日本と海外の「レトロブーム」は価値観が真逆なのではないか?
日本と海外の「レトロブーム」は価値観が真逆なのではないか?
世界的にY2Kが流行し、音楽もどこか懐かしいサウンドを若いアーティストが作っていたり、沢山の懐かしいアニメが再アニメ化、実写リバイバルされたり。
レトロブームは今や世界中を巻き込んだムーブメントと言ってもいいと思います。
ですが日本のレトロのメディアの取り扱いにちょっと勿体無さを感じる。どこかか本質が逆流しているとも思われる点も。
そのことについて少し書いていきます。
レトロブームの火付け役は「Netflix」
まず、レトロな価値観が何故こんなにも再評価されているのか。
私はNetflixの影響が一番大きのではないかと考えています。
Netflixやhuru等は視聴環境さえあれば誰でも多くの古い作品に触れることができます。
映画には当時のファッション、音楽、話し方や生活、照明(ライティング)や思想に至るまで、フィクションとはいえど当時の魅力的な文化が詰まっています。
そこでちょっと気になってくるのが当時の価値観や差別意識。
なぜラブロマンスは白人ばかりなのか、女性は何故こんな役割なのか、このアジア人のイジリは目も当てられない……。
価値観が新しくアップデートされている若い人にとっては「まあ昔の作品だから…映像は素敵だし…」なんてモヤモヤした気持ちで視聴する機会も多いでしょう。
そこで登場したのが「ストレンジャーシングス」です。
”古くてちゃんとしている”「ストレンジャーシングス」
スティーブンキングやスピルバーグのレトロな雰囲気たっぷりに新しく作られたNetflixオリジナル作品「ストレンジャーシングス」
沢山の名作のオマージュ、魅力的なストーリー、当時の生活風景。
80年代が舞台なのに「いるいる、こういうやつ!」という普遍的な要素もたくさんあります。
…本当に普遍的でしたでしょうか?
実はこの作品「80年代作品の問題点」を沢山改善しつつ作られています。
囚われの姫役が男の子、戦う強い人物が女の子
持病のある子役が主役級を務める
"ダスティン役で知られる俳優のイテン・マタラッツォは、生まれた時から鎖骨が形成されず、頭蓋骨、顔の筋肉、そして歯の成長に影響を及ぼす鎖骨頭蓋形成不全症を患っていることで知られている。"引用元https://www.tvgroove.com/?p=30031血の繋がりが無い家族が多数登場
産みの親より育ての親に、絆(母性)がある。(デモドッグとダスティン等)(エイリアン2へのカウンター)
味方にクィアの人物が登場する
強いパパ(血縁関係)が全然出てこない
勿論上記の点をクリアしている作品は80年代にもありますが「全部クリアしている」作品は本当に少数のはずです。
例えば「フルハウス」は80年代ブームだった「50年代的家族観(女性がお化粧して家で家事、男性が仕事)」に真っ向から立ち向かった男性3人親の家族ドラマで、今見てもかなり倫理観がしっかりしていますが、所々にアジア人のステレオタイプがでたり、幼児の扱いに問題があったりします。
世界のレトロブームは「価値観の刷新」が重要
つまり、世界的なレトロブームの目的は価値観の刷新が重要になっています。
例えば古典的ディズニーアニメ作品のリバイバルでは「現在だと古い価値観」を新しくアップデートすることにより、堂々と「代表作」であり「新しい価値観を受け入れる企業」だということをアピールできます。
女性キャラクターが男性キャラに意味なく一目惚れしなくなったり、有色人種を重要なポジションに入れたり、ヴィランである「クルエラ」なども「嫌な女上司」を「ビジネスで成功したい女性」に再解釈し純粋な悪ではなく共感できるキャラクターとして再構築しています。
勿論価値観や倫理観は日々研究され移り変わっていくものなので、その時ベストでもすぐに古いものになってしまいます。その為何度もアップデートする必要があります。
2016年から長く続いているストレンジャーシングスも、シーズンが進むにつれより倫理観が改善がされていっています。恐らく次回は恋愛関係を他人に期待する描写が減ると思います。最新シリーズでもアセクシャルについての解像度が低すぎるので。
音楽や古着ブームでも「刷新される価値観」
レトロな雰囲気の音楽も新しい価値観、もしくは古い価値観への反発が反映されています。
古い雰囲気の楽曲で人気のミュージシャン「オリヴィア・ロドリゴ」もレトロな雰囲気に男性を中心としない恋愛観を歌ったり、日本のグループ「XG」の新曲もレトロな曲調にガールズグループに特有な恋愛を軸とた歌詞ではなく「嘘をつかないで、誤魔化さないで」というような社会に向けたメッセージを載せていたりします。
また、日本に特に多いファッション性を目的とした古着屋にも多少の移り変わりを感じます。
長らく主流だったヨーロッパ的なボディラインが美しいビンテージ、またそれに似せたデザインの現行品が減り、アメリカの「イケてない」「ナード的な」「子供っぽいプリントの」古着のお店もぐっと増えています。
これはボディニュートラルの流れも影響し、細くないと物理的に着る事ができないヨーロッパ系のお洋服は友達と合わせて着れないことが多く、同時にY2Kの流れでアジア古着、ギーク的な古着を求められる機会が多くなったためと思われます。
日本は「現状維持」リバイバルが多い
そこで日本ですが、折角のレトロブームにも関わらず「現状維持」リバイバルが主流のように思えます。
刷新されているのはほぼCG技術や撮影技術の技術面であり、ストーリーやキャラクターにテコ入れをしようという風潮はあまりありません。
