじゃん」

晴「出られなかった時、折り返してくれないし…」

静「あー………(ばつが悪そうにする)」

晴「なんか、ごめん…」

静「あ、いや、別に謝らなくていいよ。むしろ悪いのはぼくの普段の行いの方だったわけで……というか、一番悪いのは聞いてて伝えなかったうちの親だよね」

晴「それはまぁ…そうかも?」

静「はぁ………それで、今日はぼくが晴を案内する予定になってたわけね」

晴「え?ああ、うん」

静「(ため息)正直、休みの日はほとんど出掛けないから案内できる場所なんて少ないけどね」

晴「…いいの?」

静「いや、元々そうゆう予定だったんでしょ?ぼくも特別用事があるってわけじゃないし。あ、でも、本当に案内できる場所少ないよ」

晴「じゃあ…学校、見てみたいんだけど…」

静「学校って時ツ風学院?」

晴「うん」

静「まぁ、学校なら問題なく案内できるか。けど、中に入れるかはわからないよ?」

晴「大丈夫、とりあえず見てみたいだけだから」

静「ん、そうゆうことなら。……晴、その格好でここまで来たの?」

晴「え?うん」

静「上着は?」

晴「ない」

静「…はぁ」


[時ツ風学院への道]

晴「はーあったかーい。上着、ありがとうね」

静「見てるこっちの方が寒かったからね」

晴「それにしても…やっぱり不思議な感じだなぁ。これで3月なんて信じられない」

静「ぼくにはこの雪景色の中で上着も着ずにその制服で歩いてた人間がいるってことの方が信じられないよ」

晴「前に住んでた場所ではもう桜も咲いてたのにね」

静「この町だと4月になるまで桜は咲かないかな。だから3月はまだ冬ってイメージの方が強いかも」

晴「ふーん。…あ、見えてきた!あれだよね、時ツ風学院!」

静「うん」


[時ツ風学院]高校側の校門

静「目の前の2つの校舎が大学、その奥に見えるのが学生寮。この一番近いのが高校で、隣にあるのが中学。あれが小学校…で…ここからだと見えないな。その隣が幼稚園。校門はここと、幼稚園と中学校の間にもう1つ。あと、学生寮のところにも一応入り口があるみたい。ぼくは使ったことないけど」

晴「ほあー…こうして見るとやっぱり広いね…4月からここで勉強するのかぁ…」

静「…そういえば、一個気をつけてほしいことがあるんだけど」

誠「あっれ?静?静じゃねーか!」

静「…(嫌なタイミングでという風に)犬飼さん…」

誠「休みの日にお前が出かけるなんて珍しいな。なんかあったか?」

静「…別に何かあったわけじゃないですよ。まぁ、ちょっとした散歩ですそっちは…なんで雪かきなんてしてるんですか?」

誠「あー…なんつーか。…そろそろ部活できるかどうか確認しようと雪がどうなってるか見に来たら…『お、ちょうどいいところに屈強な少年が!』って声かけられて…。見たことない顔だったから、高校の先生じゃないと思うんだけど…なんか断る間もなく学校中の雪かきをさせられるはめに…」

静「…それは災難でしたね。それじゃ、ぼくはこれで」

誠「ちょ、おい待てよ!学校中の雪かきだぞ!?どう考えても一人じゃ無理だろ!なぁ、お前も手伝ってくれねぇか?」

静「いやぼくは」

晴「静くんの知り合い?」

静「………」

誠「ん?…(晴じっと見たあと)おい静、誰だよこの女子。うちの制服着てるけど見たことねぇぞ」

晴「あ、私は」

静(遮るように)「転校生だそうですよ。たまたまそこで会ったんです」

晴「え…」

誠「転校生!?女子の転校生って、マジか!え、何年?何年?」


静「犬飼さんと同級生らしいです」

誠「おぉー!マジかぁ!…(声色を変えて)俺、犬飼誠。趣味は読書、特技はスポーツ全般。好きなものは」

静「この人こうなるとめんどくさいのでとっとと逃げましょう」

晴「え、あ、あの」


誠「え、ちょっと待って!ねえ彼女名前は!?ねえ、ねえってばー!!」


[帰り道]

