矩形断面・一般断面における等流計算
1.はじめに
(1)等流とは何か
等流(uniform flow)とは空間的に変化しない流れのことである.これはある流れにおける流速や水深が,流下方向に変化しないことを意味する.
開水路における流れの駆動力は重力のみである.自由落下に近いような急な勾配の水路では,水の流れが流下に伴い加速することは想像しやすい.次に理想流体を仮定しない現実の流れでは,流れを阻害する力が存在する.十分に広い平らな机の上で水をこぼしたら,最初は水が外側に広がるが,摩擦などの影響を受けやがて水は静止し水たまりとなるだろう.
以上のように開水路流れでは重力に起因する動こうとする力と,摩擦などに起因する止まろうとする力の作用を受けた結果,水は運動している.この両方の力が釣り合った流れが等流である.急な勾配でつるつるな水路では動こうとする力が卓越するため流れは加速し(図-1左),緩い勾配でざらざらな水路では止まろうとする力が卓越するため減速する(図-1右).等流(図-1中)は2つの力が釣り合っているため,加速も減速もせずに水が等速で運動する.また等流でない流れを不等流(non-uniform flow)という.
厳密にはどんな流れにおいても乱流などに起因した二次流が存在するため真の意味の等流は現実には存在しないが,等流を仮定すると実用上便利な場面は多い.
(2)等流公式の代表:マニング式
等流を表現する実験式は多く提案されている.ここでは河川分野で一般的に使われているマニング式を示す.
$${V=\dfrac{1}{n}R^{\frac{2}{3}} I^{\frac12}}$$
式-1 マニング式
ここでV:断面平均流速($${m/s}$$),n:マニングの粗度係数($${m^{-\frac13}s}$$)(有次元だが一般的に単位を表記しない),R:径深($${m}$$),I:勾配(-)である.
なお径深Rは断面積A$${(m^2)}$$と潤辺長S$${(m)}$$の比で,水深に対して川幅が十分に広い広幅断面では径深R≒水深hと近似できる.また開水路の等流では動水勾配=エネルギー勾配=水面勾配=水路床勾配であるため,ここではIを単に勾配と表現した.
2.矩形断面における等流計算
(1)広幅断面の場合
例として流量Q($${m^3/s}$$),幅B($${m}$$),粗度係数n,勾配Iの水路における等流状態の水深$${h_0}$$(等流水深)を求める場合について考える.
広幅な矩形断面であれば非常に簡単である.広幅を仮定するためRを$${h_0}$$と近似して,式-1のマニング式に$${Q=AV={h_0}V}$$を代入し整理すれば,等流水深$${h_0}$$は式-2で求められる.
$${h_0=(\dfrac{Q^2n^2}{B^2I})^\frac{3}{10}}$$
式-2 広幅矩形断面における等流水深
(2)広幅断面でない場合
広幅でない矩形断面の場合には,再度式-1を整理し等流水深$${h_0}$$は式-3で表せる.
$${h_0=(\dfrac{Q^2n^2}{B^{\frac{10}{3}}I}(B+2h_0)^{\frac{4}{3}})^{\frac{3}{10}}}$$
式-3 広幅でない矩形断面における等流水深
整理した結果,両辺に$${h_0}$$が登場する形で表された.式-3により$${h_{0}}$$を求めるには,まず右辺の$${{h_{0}}}$$に適当な値を初期値として代入し,計算された左辺の$${{{h_{0}}}}$$を再度右辺の$${{{{h_{0}}}}}$$に代入すればよい.この作業を$${h_{{0}}}$$が一定の値に収束するまで繰り返す,繰り返し計算により近似値を得ることができる.
3.一般断面における等流計算
(1)現実の河川は一般断面である
前章では矩形断面における等流計算について記載したが,現実の河川断面は四角形ではない.例えば中小河川では台形の形をした単断面(図-2左),大河川では河川敷(高水敷)部分を含んだ複断面(図-2右)を意識して設計されていることが多い.
さらに現実の河床部分は平ではなく,土砂移動に伴い起伏のある形状(図-3)を有している.本章ではこのような一般断面における等流計算の方法について記載する.
(2)計算の例
例として図-4のような一般断面において,等流計算により水位を求める場合について考える.なお流量Q($${m^3/s}$$),粗度係数n,勾配Iは既知とする.
早速式-1のマニング式を計算したいところだが,現時点で水位は未知であり,断面積A・潤辺長Sがわからないため径深Rを求められないことに気づく.水位を知るために計算しているのに,水位がわからないと計算できないというジレンマ,これを解消するには先に適当に水位を決めてしまえばよい!(図-5)
例えば水位をaとして,台形の各セルごとに水位がaのときの潤辺長S・断面積Aを求める.次にS,Aを断面全体で合計して式-1のマニング式に入力し,さらにQ=AVを使えば水位がaのときの流量が求められる.これによりある水位に対応した流量を求められるので,あとは与えられた流量に近づくまで水位を上下させればよい.
粗度係数nがセルごとに異なる場合には,合成粗度(式-4)を断面全体の粗度係数nとすればよい.
$${n=(\dfrac{Σn_i^{\frac{3}{2}}S_i}{S})^\frac{2}{3}}$$
式-4 合成粗度(添字iは各セルごとの値の意)
なお流量の計算に関して,各セルごとに小流量を算定しこれを合計することで断面全体の流量を求める方法も考えられる.①断面全体を一様に断面平均流速で流れると仮定するか,②各セルごとに異なる流速で流れると仮定するかで断面全体の流量の計算結果は異なる.おそらく①の方が小さい流量となるはず.どちらが正しいかという話ではなく,目的に応じた方法を採用するべきだと思う.
(3)一般断面等流計算Excelファイル
以下に一般断面における等流時の水位を求めるExcelファイルを添付する.横断面形状(左岸からの距離と標高がセットになったデータ)と粗度係数n,勾配Iを入力し,適当に水位を設定すればそのときの流量がわかるようにできている.
pythonを使える人にとっては,以下の記事のコードの方が有用かも
4.おわりに
ここまで矩形断面と一般断面における等流計算の方法について記載した.しかし実際の河川では等流を仮定できる場合は少なく,現在の河川計画では一次元不等流計算や準二次元不等流計算などが主流である.
しかし等流計算は簡易的な手法として,目的によっては非常に有用である.また高次元の不等流計算における境界条件に等流計算の結果が使われることもよくある.このように河川技術者にとって等流計算は必須のスキルである.
また実務においては,計算パラメータは自分で適切に推定する必要がある.
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