【キンタマ1つ無くなった時の話】②
当時小学5年生の僕は友人と遊んでいる最中に左キンタマに激痛を覚えて母親に早く帰って来てもらいキンタマを見せると「キンタマ太陽みたいになってるよ」と言われたのであった…!
病院に直行する事が決まった僕ですが、不思議なもので母親が帰って来た安心感により、左キンタマの痛みは幾分か治まってきていました。
安心感というのは百薬の長です。
なので僕はとっても男の子な提案をしました。
僕「ばあちゃんのカレー食ってから行こう!」
この日の晩ご飯はばあちゃんのカレーでした。
絶対に取りこぼすわけにはいきません。
母「ええ大丈夫?」
僕「大丈夫!お腹減った!」
僕は大好物のカレーをかきこみました。
婆ちゃん「大丈夫か〜?」
母「食欲はあるみたいなのよ」
僕「うん!美味い!ご馳走様〜!」
まっすぐゴミ箱にゲロ吐くのでした。
からだ「そういう事じゃない」
僕「からだ!?」
人生で初めて「からだが受け付けない」というのを体験したのを覚えています。
たまらず車のエンジンをふかすおかあ。
口だけゆすいで車に乗り込む僕。
向かった先は隣町の病院。車で15分。
小さな村に産まれた僕の、というかこの村のみんながちょっと大きめに体調を崩した時にまず最初に行く病院でした。
病院に着くとすぐにお医者さんにキンタマを見せる部屋に行く事になりました。
名探偵ヤマグチ、ここは想定内。
多分そうなると思ってました。
しかし問題は隣にいる女性の看護士さん。
20代後半くらいのお姉さんにキンタマを見せるという一大行事。
しかしスポーツ少年団のミニバスケットボールクラブの次期キャプテンだった僕は礼儀正しくキンタマを見せます。
僕「お願いします。」
負けてたまるか。
病室を包み込む陽の光。
医師「はい。大きい病院に紹介状を書きますね。」
圧勝。
僕のキンタマは手に負えなかったようです。
キンタマをしまうと同時に日没。
女性の看護士の方が二度見をしている内にペンを取り、大きい病院に紹介状を書く医師は冷静でした。
「大きなキンタマ。大きな病院へ。」
現場医療の基本です。
紹介状を書かれた大きな病院は新潟県の中でも割と大きな市の中にありました。
中学生の初デートはその市のジャスコに。高3で免許を取ったらその市のジャスコに。後に僕が通う高校がある市で放課後は毎日ジャスコに。
車で30分。
お兄ちゃんがCDに焼いてくれたケツメイシのアルバム「ケツノポリス3」を車でかけながら。
11歳の少年はお姉さんにキンタマを見せた喪失感で痛みを初めとした感情は無くなっていました。
励ますように。
これからの日々を暗示するように。
車内に流れる「始まりの合図」。
さあ、病院に到着して裏口の緊急外来から大キンタマ高校の入場です。
緊急外来には5〜6人の人がいますがその中でも一際大きなキンタマです。
おおっと!驚くべき速さでキンタマを医師に見せます!
負けじとキンタマに睨みを効かせる医師。
おっと触った!触った〜!
これは痛い!大キンタマ高校!
ん?どうやら即入院という事では無いそうです。
これには大キンタマ高校安堵の表情!
点滴を打って経過を見るようです!
しかし大キンタマ高校!
点滴中に就寝してしまった〜っ!!
試合終了〜っ!!!
キンタマが大きかったので!
大キンタマ高校の勝利〜!
1時間ほどの点滴を終えて、目が覚めるとすっかりキンタマの痛みは消えていました。
僕「(んん〜寝てたな ふぅ〜っ。おお!全然痛くない!!キンタマは… うわ!元に戻ってる!なんだよ!イケんじゃん!)」
医師「どうですか?」
僕「全然痛くないです!ありがとうございます!」
母「よかったね〜!先生ありがとうございます!」
医師「とんでもないです。もし何かあればすぐにご連絡ください。」
キンタマの大きさが同じくらいになった事だしお医者さんを見下すのはやめて、感謝を述べて帰る事にしました。
意気揚々と出口に向かう僕は
扉を目前にしてぶっ倒れてしまうのでした。
母「わあっ!!大丈夫!?」
医師「大丈夫ですかっ!?」
僕「ぁぁあ…。すいません…。」
医師「…軽い貧血だと思います。少し休んでいきましょう。」
僕「お願いします…。」
すでに1時間半は過ごしているので3時間パックに変更してもらってもう一眠り。
早くも「1時間だけ寝る」の有り難みを知る11歳。
医師「帰宅してもしも症状がぶり返す事があればすぐにご連絡ください。」
母「わかりました。」
僕「ありがとうございました。」
一悶着の末、帰路に着くキンタマドラフト待ち息子。
痛みが無くなった喜びと、普段お出掛けで遊びに行く街に夜遅くにいる高揚感でやたらと喋る僕を感じ取っておかあが冷静に王手飛車取りの一言。
お母「コンビニ寄るよ〜。まさ頑張ったから好きな物買っていいよ。」
僕「う、うわああぁぁ!!」
最強の教育。
頑張ったらご褒美。
両親は絶対。
あの日から僕の座右の銘は
「コンビニ寄るけど好きなの買っていいよ。」
大好物のミルクプリン、ガブ飲みメロンソーダ、ブラックサンダーは掴めるだけ、お兄ちゃんがまだ買ってなかった今週のジャンプなんてもう合併号になる勢いでカゴに入れました。
安心感と幸福で満たされる車内。
22時。
車内のケツノポリス3は「門限やぶり」。
家に着き心配で起きていた家族に対し爆睡でアンサー。
ただ思春期でキンタマこじらせた孫。息子。弟。
いいじゃんアリアリ!そういうもんだよ!おやすみ〜!
