「まさか逃げてきたのか?」 ヤクラは思った。ここにいる筈がない。リーネはマノリア修道院に監禁していた筈だ。

 ヤクラは使い魔のコウモリに命を出し、修道院を調べさせた。だが変わらずリーネは監禁されている。リーネに扮した魔族もこれから王宮に上がる為に準備中だった。

 計画を無視して独断でやっている裏切り者がいるのか? だとしたら、あまりにもずさん。縄張り外である西側魔族が裏で手を引いているとすれば、配下の者がリーネに成り済ます術式を持ち出し、西側に売り渡したという事だろうか?

 それにしても赤髪のクロノという男は何者なのだろう。 やはり西側魔族の仲間か? だとしても魔の気配が殆どない。魔力を隠せる程の術者だとすれば迂闊に手を出しては返り討ちに合うかもしれない。

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 ヤクラは二人を捕まえて西側魔族がどれだけ勢力を広めているのかを聞き出したかった。クロノ達の食事に睡眠薬を混ぜる様指示を出したヤクラ。
 ヤクラには魔力を器用に隠せる程の力はなかった。クロノ達がヤクラの魔力を感知していながら迂闊にも食事を食べるとすれば警戒心がなさすぎる。低級魔族か、ただの人間という事になる。

 睡眠薬が効き、マールはリーネの部屋で就寝。クロノも客室で寝始めた。

 深夜、ヤクラは変身するとマールを咥え、バルコニーからで出て城壁を上に登った。森へとジャンプし、森上に駆け抜け、マノリア修道院にマールを隠した。寝ているクロノは飛行魔族のディアブロが抱えて連れていった。

 夜更けにルッカは城に到着した。
 街での聞き込みで、赤髪の少年が城の方へ向かったという情報を知ったからである。

 しかし見知らぬ者として場内に入る事は許されなかった。緊急事態と称してクロノの呼び出しには成功したが、クロノは場内に既にいないという。クロノの出入りを目撃していない門番は不可解な表情をした。まるでリーネ様が行方不明になった状況と良く似ているという。

 ルッカが街で再び聞き込みをしていると、カエル男が酒を飲んでいた。リーネが見つかった報を受け安堵していたカエルだが、この世界で魔物をはじめて見たルッカは驚いて悲鳴を上げた。

 街の人々は見慣れた光景であり、今さら何をそんなに驚く必要があるのかとルッカをなだめた。
 ルッカにとって魔物や魔族は存在しない空想上の生物として考えられていたが、どうやらこの世界の人間にっては、当たり前の様だった。ただタイムスリップした訳でないのかもしれない。異世界なのかもしれない。もしくは現代では魔族の存在が隠されていたのかもしれない。そう解釈したルッカはカエルに話しかけた。

 ルッカの持っているこれまでの情報は、

【トルース山にて失踪していたリーネを村人が発見し、通報。かけつけた兵士の護衛の元で、王宮まで連れていかれた。その間リーネは「人違いです」「マールです!」等の主張していたが為に、街では目撃者が多くいた。その話を聞いたクロノはマールを追いかけて城に向かった。ルッカも城に向かうがクロノは見つからなかった。クロノはリーネが失踪したのと同じように忽然と姿を消した】

 カエルはルッカの話を聞いて気付いた。マールはリーネ様そっくりなだけの単なる一般人であるかもしれない。兵士が手柄欲しさに無理やりマールを連れていったのかもしれない。。保護したと思っていたリーネ様は本人ではないかもしれない。

 カエルはリーネの無事を確認する為に王宮へ走った。「ごめん!」と一礼をして失礼ながら壁を駆け抜け、バルコニーから部屋に入り、リーネの不在を確認。魔族が成り済ましていた見張りの衛兵らを叱りつけ、再びリーネ捜索に向かった。

 ヤクラは魔族の姿に戻ろうとしないマールとクロノを人間だと判断した。どこの誰をか知る為にあれこれと質問していた。一通りの質問が終わり、リーネと同じように姿と声色をコピーしようと魔方陣の中にいれた。

 リーネの姿、声色については既にコピーが終わっていて、リーネを殺す事はいつでもできた。成り済ましを完璧にする為に、ヤクラの部下はリーネからプライベートな情報を聞きだし、文字に起こそうとしていた。しかし、リーネはヤクラの王家転覆計画を阻止するべく黙っていた。