静「はぁ…まさかこのタイミングであの人に会うとは…」

晴「えっと…よかったの?帰っちゃって」

静「あーうん大丈夫。あの人体丈夫だし、学校中どころかこの町中雪かきしたって平気なんじゃない」

晴「それは、さすがに…」

静「いや、冗談だよ」

晴「だ、だよね。あはは……部活の先輩?」

静「んーん。委員会が一緒なの」

晴「仲悪いの?」

静「どっちかっていうと良い方だと思うよ」

晴「じゃあ、なんでさっき…」

静「ん?…あー、なんで他人のふりをしたか?」

晴「…(無言で頷く)」

静「あの人おしゃべりだからね。ぼくたちが知り合いだって言ったらなんかめんどくさい噂が広まりそうで」

晴「めんどくさい噂…?」

静「さっき言いかけたことなんだけどさ」

晴「さっき?」


静「気をつけてほしいことがあるって言ったでしょ。ぼくと幼馴染だっていうこと、学校ではあまり言わないでほしいんだよね」

晴「ッ……なんで?」

静「あの学校、転校生とか少ないから、そうゆうのあるとしばらくその話題で持ちきりになるんだよね。まぁ、どの学校でもそうゆうことはあるんだろうけど、あそこは幼稚園の時から顔ぶれが変わらないから特に敏感なんだ。それで同じ学校に、異性の幼馴染がいるなんて言ったら…絶対めんどくさいことになる」

晴「…静くんの学年にも噂が広まったりするの?」

静「え?あー、そうだね。多分学年とか関係なくざわざわするんじゃないかな。まぁでもそっちは」

晴「私!…引っ越してこない方がよかった?」

静「…え?なんでそうなるの?」

晴「だって…私が引っ越してきたせいで…私が同じ学校に通うせいで…静くんに迷惑が…」

静「別にぼくは迷惑だとは」

晴「だって!引っ越してきたって話した時、静くん困った顔してた…私が同じ学校に通うと、変な噂が流れて静くんが」

静「落ち着いて、晴」

晴「ッ…」

静「別にぼくは迷惑だとは思ってないから」

晴「でも…めんどくさそうだなって言ってた…」

静「ぼくがじゃなくて、晴がね」


晴「え?」

静「ぼくの周りで変な噂がたったところでどうでもいいんだよ。適当に流せばいいだけだし。でも、晴の周りでそんな噂がたっちゃったら…転校生ってだけでも色々やりづらいのに、尾ひれはひれのついた噂がたったりしたら、せっかくの学園生活、出だしからめんどくさいことになっちゃうじゃん。『涼風晴』って人間のイメージより噂の方が大きくなっちゃったら、友達づくりにも影響出そうだし」

晴「…だから自分と幼馴染だってことは言うなって言ったの?」

静「なるべくね。晴も完全に黙ってられるとは思えないけど…まぁでも、ちょっと意識するだけでも違うでしょ。晴ならすぐ友達もできるだろうし、友達になっちゃえば『涼風晴』って人間のこともわかるだろうから、そうなったら普通に話しちゃっていいんじゃない?めんどくさいことには変わりないと思うけどね」

晴「じゃあ、最初に困った顔したのは?」

静「困った顔っていうか…遠くにいるものと思ってた人がいきなり引っ越してきたなんて聞いたら、まず混乱するでしょ」

晴「…困ってたわけじゃないの?」

静「困ってない困ってない。そりゃまぁ、晴には小さい頃から色々と面倒かけられっぱなしだけど」

晴「うっ…」

静「それでも、これから同じ町で暮らすって考えたら、結構嬉しいよ」

晴「…静くん…」

静「まぁ、ぼくにとって晴は、一番大切な友達だからね」

晴「うぐっ(友達という言葉が突き刺さる)」

静「ん?なに、その反応」

晴「ともだち…友達かぁ…」

静「…やっぱりこんなめんどくさいのが友達なのはいや?」

晴「あ、いや、いやではない!いや、じゃあない、よ、うん…」

静「なんか歯切れわるいなぁ…まぁいっか。あぁ、そういえば言い忘れてた」

晴「ん?」

静「制服、似合ってるね」

晴「ッ!~~~(嬉しさで言葉にならない)」


静「…?どうしたの?」

晴「あ、いや、なんでもない!なんでもないです!はい!」

静(笑いながら)「なんで敬語」

晴「あは、あはははは」


友達って言われたのは残念だけど、今はそれでいいや。だって今日からは、静くんと同じ時間を過ごせるんだから。


晴「…静くん」

静「ん?」

晴「これから、よろしくね!」

静「うん、よろしく」

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