魂のすがた(生後6ヶ月)
子育ての歌は刺身だな、と感じている。子どもとの時間は、とびきり新鮮で、とびきり美味しい。けれど、鮮度のあるうちに言葉にしてしまわないと、あっというまに古びていってしまう。
妊娠から出産までの間、当時の心境を文章で残しておこうと思っていたが、体調不良や睡眠不足で頭がまとまらず、出だしだけ書いては消してを繰り返し、おざなりにしていた。
しかし、歌人・俵万智さんの子育てについての歌を集めた「生まれてバンザイ」のまえがきに書かれていた上記の文章を読んで、出産して6ヶ月というこの節目に日に文章を書こうと思いたった。
娘が産まれて6ヶ月が経った。
海のような匂いをまとってお腹の中から出てきた小さな子。目も見えず、指も思い通りに動かせない、まだこの世に産まれたこともしっかりと認識できないまま、遠慮がちに泣いていた小さな赤ちゃん。
今や、よだれまみれの顔で笑い、哺乳瓶も自分で掴めるようになった。ほかほかご飯の匂いだったうんちも、パンチのある匂いで主張してくるようになったし、鼻くそをとろうとすれば不快さ全開で泣き叫んだりもする。
元々子どもは好きだった。だけど自分が「母親」になることは嫌でたまらなかった。自分がされて嫌だったこと、悲しかったこと、辛かったこと、それを子どもにしてしまって、辛い思いをさせるのが嫌だったから。
だけど、夫と過ごすうちに「この人との子なら」と思えるようになった。覚悟して妊娠をしたけど、それでも妊娠期間は辛かった。
食べづわり、げっぷづわりに加え、お腹の圧迫からくる腰痛やトイレが近いこと、お昼はとにかく眠いのに夜は腰が痛くて一睡もできない。妊娠後期になると胎動が痛すぎて泣いたこともある。それが半年近く続いたのは今までにない地獄だった。
もちろん、赤ちゃんに会えることは本当に楽しみで仕方なかったけど、どの週数でも会えなくなる可能性はあって、不安で不安でたまらなかった。
いつ生まれるのか、痛みがどのくらいか、といったことも怖かったので、私は予定日を決めて最初から麻酔を入れる「完全計画無痛」を選んだ。
出産に痛みが伴わないと愛情がどうのこうのと言ってくる人がいる(私も実際に言われた)が、実際は可愛いくてたまらないし、一緒に過ごせば過ごすほど愛は深まる一方だ。無痛分娩は痛みに支配されず、ある程度余裕を持って出産の瞬間に向き合えるので自分には合っていたと思う。
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話が逸れたが、娘が生まれて6ヶ月。
私も母になって6ヶ月。
親としての責任、なんてものはまだまだだけど、自分の命と子どもの命どちらかを選べと言われたら、子どもの命を最優先に選ぶだろう。
自分が1番大事だった私が、自分よりも優先したい存在がいるというのは、またなんとも不思議な感覚なのだけど、新しい世界や感情を子どもから学ぶことは、想像していたよりも面白い。
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なんにでも好奇心を持って、小さな指で色んなものを掴んでは口に含む彼女は、まるで彼女の魂そのものの姿をしている。
きっと3歳をすぎた頃からは、友達やたくさんの大人と関わって、親の預かりしらない場所で学んで、考え方や立ち振る舞いが変わってくるんだろう。
だけど、どんなに変わっても今この瞬間の姿が彼女の魂のすがたなんじゃないかと思ってしまう。
小さくて、可愛くて、好奇心旺盛。笑い上戸で、動きたがり、多分人よりもモノに興味がある。
こんなにも周りの大人に愛されたことを彼女は大きくなった時に覚えていないと思うと切なくなる時があるけど、彼女を愛おしいという感情は私のものだから、これからも大事に大事に育てたいと思っている。
photo by ぽんずさん