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怒りと虚無感に落ち込んでるなら「マーベラス・ミセス・メイゼル」見よ?

マーベラス・ミセス・メイゼル(2017-2023)
amazonで見れるアメリカ50年代後半から始まるコメディドラマ。
女性が働く事さえ少数派だった時代に、スタンドアップ・コメディアン(1人でやる漫談芸人)として成功したい、既婚で子育て中の女性のドラマ。


おすすめ視聴状況
家族で見ても楽しいと思う。思うけど、女性だけ面白いって思うネタ多め。
食事中でも見れる綺麗な映像。婚姻や性生活に絡むような下ネタあり。
主人公はユダヤ教徒で宗教ネタも多め。
すごい可愛いセットだけどストリップ劇場が出てくるのでお子さんに見せたくない人は注意。

♡が3つで及第点。それ以下は懸念事項
総合:
♡♡♡♡♡(5)
ストーリータイプ
:女性が主人公のコメディドラマ。恋愛要素あり。家族コメディあり。
ストーリーのおしゃれさ
:♡♡♡♡♡
画面のおしゃれさ
:♡♡♡♡♡
音楽
:♡♡♡♡♡
制作者サイドの倫理観
:♡♡♡♡
明らかな差別表現はないけど、ガールズボス的価値観はちょっと古め。
アウティングすれすれの状況が何度かあり。
主人公が美し過ぎてルッキズム的な表現がたまーにあり。
注意点
・お子さん放置気味の主人公



「女性あるある」でコメディをする主人公ミッジ

今年ずっと多方面におすすめしまくっておりますミセスメイゼル、やっと視聴しきりました。だってシーズン5まであります。
現在2024年、11月。とんでもないアメリカ大統領が登場してしまって、ガクッと落ち込んだり虚無感に苛まれている女性や若い方、クィア自認してる皆様。
是非、マーベラス・ミセス・メイゼルを見てくだい。(もしくはamazonで見れるThe Power)

時代は1958年、舞台はニューヨーク。
裕福なユダヤ人の新妻として暮らすミッジ(主人公のミセス.メイゼル)は、コメディアンになりたい夫を支えながら完璧に美しい妻として暮らしていました。
しかし色々な事があり、泥酔した勢いでステージに登り「妻の本音」を話したところ大ウケ。
そのまま周りには内緒でコメディアンの道を進んでいきます。

『逆境を笑いに変えるのがコメディなら、女性の専売特許じゃない!』
みたいな台詞があった気がするどこかに。
そんな感じで日常の、上手くいかない事、腹が立った事、お堅い両親への愚痴や、夫・もしくは新しい彼氏のエピソードなんかの生活全てをコメディに変換してカウンターパンチを食らわせて行く。
このコメディシーン(スタンドアップのステージ)が本当に笑えるのでそれだけでもすごいドラマです。

やたらめったらモテるミッジの恋愛ドラマも見所ですが、おしゃれ大好きミッジの夥しい数の衣装(50年代、60年代の!)可愛い室内やカフェ。そしてそれらを彩る素晴らしい当時の音楽だけでも最高です。
台詞の掛け合いだけでも面白いので作業中にラジオみたいに視聴するのもおすすめですが、見逃したくない可愛い内装や衣装が沢山登場するのも悩ましいところ。

何度も成功を掴みかけるのに、男性たちの独壇場であるコメディ界・そして女性が不適切な発言をするだけで逮捕されてしまう時代なので何度も妨害にあってしまいます。(なんと出産の話をしただけでステージが出禁になる!)
成功している女性コメディアンは「ボディスーツで作った笑える容姿に、偽の田舎ネタ」という"周りに求められる偽物の姿"を演じていたり。
まさにガラスの天井。

