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8月:何も知らない夏に wrote by @AlionMalbelia
──犯罪者の息子が、同級生と夏祭りに行った話。
「ただ、こんな普通の子供でいたかった。」
*登場人物
・夢野 亜里咲 ユメノ アリサ 18歳
高校三年生の女子生徒。
底抜けに明るいことが取り柄。
頭脳明晰とは言い難いが達観した価値観と広い視野を持つ。
・ 黒沼 雅紀 クロヌマ マサキ 18歳
高校三年生の男子生徒。
左腕は義手だが、無駄に悪目立ちするのを避けるために骨折したと偽り、ギプスをつけて隠している。
・初崎 竜樹 ソメサキ タツキ 18歳
高校三年生の男子生徒。
優しすぎる面を持つ故に不良達に目をつけられる。
絡まれている時に雅紀に見つかり、助けられた経験がある。
・蒼井 凛 アオイ リン 18歳
高校三年生の女子生徒。
内気で自分から話しかけに行くのが苦手。
容姿は可愛らしい故に男子生徒に悪絡みされることも。
・射的屋
モブ
11:55
時ツ風学院高等学校舎屋上
*アリサ
「こんちは!人相も口も足癖も悪い雅紀君!」
*マサキ
「…毎度毎度、補習の合間を縫ってまで、そんな最悪な男が居座る屋上まで御足労いただけるとは、頭が下がるねェ…今日は何の用だ。サボりか?」
*アリサ
「サボってない!ほら、こんな季節じゃない?
青い空!白い雲!照りつける太陽!夏だよ、夏!」
*マサキ
「へー夏かー。俺は暑いのは嫌いなんでなーさっさと帰って冷房の効いた部屋でアイスでも食ってたいんだよなー」
*アリサ
「はい嘘ついたー!私知ってます!
雅紀君は寒いのが苦手で死ぬほど厚着して冬を過ごすんですよー!」
*マサキ
「あー寒いのも苦手だったなーどっちも苦手だー」
*アリサ
「そんな暑い方が好きな雅紀君に朗報ですよ!」
*マサキ
「ロクでもない朗報な」
*アリサ
「今日!雄風神社の夏祭り!一緒に行こ!」
*マサキ
「…いいよ」
*アリサ
「え」
*マサキ
「だから…一緒に行ってやるっつってんだよ、夏祭り」
*アリサ
「ほんと?」
*マサキ
「そう言ってんだろ!難聴かお前!」
*アリサ
「え!?嘘!?
やった!あんだけ人と関わるの嫌がってた雅紀が!成長した!
すごい!世紀の大発見!奇跡だ!」
*マサキ
「黙れクソ。行かねェぞ」
*アリサ
「すいませんでした」
*マサキ
「…二回目の夏だ。
一度くらいお前と行くならいいかと思っただけだ」
*アリサ
「お…おおほう!
なんか嬉しいよそれ!」
*マサキ
「集合場所は?」
*アリサ
「家まで迎えに来て!前みたいにチンピラに絡まれたくないし…」
*マサキ
「…わかった。十七時に迎えに行くから待ってろ」
*アリサ
「イエッサー!」
17:30
雄風神社
*アリサ
「今年も人いっぱいだね!」
*マサキ
「この町で一番デカい神社の祭りだろ?
クラスの奴らも来てるだろうな」
*アリサ
「会えたらいいなー」
*マサキ
「俺は会いたくねェ」
*タツキ
「あ、夢野さんと黒沼さんだ!」
*アリサ
「お?初崎君と蒼井さん!
ちょうど今話してたんだよー!」
*マサキ
「…」
*リン
「あの、黒沼さん」
*マサキ
「…なんだ?」
*リン
「えっと、この前は…ありがとうございました!」
*マサキ
「…気にすんじゃねェ」
*アリサ
「え?雅紀また人助けしたの?」
*マサキ
「助けたくてやったんじゃねェっての」
*リン
「この前ちょっと絡まれちゃったんだけど、その時にね」
*アリサ
「流石雅紀!正義の味方じゃん!」
*リン
「本当にありがとう。すごくかっこよかった」
*マサキ
「…おい、もう行くぞ。くだらねェ話をしてる暇はねェ」
*リン
「ねぇ!黒沼さん!」
*マサキ
「あ?」
*リン
「あの、えっと…よかったら!
私達も一緒に回らせてもらえないかな?
