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人新世における建築・都市の大転換 SDGs、コモンズ、脱成長をめぐって

8月に建築学会誌に寄稿した内容です。建築学会では、どちらかというと建築の文化的な面で語られることが望まれますが、産業としての一面や国際社会との関係からの、遅れを書いてみました。だから、特集の中では少し浮いていた、突き放したような文章になっています。スピード感と現実的な動きに少しでも寄与できると良いのですが。

【日本がおかれている状況】

「人新世」というのは、経済活動を通して人間がやりたいようにやっていった結果として地球温暖化を招いたことを、人類全体の叡智を使ってどうやって元に戻すかという時代であると考える。「人新世の資本論」で斉藤幸平が指摘したように、SDGsをやっていれば良いというわけではなく、気候変動に本気で取り組まなくてはならない。EUはEU司令を元に2020年の新築カーボンニュートラル化に邁進し、建物単体ではなくエリアにおける脱炭素、ひいては国全体のエネルギー消費量を押し下げるまでに至っている。もともと日本は環境先進国だったが、大きな誤算があった。東日本大震災である。原発のメルトダウンでエネルギー政策の大きな転換が余儀なくされた。また、温暖化防止がここまで本格的になり、外交問題にまでなると予想してこなかった。アメリカではトランプ大統領が地球温暖化そのものを否定し、中国の状態を見て、まだ大丈夫だとたかを括った。アメリカはトランプ時代も東西の沿岸部は着々と温暖化対策を進め、中国は中国で太陽光パネルの低価格化、建物の断熱化に邁進した。新築の少ないヨーロッパは新築のカーボンニュートラル化を早々と決め、既築の集合住宅への断熱化を進めている。再生可能エネルギーは風力から始め、低価格化した太陽光発電の普及させ、大陸の電力系統を1つにまとめ(日本は未だに10系統)、融通できるようにし、株式市場のような電力市場を構成し、VPP(バーチャルパワープラント)のようなベンチャー企業がいかに電力を安く作るか、高いときに売れるかという試みを実装させている。建物の断熱化が進み、自然由来の電気が余り始めた時期に、セクターを超えて自動車のEV化を進めようとしている。これらは建築というより、社会のあり方をどうするかということの大きなパラダイムシフトの中でシームレスにつながる事象である。蓋を開けてみると、日本の遅れが非常に顕在化しているのが現状である。

おそらく日本は20年から30年、遅れてしまっている。建物は高断熱高気密で消費エネルギーは2分の1、3分の1で地域熱供給をおこなう。ライフスタイルとして、クルマよりも自転車に乗り、都市の生活の豊かさを楽しむ、そういう社会として進化している。無論、日本とヨーロッパは社会の仕組みも違う。住宅政策のあり方も違う。着工件数も違う。全く同じことをやるべきことでないことも筆者は理解している。しかし、あまりにも「日本はこれでいいのだ」と変化に対しての柔軟性がなく硬直化している。戦後からの復興、バブルの頃の「ジャパンアズナンバーワン」への盲信的な撞着、オリンピックや万博の誘致も同じ発想から行われていて、病理の根本である。

【国のあり方検討会を経て】

さて、国交省、経産省、環境省3章合同の「脱炭素社会における住宅・建築物の省エネ対策等あり方検討会」に委員として出席した。内閣府が行った再生可能エネルギータスクフォースがきっかけとなり、3省合同での委員会である。2月24日の第5回タスクフォースで河野大臣から「2050年からのバックキャスティングできていないこと」を指摘され、2050年脱炭素に向けてのロードマップが求められ、議論が始まった。当初は2020年に義務化するはずだった適合基準の義務化をする以外には特に大きな内容はなかったが、議論を繰り返すうちに具体的な検討をする内容が決まっていった。主な議論の結果としては、①鳥取県などのように、断熱性能の等級を複数段階積み増すこと。②2030年には新築の60%を目処として太陽光発電が載っていること③太陽光発電の普及に関しては国土交通省が責任を持つことなど。

