おんなのこきらいと正妻
おんなのこきらいを見た。ふとしたきっかけで知ってからずっと見たかったものが、偶然アマプラの対象になった。
ストーリーは超可愛いのに性格が最悪(ということになっている)なOLキリコを取り巻く男女の惚れた腫れたの話である。
以下ネタバレを含むので、未視聴の方はご注意ください。
この映画の登場人物だが、アカネちゃん以外最低だ。
とくに男はどいつもこいつも救いようがない。思わせぶりなバーテン、いいカッコしいな既婚者、脳みそと下半身が直結している同僚。バーテンと同僚はいいとして既婚者が最悪である。結局可愛い女にちやほやされるのが嬉しくてたまりませんという具合で既婚であることを隠しながらキリコに「かわいい」とほざいたり、髪を切ってあげたりしている。
挙句既婚がバレ(これも自分から白状したわけではない。詳しくは後で述べる)、ショックで泣くしかないキリコに「私と会った後にどうせ妻とセックスしてるんだろ」と詰られたら「そんなこというな!!!」と怒り大爆発である。何に怒っているのかよくわからないがそんなに妻のことを大切に思うなら別の女にうつつ抜かしてんなよと思わず真顔になってしまう。
この映画のうまいところはキリコと既婚者がセックスをしたかどうかわからないところで、すでに体の関係を持っていたとしたらキリコが泣き叫ぶのも真っ当だし、逆にプラトニックであるならそれはそれで切ない。
というか「既成事実もないのに勝手に彼女ヅラして自滅していったキリコ」というシチュエーションが悲しくて可哀想で最高に美しく鬱なので個人的には後者であってほしいとすら思う。
少し脇道に逸れたが、この作中もっとも悪い男が既婚者であることは紛れもない事実である。
しかし全てのキャラクターを含めても、そう言えるだろうか?
私は違うと思う。
もっとも性格が悪いのは既婚者でもなければキリコでもバーテンでもなく、既婚者の妻である。
先ほど既婚者の既婚が偶発的にバレたと述べたが、それの顛末は急遽鍋がしたくなったキリコが既婚者の家に押しかけたところ、なんと既婚者の妻がカレーを作っていた、という具合である。鍋とカレー。日本の2大家庭料理でありしばしば幸せな食卓の象徴として描かれるメニューがこんな悲しい形で鉢合わせるなんてゾクゾクしてきちゃうね。
全てを察したキリコは、カレー鍋(結局折衷した)にろくろく手をつけずに出ていってしまうのだが、これに対して妻(同じく察している)は、黙って鍋を突いている既婚者に向かって「いいの?追いかけてあげなくて」という。
いいの!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!
追いかけてあげなくて!??!?!????!!?!?!?!?!??!!?!
この、正妻の余裕である。
自分の旦那にうつつを抜かし、自滅し、出ていった可愛い女の子。可愛い女の子には目もくれず、隣でひたすら黙って鍋をよそる旦那。
このシーンで1番の勝者は妻である。
旦那は人生の伴侶として私を選んだ。そして可愛い女の子にどれだけ言い寄られても、最終的にはもう一度「私」を選んで今横にいる。
そんな女として圧倒的な勝利を収めたものの余裕であり貫禄である。
で、そこでさらに「いいの?追いかけてあげなくて」である。
この一言で妻は夫を「赦した」ことになる上に、「自分の旦那に手を出した挙句振られた、本来ならばこの世でもっとも憎くて滑稽な女の子に優しく気を遣える私」という井戸端会議のネタをゲットすることになったのだ。この上ないマウントである。性格わり〜〜〜〜〜〜
この滲み出る性格の悪さは必見ですよ。本当に。
女の汚さ、醜さ、そしてパワーの源って結局こういうところだよなと唸るようにうなずいてしまう。
みんな絶対口には出さないけど、少なからず感じているところ。
私の方がかわいい、私の方がスタイルがいい、私の方がセンスがいい、私の方が髪が綺麗、私の彼氏の方がかっこいい
どんなに小さいことでも「私の方が」と思うところがみんなあって、それは他人からしたらどうでもいいような本当にくだらないことなんだけど、本人にとっては一番大事で譲れないところだったりするんだよね……。 薄々感じてはいましたが、こう改めて可視化されると胸が苦しくなっていいですね。
この苦しさは『皮膚と心』(太宰治)にも通じるものがあるなと思いますが映像としてくる分こちらの方が脳みそにきますね。
女の醜いところが丁寧に大切に煮詰められたもの、大好きだ……。
映画としての出来がどうなのか、カット割や演技がどうというところは詳しくないのでわかりかねますが、女が好きな人は全員見た方がいいなという感じです。
誰もがキリコになる可能性を孕んでいるんですね。もちろん悪い意味でですが……。
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