蔵本綾(クロノトリガー)

彼女は今日も二次創作小説を書いていた。西中さんと同じくクロノトリガーを題材にした物語である。彼女は一つのテーマを決めている。リアリティの追及だ。たとえば原作ではクロノが木刀や刀を持ち歩いているが、銃砲刀違反で捕まるという事はない。彼女の物語ではその問題にキャラ達が気を使うシーンがあったりする。世界観も現代のハイテク時代(スマホ時代)を意識していて、魔物や魔族の存在も我々のいる現実世界にいないので存在しない設定で始まる。クロノトリガーなのでしっかり魔族は登場してくる。キャラ達はある時、魔族が自分達の世界に共存している事を唐突に知らされ、ラヴォス以上のカルチャーショックを受ける展開になる。

設定を弄りすぎたせいで原作と違いすぎる展開になる事もある。未来人が完全に絶滅していたりする。原作ではディストピアな世界とはいえ人々は生きていた。けれどディストピアな世界で子供作るのは不道徳にて実際にはあり得ないだろうし、あり得るとしてもレイプ犯罪等で妊娠させられるパターンになる。要するにリアリティーを追及するとクロノトリガーらしいロマンを描けなくなる恐れがあった。考えた結果、ラヴォスは人類を一人残らず絶滅させる展開。書いているタイミングがたまたま2020年であった事もありウイルスネタにし、ラヴォスが放つ人類滅亡ウイルスにて未来ではロボしか存在しない世界になっている。本音を言えば手間を省きたかったのもあるそう。未来人を描写するのが面倒で手抜きをする方向性で考えていたら『なら絶滅させましょう!』の発想になっただけである。鳥山明のドラゴンボールな考え方にも似ている『黒い髪ベタ塗りするの面倒なのでスーパーサイヤ人にしよう』な発想である。クロノトリガーに鳥山明が関わったからこそ手抜き発想にたどり着いたといえる。

彼女がクロノトリガーを書こうと思った経緯はオカネである。ハリウッド映画の様に全世界に売れるクロノを作って売り込む計画だ。タイムトラベルもので一番売れたのはバックトゥザヒューチャーだが、世代を問わずその良さを知っている。クロノだって頑張ればそれを越えられるはず。そう意気込んで原作クロノのストーリーをアレンジし始めた。試行錯誤をして2年が経った頃、才能の無さに気付いたらしく、西中にそのシナリオの続きを託した。西中は彼女のアレンジに更にアレンジを加えるという事をしているが、やはり世界の壁は厚い様に思える。クロノ関連ビジネスは業界人にとっても旨味がある筈で人知れず制作立案はされているのだろうと思う。映画案も当然あるのだろうが企画が通る程のシナリオにはお目にかかれないからこそ作られていないのかもしれない。一枚岩ではいかない。たとえばクオリティの高いクロノ漫画がネットにアップされているが序盤のヤクラ戦で区切りがついた感じがする。ゲームでは描写されない魅せる絵の補完の難しさ。ヤクラ戦以降の絵を想像しても西中自身全くピンと来ない。恐らく、西中にも才能は無いのだろう。そして西中もアレンジし過ぎて原作とは全く違う展開に。どう違うかというと、クロノ達人間がとてつもなく弱い。ほとんど傍観者展開で、ご都合主義に奇跡が起きてラヴォス倒してしまう。アザーラも自殺志願者みたいに人生なげやりキャラになっている。クロノ世界にある歴史の矛盾点を掘り下げすぎてしまい原作知らない人は何がなんだか判らない。自分では最高に楽しんでいるが、読者の反応はからきし。

開幕からして原作ファンにしか判らんだろう展開に。しかし興味深いだろうと思う。蔵本さんからシナリオを借りた際、唐突に思い付いた展開で、もしジール王国が魔王によって支配されたらどうなるかという好奇心で書き始めた。残念ながら深掘りできず魔王による支配は失敗で終わせてしまう。。できれば支配成功方面で再度トライしたい。