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合理式で河川のピーク流量を推定しよう


2023/7/16に公開した同タイトルの記事を誤って削除してしまったため,同内容の本記事を新しく公開します.

1.はじめに

 合理式とは流出解析法の1つで,比較的簡単に流量を推定することができる.本式はピーク流量のみを推定するものであり,ハイドログラフ(流量の時間的変化)を得ることはできない.しかしそれだけでも十分な場面は多く,重宝されている手法である.本記事では合理式の概念と,実際に任意の河川に適用する場合に必要なデータの入手・推定方法について記載する.

2.合理式

はじめに合理式を以下に示す.

$${Q=\dfrac{1}{3.6}f_prA}$$
式-1 合理式

 式-1より合理式の計算に必要なパラメーターは,降雨強度r($${mm/h}$$),流出係数fp(-),流域面積A($${km^2}$$)の3つで,いずれもピーク流量$${m^3/s}$$と比例関係にある.以降各パラメーターの推定方法を記載する.

3.降雨強度r

 降雨強度とは流達時間内における降水量のことである.流達時間とは流域(雨を集める地域の範囲)内の最遠地点に降った雨が,流量を求めたい地点まで流れ着くのにかかる時間である.流達時間という概念は合理式の理解に最も重要である.

図1 流達時間より短い時間の降雨では流量は最大とならない
図2 流達時間より長い時間の降雨では流量は最大とならない

 図1より,流達時間より短い時間しか降らない雨では,最遠地点に降った降雨が流量を求めたい地点に到達しない.よってこの場合には流量は最大とならない.
 図2に流達時間tと降雨強度rの関係の例を示す.両者の関係式は複数提案されているが,いずれも両者は負の関係にある.よって流達時間より長い時間かけて降る雨の強度は,時間平均すれば弱いため,流量は最大とならない.
 以上のことから流量が最大となる降雨の継続時間は流達時間である(と仮定する).よって降雨強度rを推定するには,流達時間tを推定する必要がある.ここで実河川における流達時間tの推定式として,土木研究所が提案した式を以下に示す.

都市流域 $${t=2.40×10^{-4}\dfrac{L}{\sqrt{s}}^{0.7}}$$
自然流域 $${t=1.67×10^{-3}\dfrac{L}{\sqrt{s}}^{0.7}}$$
式-2 土木研究所が整理した式

ここでt:流達時間(h),L:流域内最遠地点からの流路延長(m),S:流域内最遠地点からの平均流路勾配(最遠地点と流量を求めたい地点との標高差÷L)である.L,Sは地理院地図等で等高線から流域界(尾根線)を把握し,距離や標高を確認して計算すればよい.なお本式の適用範囲は,都市流域でA<10$${km^2}$$,S>1/300,自然流域でA<50$${km^2}$$,S>1/500とされている.

 降雨強度の推定式は多く示されているが,本記事ではフェア式を以下に記載する.

$${r_t^T=\dfrac{bT^m}{{(t+a)}^n}}$$
式-3 フェア式

ここでT:確率年(y),a,b,n,m:定数である.
 確率年TはT年あたりに1度降る程度の確率という意味であり,例えば河川の治水計画では5年~100年程度である.定数は地域によって異なる.
 フェア式を使った降雨強度を計算するプログラムとして,以下のサイトで公開されているプログラムが有用である.

 上記プログラムでは,1971年から2000年までのアメダスの観測降水量を使って定数を推定している.(やや古いデータであることに注意)使い方は簡単で,アメダス観測地点を指定した後に,流達時間(降雨継続時間)と確率年(リターンピリオド)の2つを入力すれば,降雨強度が出力される.

4.流出係数fp

 流出係数とは地表面に降った雨がどの程度河川への流出に寄与するかを示した無次元の係数で,0~1の値をとる.流出係数は地形や土地利用に依存する.表-1に本間・安芸$${^{1)}}$$に収録の,日本内地における洪水時の流出係数の例を示す.

表-1 流出係数の例

$$
\begin{array}{l|l} \hline
\text{地形・土地路用の状態} & \text{流出係数fp} \\ \hline
\text{急しゅんな山地} & \text{0.75-0.90} \\
\text{三紀層山地} & \text{0.70-0.80} \\
\text{起伏のある山地および樹林地} & \text{0.50-0.75} \\
\text{平らな耕地} & \text{0.45-0.60} \\
\text{灌漑中の水田} & \text{0.70-0.80} \\
\text{山地河川} & \text{0.75-0.85} \\
\text{平地小河川} & \text{0.75-0.85} \\
\text{流域の半ば以上が平地である大河川} & \text{0.50-0.75} \\ \hline
\end{array}
$$

 表-1の通り同じ地形・土地利用に対して流出係数の値には大きな幅があり,正確に合致した値を推定することは困難である.別途に流量の観測値などがあれば,その流量を再現するように調整した流出係数を用いる場合も多い.
 また一般に流域内の地形・土地利用の状態は1通りではないため,流出係数は土地利用ごとに面積で重みづき平均をとる場合が多い.

5.流域面積A

 流域面積Aの簡単な推定方法として,以下のサイト"J-FlwDir/日本域表面流向マップ"内の"Flow Accumulation Area / 上流集水面積"が便利である.

 ユーザー登録後にtarファイルをダウンロードし解凍すると,複数のgeotiffファイルが確認できる.QGIS等で対象エリアのファイルを開いた後,ラスタのベクタ化を実行し,対象地点の地物情報を表示した際の"DN"が対象地点より上流域の面積($${km^2}$$)を示す.表示される面積は1の位までである.
 なお上記データは地形データに基づいて作成されたものであり,平野部の河川などでは現実と大きく異なる場合がある.その場合にはGISやgoogleマイマップ等で流域界を判読しながらポリゴンでなぞり,面積を算出する必要がある.

6.おわりに

 本記事では合理式の概念の説明と,実際に使う際の各パラメーターの簡易な推定方法について記載した.実際に適用する際には計算の目的に応じて適切な方法をとるべきである.
 合理式はその使いやすさが特徴で,河川の他に下水道や道路の分野でも使用されており,土木技術者にとって必須のスキルである.

参考文献

1) 本間仁,安芸皎一:物部水理学,岩波書店(1962)
*なお上記文献に収録の流出係数は,"物部長穂:旧版水理学,岩波書店(1933)"の引用である.しかし本書は入手困難であるため,本記事は孫引きに当たる.

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