(あるにはある!全てを確認している訳ではないですすいません。)
これはアニメだろうが子供向け作品だろうが現状ファンに大人が多く、「新しく見る子供のために改変」という意識が無い為でもあるとは思います。
それどころか、「昔は許されていた古い価値観」を大手を振って再生産できる事に価値を見出しているものも中にはあるように思います。
先程少し触れましたが、アメリカ80年代に、50年代の古き良き(と押し付けられていた)50年代的家族観(女性がお化粧して家で家事、男性が仕事)」の作品を※バックラッシュ的に量産した背景に似ているようにすら思います。
※バックラッシュ(人種やジェンダーなどの社会的弱者に対する平等の推進や地位向上などに対して反発する動き。)
若い方がレトロに感じる好きな部分は「絵柄や色味・手で作った質感」であって「古い倫理観を楽しめる」ことではないと理解していてほしいです。
「少女作品を少女に取り戻す」日本リバイバル
では後ろ向きなリバイバルしかないのか。
日本のレトロブーム、Y2Kブームは完全に若い女性が中心に引っ張っています。
まずレトロアニメのリバイバルの前に、若い女性のファッションや好むグラフィックの中でY2Kブームが起こっています。
いち早くレトロデザインのブームが起きたK-POPを追いかけるように、ポケモンパンが流行ったり、たまごっちが再度人気になったり、80年代の日本のおもちゃを集めたり、古い雑誌(もう刊行されなくなったzipperやKERA!など)をTikTokで紹介するのが流行りました。
音楽も「昭和歌謡」「古い映画」に詳しいことがもはやステータスのようになり、「存在しない青春の記憶」のように古いものを自分の思い出のように楽しんでいます。
そんな流れを汲み、ほんのちょっと上の世代の企業にいる女性が「レトロなグッズ」や「レトロなコラボカフェ」を企画したりしています。
「おジャ魔女コラボカフェ」や、「カードキャプターさくらカフェ」などです。(しかもおジャ魔女カフェは日本より韓国が先だった。)
推し活の経済的に大きなブームも完全に若い女性が中心になっている文化です。見落とされがちですが推しが「異性の人物・キャラクター」とは限らないのが重要な流れです。
昨今のレトロ漫画・アニメ作品の美術館等での展示ブームは確実にこの小物、文房具、カフェ、お菓子、といった小さな流行が大きな事業の後押しをしています。
(2008年の井上雄彦(スラムダンク作者)の上野の森美術館での展示とはまた潮流が違うように思う)
レトロアニメのリバイバルもその流れの筈ですが、どうしてか途中で「若い女性の視点」がコロン…と欠落しがちのように思います。
少女の頃好きだった少女アニメは大人の男性の性の対象だった地獄
そして、私が目を逸らしてはいけないと思う点があります。
インターネットを操れるのがまだまだ男性の大人が中心だった80年代。今でも無法地帯のインターネット界は今とはまた違う地獄の様相でした。
少女向けのアニメを犯罪性を含んだ表現で性的に消費する情報が溢れ、それがさも「面白いもの」のように扱われていました。
自分と同年代、そして共感していたアニメキャラクターが無数の顔の見えない大人に暴力を受ける状況をすぐそばで感じ、当時の少女たちはどれほど戦慄したか想像することしか出来ませんが、地獄ではあったでしょう。
私自身は10代前後は男の子向けの戦隊モノにしか興味がなくて実感としてはあまりピンとこないのですが、中高時代に流行ったおジャ魔女やその後のプリキュアを好きな成人男性がTVなどでもおもしろおかしく取り上げられていた様に記憶しています。これに10歳前後で意味もわからず触れていたなら少なからず困惑や恐怖があったのではないかと思います。
チャイドル(未成年アイドル)のブームと、そのチャイドルを性的に撮影するカメラマンの映像など今でも忘れられません。
大人になってからも働いていた会社で「カードキャプターさくら」の話になった時、アニメにさほど興味のない同年代くらいの女性が「知ってる、エッチなアニメでしょ」と言って社員みんなでびっくりした事もあります。(ちょびっツと混同してた可能性もあり)
あんなに優しくキラキラ輝いているアニメなのに、興味のない層にはそんな風に認識してしまっている人もいるのか…とやるせない気持ちになりました。
そんな影響もあって、90年代に流行したたまごっちに「おやじっち」というキャラクター、そして女子高生に興奮するという設定のたまごっちの「ハカセ(ほとんどおやじっちみたいな見た目)」が居たのは、大人の男性をなんだか情けなくて面白いものと思うことで心を守っていたのではないかと、最近思うようになりました。
そんな地獄の思い出を打破すべく、女性中心の推し活の流れで、ファッショナブル(おしゃれ)に、友達と一緒に、「自分のために作られたグッズ、グラフィック、空間で、少女アニメを楽しむ」という状況を「取り戻す」のがこのレトロアニメブームの根底にある大切な感情のように思います。
レトロアニメ・ドラマのリバイバルに切に願うこと
「少女アニメ」の思い出はトラウマの近くにあります。
少女アニメ以外、そしてもっと昔のアニメやドラマは人を傷つける倫理観と隣り合わせです。
どうか、そういう負の面を思い起こさせないように、誰もが気持ちよく楽しめるようにうまいことチューニングして生産されるように望みます。
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