二人と一緒に…お礼もしたいし!」
*アリサ
「いいね!じゃあ四人で行こう!大人数で回った方が楽しいよ!」
*マサキ
「はァ!?礼なんていらねェし、そもそも俺は…」
*アリサ
「雅紀」
*マサキ
「なんだよ」
*アリサ
「一緒に遊ぼうよ」
*マサキ
「だから俺は…」
*アリサ
「一緒に遊ぼう、ね?」
*マサキ
「…」
*アリサ
「…よし、じゃあ一緒に金魚すくいでもしよう!」
*リン
「いいの?ありがとう!」
*マサキ
「はァ…」
*リン
「あっ、破れちゃった…金魚すくいってなんでこう難しいんだろう?」
*タツキ
「力入れ過ぎてるんじゃない?楽にして素早くやれば…あ、破れた」
*アリサ
「よっし破れたけど一匹!って、雅紀何匹取ってんの!?」
*マサキ
「四匹。お前ら水面から高く上げすぎ。持ち上げずに滑らせるんだよ」
*リン
「黒沼さんってなんでも知ってるよね。かっこいい!」
*マサキ
「…まァな」
*アリサ
「あ…」
*マサキ
「どうした?」
*アリサ
「いや、なんでもない!」
*リン
「射的?あのガラス細工綺麗だね!箱に入ってるけど、割れないのかな…」
*マサキ
「…あれ、欲しいのか」
*アリサ
「え…うん、まぁ…」
*マサキ
「…おっさん、それ片手でも出来る?」
*射的屋
「おっ、チャレンジャーだね。出来るが難しいぞー?」
*タツキ
「黒沼さん、片手でやるの!?怪我大丈夫?」
*マサキ
「…」
パンッ
*マサキ
「チッ、流石に一発じゃ無理か…」
*射的屋
「惜しいねぇ!だが良い腕だ!」
パンッ
コトン
*射的屋
「お見事!」
*リン
「すごい!黒沼さん射的得意なの?」
*マサキ
「やったら出来た、それだけ」
*射的屋
「ほれ、落とした景品だ!」
*マサキ
「…ほら。やるよ」
*アリサ
「え…いいの?」
*マサキ
「いいから取っとけ!俺が欲しくて取ったんじゃねェ」
*アリサ
「あ、ありがとう…!」
*射的屋
「しっかし本当にやってくれたな!惚れたぜ兄ちゃん!
これはイイモノ見せてくれた礼だ、持ってけ!」
*マサキ
「お、カルメ焼き?ありがと、好物なんだよね」
*タツキ
「黒沼さんカルメ焼き好きなの?意外と可愛い所あるね!」
*マサキ
「うるせェ!
誰が何を好きでもいいだろ!」
*タツキ
「いいよ、いいけど…可愛い…はははは!」
*マサキ
「笑うなクソッたれ!」
*マサキ以外笑い合う
*アリサ
「遊んだ遊んだー」
*リン
「楽しかった。夢野さんと黒沼さんに会えてよかった」
*アリサ
「じゃあ、そろそろ解散しよっか。
初崎さんと蒼井さんは一緒に帰るの?」
*タツキ
「ここからそんなに遠くないしね。蒼井は僕が責任もって送ってく」
*マサキ
「…なんかあったら言えよ。クソ共は蹴り上げてやるから」
*リン
「心配してくれるの?やっぱり、黒沼さんって優しいね!」
*マサキ
「気に入らねェからやるだけだ」
*タツキ
「ありがとう、黒沼さん。じゃあ、また学校で会おうね」
*マサキ
「おう」
*アリサ
「二人共、気を付けて帰ってねー!」
*マサキ
「行くぞ」
*アリサ
「家反対方向…」
*マサキ
「送ってってやるに決まってんだろ」
*アリサ
「あ…ありがとう」
(沈黙)
*マサキ
「…楽しかったよ」
*アリサ
「え?」
*マサキ
「夏祭り。お前と、初崎と蒼井、四人で遊べて楽しかった」
*アリサ
「よかった。余計なことしやがって、とか言われるかと思った」
*マサキ
「言ってやろうと思ってたよ。誰とも関わりたくなかったしな」
*アリサ
「…自分が関わると、その人が傷つくとか思ってた?」
*マサキ
「!」
*アリサ
「なんとなくね。
自分から人を遠ざけたいんだなっていうのは感じてた。雅紀優しいからさ。
そういう思いでやってることなんだろうなって思ってたんだけど…違った?」
(雅紀、足を止める)
*マサキ
「…お前は、俺の何を知ってる?」
(止まって雅紀の方を向いて話す)
*アリサ
「何も。雅紀、何にも話してくれないじゃん。
どこから来たのか、どうしてここに来たのか、なんで義手なのを怪我だって嘘ついてるのか。なんで…頑なに人との関わりを拒むのか」
*マサキ
「…。」
*アリサ
「聞いても聞かなくても変わらないんだけどね。私は雅紀とこうして話したり、遊んだりするのが好きだから」
*マサキ
「…知っても…」
*アリサ
「何?」
*マサキ
「俺の過去を知っても、お前はお前でいるのか」
*アリサ
「うん」
*マサキ
「本当に?」
*アリサ
「うん、変わらない。」
*マサキ
「…俺は」
*アリサ
「うん」
*マサキ
「…俺は、犯罪者の息子だ。
母親は…勝手な私怨だけで、数十人もの人達を傷つけた。
中には死んだ人もいた。
罪人の子だから、皆から汚く罵られた。
色んな所に逃げた。
逃げた先でこのことを知られたら、また口汚く罵られる。
ずっと同じことを繰り返して、ここに辿り着いた」
*アリサ
「そっか」
*マサキ
「お前も…お前もそうだろ!?幻滅しただろ!