翌朝僕は激痛に耐えきれず病院に行くのでした。
昨晩の幸せな帰り道を引き返して病院へ向かいます。
病院へ帰るという表現の方が正しかったように思います。
再び勢いを取り戻した大キンタマを出すと同時に入院が決まりました。
古豪大キンタマ高校、復活。
キャパ6人の大きな病室へ行き院内着に着替えます。今日は体育があったのに。テレビはテレビカードを入れないと見られないらしいです。今日は伊藤家の食卓があるのに。
これから病室内でいくつかの検査を受ける段取りになりました。
おかあが1枚目のテレビカードとカップ自販機のミルクセーキを買って来てくれました。
初めて聞いた名前に戸惑う僕におかあは「まさはミルクプリンが好きだから絶対これ好きだよ〜」と手渡すのでした。
ミルクセーキと入れ替わりで先生に任せて遅れて仕事に向かうおかあ。
おかあと入れ替わりで極薄の青い手袋をはめながら登場する泌尿器科の先生。
約170cm、約90kg、約30代後半、約野性味溢れる顔立ち、約絶対元柔道部。
剛田(ごうだ)先生。(イメージ仮名)
が登場しました。
これから登場する3人のお医者さんや看護士の方々の名前は全てハッキリと覚えているのですが、ここでは全てイメージ仮名で記させて頂きます。
きっと今もどこかでキンタマに優しくしているからです。
僕にはその活動を守る義務がある。
剛田先生「前立腺が腫れてないかの検査をしますね。」
見た目とは裏腹に優しい声で告げる剛田先生。
僕「はい。お願いします。」
剛田先生「肛門から指を入れるのでズボンを脱いでください。」
僕「(肛門から指を入れるのでズボンを脱いでください!!??)」
すごくテンパりましたが思春期とは全然テンパってない感じを出そうとする時期なので僕は眉1つ動かさずに発します。
僕「なるほど〜。」
「もうそんな時間ですか」と言わんばかりにズボンに手をかけてパンツごと下ろします。
剛田先生「じゃあ指入れていきますね〜。痛かったら言ってくださいね。」
僕「は〜い。」
およそ美容室。かゆいところあったら言ってくださいね〜に対するリアクションにまとめて正気を保つ。
肛門がニトリル手袋の感触を受け止めて指がゆっくりと入ってくる。全然大丈夫。全然大丈夫だわ俺。どうせ中指だろ。これくらい余裕だわ。大した事ないわ。
入ってくる指が第二関節に差し掛かった頃、
痛みの許容範囲を超える。
11歳の気持ちの強い少年はこう言った。
僕「んああっっ…」
完敗。
屈辱。
枕を掴み、目を思い切りつむり、歯を食いしばり、腕を口元にかぶせ、これ以上声が出ないように我慢をする。
剛田先生「ん?大丈夫ですか?」
僕「はい。」
かゆいところはありません。
剛田先生「前立腺は腫れてないので大丈夫ですね〜。」
大丈夫じゃないよ。
なんだお前?
そんな気持ちは他所に、
院内着の裾で涙を拭いながら少年はとんでもない一言を口にする。
僕「よかった。ありがとうございます。」
狂った世の中。
11歳の少年は、「ありがとうございます。」を選んだ。
24時間のうちに、お姉さんにキンタマを2度見され大男に肛門を脅かされた。
ここは本当に日本なのだろうか。
喪失感に打ちひしがれている間に剛田先生は居なくなっていた。な〜んだ。そもそも僕の不安が具現化した幻だったのかもしれない。
肛門「幻じゃないよ。」
僕「肛門!?」
程なくしてカーテンの奥から女性の看護士の方の声が聞こえてきた。
女性の看護士「山口く〜ん、失礼しま〜す。」
次の刺客がやってきた。
僕「は〜い。」
感情のツマミを美容室に戻す。
カーテンが開く。
女性の看護士「失礼しま〜す!わあ〜山口くん大変だったね〜。お疲れ様〜!私◯◯といいます。宜しくね!体温と血圧測るね!検温っていうんだよ〜!1日2回あるから覚えておいてね!」
賢明な読者の方はお気づきだろう。
この女性がカーテンを開けてから僕のセリフが1つもない。
それもそのはず。僕は口をあんぐり開けたまま彼女の言う事を聞いていた。
この女性看護士、
マジめっちゃカワイイギャルなのだ。
…続く。