実はこれ、経産省主導のZEHロードマップの今までの目標、すなわち「2030年の新築の平均でZEH、ZEBにとする。」目標からは大幅な後退である。2030年にはゼロエネルギーすなわち、基本的には全ての建物に太陽光発電を載せることが求められていたのである。義務化に対して、政府は慎重な姿勢を崩さない。2020年の義務化を見送った原因は「未習熟な工務店が多く、早い義務化は混乱を来す」と言われるが、他にも、「断熱を義務化することは、財産権の侵害」であるとか、手続き業務の煩雑化に対する準備ができなかったとか、消費税増税(8%から10%への変更)の時に重なったので景気後退を避けたとかも言われる。姉歯事件の後の構造の規制強化の折、確認申請業務内容を煩雑にしたことによる工事の遅延を官製不況と叩かれたことがトラウマになっているという話だ。地球温暖化に対して、それを防止するための省エネルギー=高断熱化は私的財産の自由を超え、公共の利益ではなかろうか。企業が公害対策するのと同じように、住宅の持ち主が省エネルギーをすることが私は当然に思える。いずれにしても、義務化を見送ったことでスタートが遅れたことは大きな問題である。一方、公開され、公にアーカイブされたこの会議は評価すべき点も多くある。今回この3省合同の検討会があったおかげで、住宅における省エネルギーと再生可能エネルギーの普及に関しては、3省が三竦みの状態にあることがわかった。これに気づけたことは一つの成果である。今後、それがより改善、前倒しすることは見守るしかない。

また、もう一つの評価すべきは長野県、鳥取県、京都府、京都市のような地方の取り組みが積極的に素案に明記されたことである。長野県はNDC60%と高い目標を自県の持続可能性のための産業振興、イノベーション、雇用創出と位置づけ、県を上げて推進する。鳥取県は断熱の等級を国の基準を3段階超えて作り、それを「健康な住まい」と位置づけ展開する。京都府、京都市は再生可能エネルギーの導入の説明を条例で義務化した。今までは地方は国の様子見をしつつ行動していたが、反対に国の動きをリードするようになった。このことが、素案に明記され誰もが取り組めるということを示した。同じくして、政府は国・地方脱炭素実現会議を組織し、地域脱炭素ロードマップとともに先進的なエリアを応援するとした。

【脱炭素社会はどんな社会か】

さて、もう少し具体的に2050年の社会を考えてみよう。日本のエネルギーは全て再生可能エネルギー由来か原発由来になる。今後の社会やコストを考えると原発が普通に増設されることは考えにくく、また現行の原子炉の老朽化が進む。洋上風力発電については2030年以降になりそうなので、それまでの再生可能エネルギーは太陽光発電に頼らざるを得ない。住宅、建築は現在でも日本のエネルギーの3分の1を使う。そのエネルギーを省エネ半分、再エネ半分でどこまでできるか検討した。(7月20日あり方検討会提言資料)太陽光発電を適切に載せていけば、建築は部門として、エネルギーの自給が可能だ。住宅、建築の屋根は太陽光発電のポテンシャルを秘めている。すでに、グリッドパリティが達成しており、自家消費が進むので、屋根上の太陽光発電は爆発的に増えることが予想できる。また、2030年以降。電気自動車の普及により、V2Hが現実的になるとグリッドへの負荷もなくなっていく。脱炭素社会の生活はまんざら悪くない。日本のエネルギー自給率は現在12%ほどで、OECDで最低クラスだが、再生可能エネルギーの割合を増やすことで、自給率も改善できる。家は暖かく、電気代も時給できる。地方はエネルギーを自給した生活が実現できる。都市部は集積を利用して、エネルギーの効率化が求められる。建築のあり方は建築だけで完結するのではなく、明らかに隣接する他の分野の影響を受け変わっていく。どんな姿になっているかエネルギーやモビリティ、働き方、暮らし方といったソフトが重要で、そこから派生するハードの技術としての建築を変えていくに違いない。

【遅れを取り戻す努力が必要】

さて、私からの提案である。まず、日本が率直に温暖化対策に20〜30年単位で遅れていることを認めよう。そして、追いつくために、上手くいっていることをフォローしよう。筆者は建物の断熱強化をし、エネルギーを減らすことを建物単位で、エリア単位で、地方で、国で進める必要があると感じている。まずは建物の消費エネルギーを常に計算(シミュレーション)し、どう絞るか考えるべきである。暖かいから断熱をしないのではない。高断熱高気密に対するアレルギーをどう取り除くが真剣に考える必要がある。建築家の表現もエネルギーを使わない前提で考えるべきだ。現状のエネルギー消費量では脱炭素は無理である。それを2分の1、3分の1にし再生可能エネルギーで賄い、建物で使っているエネルギーをゼロにすべきことを目指すべきである。EUは2020年に実現すべく進めている。日本は2030年を待ってはいけない。建築のロックイン効果を考えれば、今日からでも遅くはない。建物のエネルギーをゼロにすべきである。


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