電験3種 2021年度 理論 問13 電界効果トランジスタの等価回路
電界効果トランジスタ(FET)の等価回路に関する問題です……が,与えられた等価回路にオームの法則を当てはめるだけで解けます。
(前提1)電界効果トランジスタ(FET)とは
電界効果トランジスタ(FET)はトランジスタの一種です。名前の通りですね。電界効果じゃないただのトランジスタ(バイポーラトランジスタ)と同じく,3本の端子を持ち,電気を増幅することができます。
2種類のトランジスタの違いは,バイポーラトランジスタはベースB・コレクタC・エミッタEの3端子を持ち,ベースに電流を入力して出力電流を制御するのに対し,FETはゲートG・ドレインD・ソースSの3端子を持ち,ゲートに電圧を入力して出力電流を制御します。
ざっくり言うと,ドレインDとソースSの間に適切な電圧をかけておき,ゲートGとソースSの間に電圧Vgs [V]を入力すると,入力電圧に相互コンダクタンス(増幅率みたいなもの)gm [S]をかけたgm×Vgs [A]の電流がドレインからソースへ流れます。
(前提2)FETの等価回路
FETは,ゲートとソースの間に電圧を入力すると,入力電圧に比例した電流がドレインからソースへ流れるものでした。この性質からFET内部の等価回路を描くと下図の緑色のようになります。
なんとFETの等価回路の内部では,ゲート端子はどこにもつながっていません。つながってはいませんが,ゲート・ソース間の電圧Vgs [V]に応じてドレイン・ソース間の電流源の電流(gm×Vgs [A])が変化するようになっています。電流源は理想通りの電流源ではなく,内部抵抗rd [Ω]が並列につながっています。
ここでFETから出ているゲート端子とソース端子に入力信号Vi [V]をつなぎ(橙色),ドレイン端子とソース端子に外部抵抗RL [Ω]をつないで,外部抵抗の両端の電圧Vo [V]を測るようにすれば(赤色),ソース接地増幅回路の等価回路のできあがりです。
(何をすればいいか)
電圧増幅度,すなわち出力電圧の入力電圧に対する比
Av=| Vo / Vi |
を近似する式を求めます。
絶対値記号がついている理由は(蛇足1)にまわし,細かいことは気にせずVoやViをそれぞれ電圧の大きさと解釈して,
Av=Vo / Vi……⓵
を求めればいいです。選択肢で使われているgm [S], rd [Ω], RL [Ω]を用いてAvを表すということです。
「近似」もとりあえず置いといて,近似せずに求めて最後に近似するか,途中で式が複雑になって計算が大変になったら近似することにしましょう。
(入力電圧)
まずは⓵式のうち,入力電圧Vi [V]を他の文字を使って表してみます。
回路の左側に注目すると,ViとVgsは同じところの電圧です。つまり,
Vi=Vgs……②
になります。
(出力電圧)
次に,出力電圧Vo [V]を他の文字を使って表してみます。②式でVgsが出てきているので,最終的にVoもVgsの式で表せれば⓵式で約分ができてうれしいですね。
回路の右側に注目すると,FETの外部につないだ抵抗RL [Ω]の両端に電圧Vo [V]がかかっているので,RLに流れる電流をIR [A]とするとオームの法則(しっくりこない人は(蛇足2)参照)により,
Vo=RL×IR
IR=Vo / RL……③
FET内部の抵抗r_dに流れる電流をI_r [A]とすると,同様にして
Vo=rd×Ir
Ir=Vo / rd……④
電流源からの電流gm×Vgs [A]は,rdとRLに分かれて流れる(回路の左側とは1点でしかつながっていないので流れません)ので,
gm×Vgs=IR+Ir
③と④を代入して,
gm×Vgs=Vo / RL+Vo / rd
gm×Vgs=Vo×(1/ RL+1/ rd)
gm×Vgs / (1/ RL+1/ rd)=Vo