俺が罪人の…人殺しの子だから!俺も同じことをするって思うだろ!?」
*アリサ
「雅紀」
*マサキ
「言えよ!ほら!お前も同じことを…」
*アリサ
「雅紀!」
(亜里咲、雅紀に抱き着く)
*マサキ
「…!?」
*アリサ
「変わらないよ。私は雅紀の友達のままだよ」
*マサキ
「…」
*アリサ
「つらかったよね。今までずっと、そんなに重たいもの背負って生きてきたんだよね」
*マサキ
「…」
*アリサ
「雅紀は何にも悪いことしてない。雅紀は私達のことを助けてくれた。
傷つけたくない一心で自分を傷つけちゃうような優しい人。
嫌いにもならないし、離れたりしないよ」
*マサキ
「なんで…」
*アリサ
「誰よりも優しいんだもん。誰がなんて言おうと、私は雅紀の友達だよ」
*マサキ
「…信じて…いいのか…?」
*アリサ
「うん」
*マサキ
「…あり…さ…」
(雅紀、声を押し殺しながら泣き始める)
*アリサ
「泣いていいよ。つらかったんだもんね」
(花火が打ち上がる)
*アリサ
「あははっ、花火!そういえば忘れてた…。
よかったね、これなら泣き声も聞こえない」
*アリサ
「…好きだよ、雅紀」 (小声)
*マサキ
「…」 (鼻をすする)
*アリサ
「落ち着いた?」
*マサキ
「…初めて泣いたわ…」
*アリサ
「そうなの?じゃあ雅紀のハジメテ、いただいちゃったね!」
*マサキ
「その言い方やめろ」
*アリサ
「恥ずかしがってるの可愛いー」
*マサキ
「蹴るぞ」
*アリサ
「すいませんでした!」
*マサキ
「…ありがとな」
*アリサ
「…いいってことよー!」
*マサキ
「花火、最後まで見るか?」
*アリサ
「うーん、冷えてきちゃったんだよね。」
*マサキ
「…帰るか」
(歩きながら)
*マサキ
「…お前、俺が泣いてる時に何か言っただろ」
*アリサ
「えっ?なんの話?」
*マサキ
「…なんでもねェ」
*アリサ
「そう?」
*マサキ
「…亜里咲」
*アリサ
「んー」
*マサキ
「俺、お前の…」
*アリサ
「うん」
*マサキ
「…なんでもねェ!」
*アリサ
「えー!そこまで言って止めるのはないよ!なーにー!」
*マサキ
「うるせェ!お前の…頭についてる簪が綺麗だって言おうとしただけだ!」
*アリサ
「あ、これ?お母さんから貸してもらったの!可愛いでしょ?」
*マサキ
「あー…可愛いよ」
*アリサ
「…あ、もう着いた。話しながら歩くと早いよねー」
*マサキ
「そうだな」
*アリサ
「お祭り、一緒に来てくれてありがとうね!楽しかった!」
*マサキ
「俺もだ」
*アリサ
「また学校で会おうね!」
*マサキ
「おう。」
*アリサ
「じゃあ、またね。雅紀」
*マサキ
「あァ。またな、亜里咲」
*マサキ
「…ッ、言えるかよ…好きだ、とか…クソッたれ」
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