 生かしておいた大臣をリーネに見せつける。「この人質がどうなってもいいのか、しゃべろ。」と、リーネは脅されている最中だった。

 カエルはマノリア修道院へ向かっていた。リーネが保護された報を聞いて修道院の調査を途中で取り止めにしていた。その調査の再開をした。
 なぜマノリアにいるとカエルは思ったのか? 万に一つ、リーネは王妃として生活に未来が見えなくて、人知れず悩んでいて修道女になった可能性。。   修道院は神の名の元で、困った者を守る場所。暴力等から逃げてきた者もいる。人探しで訪ねても院の関係者らは身元の情報を外には明かしていけない使命がある。

 カエルはリーネが人知れず悩んでいる可能性を考慮して修道院に向かった。正面からでは対応して貰えないと思い、屋根板を外して侵入した。


参考note
https://note.com/msyaan/n/n24b9990faf9c

グレンは魔王の気まぐれにてカエルにされた。しかし時速200kmで動ける様にも進化していた。

 三階フロアにて魔族を発見したカエル。この修道院は怪しすぎる。カエルはガルディアに応援を呼ぶべきか迷ったが、待っている間にリーネの身に何かあってはいけない。

 魔族は、カエルの方ににゆっくり向かってくる。もし見つかると厄介になる。仲間をよばれるかもしれない。。一旦隠れるにしても、その時間にリーネに何かされるかもしれない

 カエルはベロを伸ばし魔族の気道を塞ぎつつ悲鳴を出させないようにした。「リーネの居場所はどこだ!」と問いかけ「連れていけば殺さないでいてやる。」と交渉を持ちかけた。

 カエルの存在は魔界では有名だった。まともに戦えば普通の魔族では決して勝つことはできないとまで言われていた。

 アジトがバレたなら直ぐに知らせる様に命令を受けていた魔族(ミアンヌ)だが、知らせたら直ぐでもカエルに殺されてしまいかねない。かといってヤクラに反目した行動をしてしまえば、助かったとしても後で殺されかねない。

 ヤクラはゴキブリ様魔族として最高時速500kmは出せる。ミアンヌが裏切って尚且つ、生存している事がバレれれば、ヤクラに見つかった瞬間殺されかねない。

 ミアンヌはカエルに協力した場合、魔族からも保護する様に条件を出した。とはいえミアンヌにはカエルがヤクラから自分を守りきれるとは思えなかった。逃げるチャンスをうががっていた。


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 リーネのいる広間に人質となった大臣とクロノとマールが監禁されている。扉を小さく開け、中の様子、状況を確認する。ヤクラは三メートルの巨体だが屋内では窮屈であり、大臣に変幻していた。

 ミアンヌはカエルの剣が喉元に向けられている。、逃げられず、言いなりになっていた。コウモリ魔族は定期的にマノリアの周囲を巡回していた。屋根の一部が壊されているのを発見し、侵入した者がいる事は魔族に伝えられていた。

カエルは背後にいる魔族に見つかった。

魔族は大声で知らせようとしたが、マノリア内に侵入したのがカエルであると気付いた瞬間、躊躇った。声を出した瞬間斬られる!と考え、見なかった事にした方が安全だと判断した。

 カエルは広間での会話の声までは聞ききとれなかった。縛られた大臣と縛られていない大臣がいることの不自然さ。どちらかが魔族なのだろうと思ったが確信できなかった。
カエルは身長の低さを生かしてミアンヌの後ろに隠れ視角を作った。

大臣「ミアンヌ!どうしてここにいる?お前の持ち場はここじゃないだろう。」

この台詞を参考にカエルは大臣に飛びかかった。細胞まで人間化する変幻にてヤクラは大ダメージを受けた。

 カエルはミアンヌから修道院に40の魔族がいる事と親玉のヤクラについても聞き出していた。戦場で何度かヤクラ一族と戦った経験があったカエルはスピード勝負では勝てない事を知っていた。

 ヤクラは元の姿に戻る前に戦闘不能にされた。倒れた大臣は魔法が解けて、三メートル旧のゴキブリ様な体になった。

 広間にいた魔族はリーネを人質に逃げようとした。
しかし、カエルに先を読まれ、斬られた。

縛られていたクロノとマールはあっけらかん。

カエルは奥の扉をゆっくり開けると、奥のフロアにいる魔族を全滅させ、道を作った。

入る時は慎重に出る時ももっと慎重に、少しずつ部屋を制圧し、民間人2名と大臣、王妃を無事救出した。ミアンヌはこの混乱に乗じて逃げきった。