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人生の9割は90%(無意味な文章)
(注:世の中には意味のある文章が多すぎるため、無意味な文章を書いています。決して意味を見出さないでください)
「あーした天気にな〜れ!」
そう言いながら、彼女はバンジージャンプで飛び降りられずにいた僕の背中を蹴飛ばした。その日の天気は晴。日本ではほとんど見られない、雲一つない快晴だった。
どこから「空を飛んだ」と言えるだろうか。
バンジージャンプやスカイダイビングというのは、飛んだというより落ちている、と表現するのが正しい気がする。ただ、グライダーのように風を受けて滑空する乗り物は、時には上昇気流を掴んでさらなる空へ上がることができる。それは大型の猛禽類の飛び方と似ていて、空を飛んだと呼ぶことができるだろう。
「いいかい君。人生の9割というのはだね、90%なのだよ」
会社の厳しい人間関係に悩んでいた僕に、彼女は優しい瞳でそんなことを言ったのだ。
僕は一瞬 真剣に考えてから、小さく笑ってしまった。ここで、ありきたりな慰めや励ましを受けたとしたら、僕はいかに自分の置かれた状況が過酷か反論していたかもしれない。けれども、彼女の言葉はなにひとつ反論も否定も許さないもので、打ちのめされた僕ですら笑うしかなかったのだ。
彼女は、空を飛んでいる人だ、と思う。
同じ高度から飛んだはずなのに、いつの間にか上昇している。そして、その言葉に導かれて、周囲の人間までもいつのまにか高い空へと舞い上がっていくのだ──
今は、可能性の多すぎる世の中だ。
無数の選択肢の中で、僕らは常に迷子になっている。未来への不安。過去の選択への不安。暗闇の中を手探りで走らされていて、落とし穴がないか、必死に足下に目を凝らしている。心臓がずっと嫌な音を立てているから、それを聞かないように、時には他の大きな音を立てて誤魔化しながら生きている。
そんな世界でも。
それでも僕らはずっと空に憧れている。強く羽ばたいている人たちを見て、いつかは自分もと、心の大部分では諦めながら希望を捨てられずにいる。
でもきっと、キラキラしている人たちみたいに、強く羽ばたく必要なんかなくて。ちょっとだけ上昇気流を掴めるように、翼を広げて唱えるのだ。
「人生の9割は90%」
不確かな世界でも、これは真実だと断言できるから。
(EON)