Vo=gm×Vgs / (1/ RL+1/ rd)
Vo=gm×Vgs /{(rd+RL)/(RL×rd)}
Vo=gm×Vgs×(RL×rd)/(rd+RL)……⑤
(電圧増幅度)
②でv_i,⑤でv_oがわかったので,これらを⓵に代入すると,
Av=v_o / v_i
=g_m×v_gs×(R_L×r_d)/(r_d+R_L)/ v_gs
=g_m×(R_L×r_d)/(r_d+R_L)
となります。これがこの等価回路における厳密な電圧増幅度です。
(近似)
……が,選択肢にこの式がありません。
ここで登場するのが,問題文の最後にある「抵抗rdは抵抗RLに比べて十分大きいものとする」という条件です。
rdがRLに比べて十分大きいとき,rd+RLはほとんどrdに等しくなります。rdが10000だったら,RLが1(和は10001)でも,RLが0.1(和は10000.1)でも大して変わんないですよね。なので,
rd+RL≒rd……⑥
と考えることができます。
一方,RL×rdはRLの影響をモロに受けます。rdが10000のとき,RLが1なら積は10000ですが,RLを0.1にすると積は1000になってしまいます。なので,こちらのRLは無視することはできません。
よって,⑤に⑥を代入すると,
Av=gm ×{RL×rd /(rd+RL)}
≒gm ×{RL×rd /rd}
≒gm ×RL
となるので,答えは⓵です。
(蛇足1)電圧増幅度の絶対値記号
電圧増幅度の式に絶対値記号がついています。これはどういうことでしょう。
FETのゲートにプラス(ソースより高い)の電圧を入力すると,その電圧に相互コンダクタンスをかけた電流がドレインからソースに流れます(下図の水色矢印)。ここで重要なのは,この電流はFET 内部の電流,すなわちドレイン端子からFETを通ってソース端子に流れるということです。
外部でドレイン端子とソース端子に抵抗RLをつなぐと,ソース端子から外部抵抗RLを通ってドレイン端子に電流が流れます。抵抗のソース端子側の電圧が高い状態です。等価回路のVoはソース側を基準として(電圧が低い方と見なして)定義されているのでマイナスになります。
入力がプラスなら出力はマイナス,入力がマイナスなら出力がプラスの状態になるので,これを反転増幅といい,このままだと電圧増幅度がマイナスになります。別にそれでもいいのですが,わかりやすくするため絶対値を取っているということです。
(蛇足2)オームの法則は因果関係ではない
「FETの外部につないだ抵抗R_L [Ω]の両端に電圧Vo [V]がかかっているので,RLに流れる電流をIR [A]とするとオームの法則により」と書きました。
ここで「電圧Voは別に電池をつないだわけでもないのに,その電圧によって電流IRがながれるの??」と思った人がいるかもしれません。
これに対する直接の答えは2つあって,
⓵「電流源が(抵抗rdの分も含めて)電流gm×Vgs [A]を流すために,たまたま電圧Voを出力していて,その電圧で抵抗に電流が流れる」
②「抵抗には電流源により電流IRが流れていて,その結果抵抗の両端に電圧Voが発生している」
これらは2つとも間違ってはいません。が,オームの法則の本質は,
「ある抵抗Rに着目したとき,抵抗の両端の電圧Vと抵抗に流れる電流IにはV=RIの関係がある」
ということです。
⓵のような電圧⇒電流の因果関係でも,②のような電流⇒電圧の因果関係でもなく,電圧⇔電流の相関関係というのが本質です。
抵抗RLがある。抵抗の両端に電圧Voがかかっている(その電圧が何によって発生しているかは問わない)。抵抗を流れる電流はIRである。そのときVo=RL×IRが成り立つ。これがオームの法則の全てです。
このことを理解していると,複雑な回路でも部分部分にオームの法則を適用して解いていくことができます。