そんな女性ならではの逆境に次ぐ逆境の荒波の中、社会を風刺するコメディでちょっとずつ成功していくミッジ。


ジェンダー観を学び直して行く高齢の両親

とりわけすごく沁みたのは、古い家族観、ジェンダー観の染み付いていた「古き良きご両親」が、娘(ミッジ)の活躍を間近で見るたびに、倫理観を学び直して行く事です。

母親は、夫の言うことは何でも聞いて、娘には結婚して家庭に入って大人しくしてほしい古風なタイプだったのですが、娘を見ていて昔は自分もパリでアートを学び自由に暮らしていたことを思い出し、何でも「夫のおまけ」のように扱われる現状に疑問を抱いていきます。

大学の教授でもある父親はひょんなことから昔から息子(ミッジの兄)ばかり気にかけて娘と向き合ってなかった事に気づきます。
本当に後半の話ですが、周りのインテリ友人(全員高齢男性)に「娘に気付かされた事」「反抗的だと思っていた娘が、実は自分の足で立とうとしていた事」について話しますが、どんなに丁寧に話してもその気持ちは全然伝わりません。その虚無感は胸に迫るものがあります。

家族がジェンダー観に疑問を持ち、自分らしく振る舞うことを取り戻せば取り戻すほど、「社会の歯車」から外れ、貧しくなったり、周りと衝突してしまって行くのも何とも言えない悲しさがあります。


男にしか見えないと言われる女性マネージャー。クィアの視点

外して語れないのが「敏腕マネージャー・スージー」です。
背が低く低所得、ガサツ、男か女かも分からないような容姿のスージー。
外見が女性的、お嬢様育ちなミッジとは正反対ですが、とっても馬が合う親友のような名物マネージャーがいます。

彼女がどのジェンダーに属するのかは、どうかご自身で視聴してみてください。

彼女の敏腕さは「女性的な遠慮が無い」「嫌がられても仕事を勝ち取る」「男性のコミュニティにズカズカ立ち入る(そこがゲイの秘密クラブでも)」と言う豪胆さなので、男性にしか見えないような風貌は彼女の武器でもあります。
そして「ミッジの芸風の一番の理解者」であり、何としてでも成功させるのを悲願にしている、健気としか言いようの無い働きをします。
頼もし過ぎる。私的には作中で一番幸せに平和に暮らしてほしい人物。



ちょっと古い「ガールズボス的価値観」

2023年に完結したシリーズとはいえ、制作開始は2017。
なのでちょっとフェミニズム表現が古いなと感じる部分があります。
それはガールズボス的価値観です。

ガールズボス的な価値観とはつまり『ダサい男性より、完璧な女性の方が仕事ができるに決まってる!』という考え方でもあります。
それはそうかもしれないけど、じゃあお仕事が苦手な女性は偉くないの?仕事という括りで評価されないと意味がないの?男性より上という二元的な基準でいいの?と言う疑問が浮かぶのが昨今の風潮です。
ミッジは美貌に自信がある賢い女性なので、賢くない女性や体型の良くない女性をディスる事がたまにあります。それはちょっと古いなって思います。

また良かれと思ってアウティングしかけるのも結構ハラハラします。
黒人ミュージシャンのアウティングなんて、ご時世的にも殺人に近しい行為だと思うので。



さいごに

おすすめしているエピソードがあります。

シーズン4、エピソード3の「すべてがベルモア」

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09MHLMYJD/ref=atv_dp_season_select_s4

この回にはスタンドアップシーンがないのですが、一話だけで何となく見れるし、可愛いシーン、美しいシーン、ストーリーがとても印象的です。

まずミッジが司会をしているストリップ会場のショーシーンから始まり、60年代的なカラフルで馬鹿馬鹿しいプラスチックボウルを売り込む可愛くも辛辣なシーン、洒落たカフェでのお見合い仲介、おしゃれして家族でオペラの観劇、そして突然の同居人の逝去に、お葬式での印象的なスピーチシーン。そしてユダヤ教のシナゴークでの喧嘩。
目まぐるしく入れ替わる状況に、楽しくもしんみりする美しい回です。

辛い状況でも勇気づけられる作品「マーベラス・ミセス・メイゼル」を是非ご鑑賞してみてください。


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